「アベノミクスの7年半で日本は「米国並み」から「韓国並み」になった」  2021/11

 3年前に野口悠紀雄教授が経済誌に投稿された内容を紹介したい。その時読んで、実に正鵠を射ている内容だと思っていたものだったが、現在の状況は全くその通りになっている。教授が検討したデータは2020年までのもので、今ではさらにその傾向が進んでいる。
 
 
「アベノミクスの7年半で日本は「米国並み」から「韓国並み」になった」 2021/11
  野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)
 日本の賃金や1人当たりGDP(国内総生産)は、アメリカの6割程度と低い水準だ。表面的に見ると、アメリカの成長率が高かったのに対し日本が成長しなかったことが原因だ。しかし、本来は為替レートが円高になって、この差を調整したはずだ。
“円安政策”を取ったことが日本を貧しくした基本原因だ。
 日本の賃金が安いことが問題になっている。OECDの賃金データで見ると、2020年に日本の平均年収が3万8514ドル。これはアメリカの6万9391ドルの55.5%だ。
  20年の1人当たりGDPは、日本では4万146ドルであり、アメリカの6万3415ドルの63.3%だ。
  とくに賃金が低水準なのは由々しき問題だ。
 岸田文雄政権は「成長と分配の好循環」を掲げ、近くまとめる経済対策でも賃金を増やした企業の税を軽減するなどの「賃金引き上げ策」を盛り込むという。だがそれで効果があがるのかどうか。
 まずはなぜこうなったのかを明らかにする必要がある。
アベノミクスの期間に、日本の地位が急低下した。
 賃金やGDPの問題でよくいわれるのは、過去20年以上にわたって日本がほとんど成長しなかったことだ。それに対して、世界の多くの国で経済が成長した。「このため、日本が取り残された」と言われる。
 以下では、このことが正しいのかどうか検討を進めよう。
 まず、1人当たりGDPについて考えよう。
 2000年に、市場為替レートで換算した1人当たり名目GDPは、アメリカが3万6317ドル、日本が3万9172ドルであり日本が8%ほど高かった。
 ところが、その後の成長に大きな差があった。00年から20年の間に、自国通貨建て1人当たり名目GDPは、日本では422万円から428万円へと1.4%しか増えなかったのに対して、アメリカでは3万6317ドルから6万3358ドルへと74.5%も増えた。
 他方、市場為替レートは、00年も20年もほぼ105円~110円程度であまり変わらなかった。
 このために、市場為替レートで換算すれば20年に日本はアメリカの63%になったということになる。
 以上で見る限り、日本が貧しくなった原因は日本の成長率の低さだということになる。
 『「韓国並み」から地位がさらに低下する懸念』
 こうして、日本の地位は、円安政策を取り続けたアベノミクスの期間に急激に低下した。
 それに対して韓国では、2000年から20年にかけて自国通貨建て1人当たり名目GDPが1386万2167ウォンから3733万3541ウォンへと2.69倍にもなった。13年から20年だけをとっても、25.4%増加した。
 これによって、韓国は世界経済における地位を高めたのだ。韓国の1人当たりGDPは 直近では世界で29位(日本は第24位)だ。
 こうして「日本がアメリカ並みから韓国並みへ」という変化が起きた。
「韓国並み」が続けばよい。しかし、これまでのトレンドが続けば、韓国と日本の差は拡大していくだろう。
 日本は近い将来に台湾並みになり、マレーシア並みになる。そこで止まらず、インドネシア並み、ベトナム並みになるのもそう遠い将来のことではないかもしれない。

 
 たしかに教授の云う「円安は労働者に還元されず、生産性を高めることにもつながらなかった」という事実が、今の日本の現状に繋がっているのだろうことは明白だと思った。 
 日本の企業は円安で得た利益を賃金に反映させず、ひたすら内部留保の金額を増大させていったのだ。そして、円安に胡坐をかいて、技術力を高める努力、新たなビジネスを開拓する熱意をなくしていった結果、今があるのだ。
 そして、今年の最新データでは、一人当たりのGDPランキングにおいて、日本は世界38位、韓国は35位、台湾に至っては34位になっている。教授の予測は悲しいことに見事に当たっている。
 

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