絶滅危惧動作「押し屋」
薮本晶子さんの『絶滅危惧動作図鑑』を読んでいて
あるページで手が止まった。
「通勤電車の押し屋」
朝夕の通勤ラッシュ時など、電車に人が乗り切れない時に押し込む駅員
の動作…
「プッシュマンだ・・・」
「通勤電車の押し屋」のことを
当時、私と弟は家で「プッシュマン」と呼んでいたのだ。
最近は車通勤なので、すっかり電車事情はわからないが
「押し屋」は絶滅危惧なのか...?
と言うより「押し屋」とは
今考えると、何とも信じられない仕事だ。
キャパオーバーの電車に、乗り切れない人を
人力を使って押し込もうなど
そもそもの発想が原始的すぎる。
当時「押し屋」は、沿線の主要駅の
ホームの停車位置に1人ずつが配置されていた。
私は、車内から見ている側だったが
大勢の人が殺気立っていた様子を
今でも覚えている。
栄養ドリンクのCM「24時間働けますか?」
働くことが最優先だったあの頃
誰も疑うこともなく毎日通勤ラッシュの電車に
文字通り押し込められていた。
そう考えると
あれから30年が経ち
働き方も多様になり、テレワークも増え
新卒者は「勤務先が遠い」と内定を断わってしまうなど
時代は変わった。
この30年は「失われた30年」と呼ばれたが
奇しくも、日本経済の停滞は
日本人のサラリーマン精神を、解きほぐしたのではないか。
働くことに、がむしゃらだった日本人が
経済の停滞を機に
生き方としての人生を、模索しつつあるように感じられる。
その時代を生きている時には、違和感をもつことなく
大真面目にやっていたことも
時が変われば、人の目に奇妙に映るということを
この本は教えてくれた。
「押し屋」について調べてみると
ホームドアが増加している今でも、身体の不自由な方への対応などへ
形を変えて存在していたり、いなかったり…するらしい。
このように
「押し屋」自体は、絶滅危惧種ではあるが
枝分かれして、進化している種も
現在、確認されている。
8月の課題『絶滅危惧動作図鑑』からのエッセイでした。
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