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Tuxedo @Billboard Live TOKYO(20230301)

 さまざまな仕掛けで堪能させた、ディスコフリーク歓喜の宴。

 メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンによる人気プロジェクトのタキシードが2019年以来に再来日。前回の来日公演(記事→「Tuxedo@Billboard Live TOKYO」)では帯同していなかったギャヴィン・トゥレクが復帰したほか、クリフトン・マキシー・ジュニア、ノエ・ドロリゲス、ベンジャミン・デンプスという新メンバーをバンドに迎え、2023年版に新調した“タキシード”として、ビルボードライブ東京にファンキーなグルーヴを巻き起こしていった。

 メイヤー・ホーソーンは白のジャケットにブラウンのパンツ、白のエナメル靴という衣装に対し、ジェイク・ワンはブラウンのダブルボタンジャケット、白のパンツ、ブラウンの靴という互い違いのコーディネートで、顔だけだとナードで野暮に見える二人が、フォーマルに愉しさをもたらす装いを着こなす洒脱さが彼ららしい。ギャヴィン・トゥレクは天井に吊るされたミラーボールよろしくキラキラ光るシルヴァーのドレスというおなじみのいで立ちだ。バンドは左からキーボードのクリフトン・マキシー・ジュニア、ドラムのベンジャミン・デンプス、ギャヴィン・トゥレクを間に挟んで、黒いハット姿のベースのノエ・ドロリゲスが配され、左にメイヤー・ホーソーン、右にジェイク・ワン、ステージ中央にはこれも彼らのライヴでおなじみの「HO!」ボタンが置かれている。

 タキシードの二人は音楽においてはオタク的気質もあるゆえ、楽曲を単に演奏するのではなくて、さまざまなアレンジやネタを仕込むなど、愉しむこと、踊らせることを最大のコンセプトにしているところが、人気の理由のひとつでもあるだろう。イントロダクション・トラック「タキシード・ホー!」から「プエルトリーコ〜、ホ〜」のフレーズで知られるラテン・フリースタイル/ハウスのプロデューサーのフランキー・カットラスのビートナッツ系ラティーノ・ヒップホップ「プエルト・リコ」をネタ使いしたのを皮切りに、中盤の「ソー・グッド」ではベル・ビヴ・デヴォーのニュージャックスウィング・クラシックス「ポイズン」のドラムビートを敷きながら、曲の終盤にトニーズ「フィールズ・グッド」のセクシー・コーラス・パートをギャヴィン・トゥレクに歌わせる。

 ミラーボールが光り、軽快なカッティングギターが心地よく鳴るディスコ・クラシックス、シック「グッド・タイムス」の恒例カヴァーはもちろん、「アイ・ライク・イット」といってもデバージの代表曲ではなく、80年代英・ロンドン郊外ミドルセックス出身のブギー・ファンク・バンド、イントリーグのデビュー曲となるモダン・ダンサーや、米・ロサンゼルスを拠点とするマルチクリエイターのジョージア・アン・マルドロウの両親、ロン・マルドロウとリッキー・バイアーズ・マルドロウの夫婦デュオのシュミーズの唯一と思われる1982年のシングル「シー・キャント・ラヴ・ユー」といったモダン・ディスコなどをカヴァーするセンスが、彼ららしい(ディスコ/ブギー好事家でなければ、あまり知らない曲なのでは)。

 そもそも「ナンバー・ワン」がスヌープ・ドッグ&ネイト・ドッグによるレイドバックなウェッサイ・クラシックス「エイント・ノー・ファン」のリメイクだったりもするから、楽曲に何かしらのアクセントを加えて(アップデートしようというよりは)遊んでしまおうという精神が、選曲やアレンジのそこかしこからも感じられる。前述の「シー・キャント・ラヴ・ユー」は、ギャヴィン・トゥレクがソロ・ヴォーカルを執ったのだけれど、トゥレクが腰をかがめてフロア最前席の観客を誘うような仕草で妖しげで甘いムードを醸し出したかと思えば、メイヤー・ホーソーンがとぼけたような「アハー、ノーノー」のコーラスを観客に求めて、トゥレクの甘いヴォーカルにクラップと「アハー、ノーノー」のコール&レスポンスが重なりフェードアウト。大きな歓声が沸き起こった。

