迷惑ばかり考えて

　私は生まれる時代を間違えたらしい。今なら「性同一性」という言葉があります。しかし、私の生まれた時代には、そのような言葉はありませんでした。私はありのままで生きるのを禁じられ、主語さえ「私」と言うのを禁じられました。「僕」か「俺」の選択肢。とても残酷でした。

　それでも、私はやはり「私」であって、話す言葉は女性でしたから、それが、誰の迷惑になったのか考えたとして、迷惑をかけたのは身内だったのではないでしょうか。その時代にそぐわなかったとしても、家族の支えは必要だったのではないでしょうか。しかし、私は生まれから幸せなものではありませんでしたから、養父母にそれを求めることさえできず、一族から外されたのです。

　生きる申し訳なさ。それが私に植え付けられたのです。呼吸をすることは許されても、「私」として生きるのは許されなかった。

　今なら、誰の許しを乞うこともないでしょうが、私は生きることを否定されたような気がして、ただ自分を責めるばかりでした。こうして、誰かに伝えることが、本来の自分であっても良いと言う私の役目かもしれません。

　性別。たったそれだけで無能と思われた私。でも、今なら、あの頃の私に、「大丈夫」と言ってあげたいです。その分、強くなれたのは確かですから。私は誰にも迷惑をかけては生きていません。今はそう言い切ることができます。