 「OMW」「ローテーショナル」「ファックス・ウィズ・ザ・タックス」といった人気曲においても、曲への繋ぎにキャッチーなフレーズを組み入れてシームレスに橋渡しして、ヴォルテージとグルーヴの熱量を高め、踊らせることを飽きさせない。

 本編終盤は、イングラムの「ウィ・ライク・トゥ・ドゥ・イット」(ドラムビートがほんのりシーラ・E「ラヴ・ビザール」あたりを思わせたりも)からザップ&ロジャーの「ドゥ・イット・ロジャー」を経て、タキシードの代表曲「ドゥ・イット」へと雪崩れ込むという“ドゥ・イット”縛りでクライマックスへ。イングラムは、“クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子”として知られるジェイムス・イングラムではなくて、シンガー・ソングライター/マルチ奏者のジェイムス・“ジミー”・イングラムを中心とした米・ニュージャージー州カムデン出身のイングラム・ファミリーのグループ。これも1983年と80年代の楽曲で、レトロモダンなムードをあくまでも軽快かつ洒脱に魅せることに特化したアティテュードが絶妙。「ドゥ・イット」が始まると(ここでもギャヴィン・トゥレクがモンテル・ジョーダン「ディス・イズ・ハウ・ウィ・ドゥ・イット」と“ドゥ・イット”がらみのフレーズを口ずさんでいた)、ステージバックのカーテンが開き、六本木・乃木坂の夜景の光が窓越しに射し込むなかで、観客が大いに腰を揺らせる、享楽で愉悦な空間を見事に創り出していった。

 アンコールは、こちらも毎度おなじみとなるメイヤー・ホーソーンの「ヘニー&ジンジャーエール」。メンバーそれぞれがグラスを掲げてステージインし、メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンが「チアーズ!」と観客たちとともに宴の祝杯をあげる。この日は「ヘニー&ジンジャーエール」のアウトロに「ドゥ・イット・ロジャー」を加えたアレンジでのエンディングとなった。

 ファンキーかつキャッチーなブギーで踊らせて、あっという間の70分。初来日のバンドメンバーの演奏も、一層音に厚みとグルーヴをもたらしていて、タキシードの二人のステップを軽やかにすることにしっかりと貢献していた。
 享楽のグルーヴに揺れ、タキシードのサウンドに心酔した観客たちの喧騒は、しばらくは終わらず。その光景がこのステージの充実を端的に物語っていたといえそうだ。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION~Tuxedo Ho!(Mashup of "Puerto Rico" by Frankie Cutlass)
01 This Is 4 You(Original by The System "This is for You")
02 The Tuxedo Way
03 Number One
04 Shy(Original by Tuxedo with Zapp)
05 drum solo~Doin' My Best
06 You & Me
07 2nd Time Around
08 Vibrations
09 So Good(include riff of "Poison" by Bell Biv DeVoe, and outro phrase of "Feels Good" by Tony! Toni! Tone!)
10 The Right Time 
11 On A Good One
12 Good Times(Original by Chic)
13 I Like It(Original by Intrigue)
14 Get The Money(Original by Tuxedo feat. CeeLo Green)
15 She Can't Love You(Original by Chemise)
16 OMW(On My Way)(Original by Tuxedo feat. Leven Kali & Battlecat)
17 Rotational
18 Fux with the Tux
19 We Like To Do It(Original by Ingram)
20 Do It Roger(Original by Zapp & Roger)
21 Do It(include phrase of "This Is How We Do It" by Montell Jordan)
≪ENCORE≫
22 Henny & Gingerale(Original by Mayer Hawthorne)~Do It Roger

<MEMBERS>
Tuxedo are:
Mayer Hawthorne(vo,b)
Jacob Brian Dutton a.k.a. Jake One(vo,key)

Gavin Turek(vo)
Clifton Maxie Jr.(key)
Noe Rodriguez(b, syn b)
Benjamin Demps(ds)

Tuxedo Band

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【Tuxedo/Mayer Hawthornのライヴに関する記事】
2010/02/27 MAYER HAWTHORNE & THE COUNTY@Billboard Live TOKYO
2011/11/16 Mayer Hawthorne@Billboard Live TOKYO
2016/01/06 Tuxedo@LIQUIDROOM
2017/08/17 Tuxedo@Billboard Live TOKYO
2018/07/17 Tuxedo@Billboard Live TOKYO
2019/11/07 Tuxedo@Billboard Live TOKYO
Tuxedo @Billboard Live TOKYO(20230301)(本記事)

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