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「高校生の居場所」に関する行政視察や調査で受ける質問にテキストで回答してみた

福島県白河市の高校生びいきのカフェ「コミュニティ・カフェ EMANON」を運営している中で、「高校生の居場所」「地域探究活動」について、お尋ねを頂いたり、お話をしてほしいというリクエストを受けることがあります。

たとえばこれまでに、こんな地域の方とお話ししたよ…ということを一覧にしてみたのが上記のGoogleマップです。

つい最近も、東京都府中市さんから誠実なお問い合わせを受けたのですが、今回のお尋ねがテキストとリモート質疑での問合せだったので、ある程度わかりやすく事業の経緯や2023年度現在の課題を言語化する機会になりました。

行政向けの回答なので少々お堅めに、しかし非常に現実的な部分を言語化しています。せっかくなのでnoteにして、公開したいと思います。


Q.設置にあたり、白河市など公的機関の関与があったのかご教示ください。

2012年度〜2015年度に任意団体Shirakawa Weekとして行っていた地元中高生のための学習支援や体験学習機会の提供、及び市長と若者のシンポジウムなどを通じて、行政と団体双方が市内高校生の課題や、先進事例について情報交換を行った。シンポジウムでは、教育社会学におけるローカルトラック論、鯖江市役所JK課の事例、国立大学文系廃止論などを議論。2014年度末に、単発ではなく継続性ある高校生に対する地域社会参画支援の手段として「居場所の整備」が論点となり、2015年度の地方創生先行型予算の活用を図って、事業主体・白河市、委託団体・EMANON準備室の体制で事業を行うこととした。

Shirakawa Week時代の高校生&市役所職員による白棚線ツアーの様子

Q.物件をどのように選定されたのか、また古民家の改修費等の負担主体についてご教示ください。

2015年度当時、白河市企画政策課とEMANON準備室(任意団体/代表:青砥和希)にて事業に適切な物件を選定した。

選定基準として、市内2つの普通科高校から徒歩圏であること、JR白河駅に近い中心市街地であること、城下町の歴史らしい建物であること、空き家であることを設定し、結果的に白河市の空き家バンクに登録されていた、東日本大震災以前から空き家になっていた不動産会社の所有物件を活用することとした。

古民家の改修費については、福島県が各市の商工会議所を通じて申請を受け付ける空き家回収補助金を活用し、不動産会社が申請主体となる形で工面した。不動産会社にとっては、借り手の付いていなかった物件に付加価値を付与することを理解いただき、借主となる予定の団体の意向を可能な限り汲んだ改修計画を実施いただいた(約1,000万円程度)。また、初年度の委託費(総額600万円)のうちの5割程度を、改修(床材・壁材の調達)や什器の設置(椅子・テーブル・キッチンのデザイン及び施工)に充当している。


改修前のEMANON外観

Q.施設設置による中高生への影響や、周辺地域への影響があればご教示ください。また、利用者の満足度について分かる範囲でご教示ください。

高等教育機関のない地方都市に立地しているため、高校卒業後のキャリアを相談する身近な大人として、スタッフが生活や学業、進路の相談にのっている。

運営初年度〜2018年度の間、主に施設の改修や、地域の情報冊子の制作といったPBL(プロジェクトベースドラーニング)の機会を提供することを通じて、社会教育の機会提供を図った。おおむね2019年度以降は、高校生が主体となって地域活動を行う探究学習(マイプロジェクト)を行うという施設の役割を明確化し、活動の立ち上げからまとめ・発表まで、高校生の地域活動の伴走支援を行うこととしている。地域探究活動を通じて、農村地域での商品開発や情報発信、鉄道ジオラマの制作、防災キャンプの実施、写真展の開催、ろう者と健常者のインクルーシブな場づくり(手話カフェ=2021年度全国高校生米プロジェクトアワード文部科学大臣賞受賞)など、多彩な地域活動が生まれ、地域住民の参画と高校生の参画が両立している。

高等学校とは正式の連携協定はないが、各種の授業で外部講師として招聘の実績がある他、教員から生徒を紹介する、教員向けに講話を行う、などの動きがある。団体代表は福島県第7次教育総合計画策定のための懇談会委員及び福島県教育委員会 学びの変革推進アドバイザーを務めている。

行政との関係では、高校生と市長の対談や、現在検討している複合施設の市民ワークショップに高校生が参加するなど、EMANONの存在によって若年人口と行政の接点が生まれている。市生活防災課の市民活動助成金の高校生枠の創設、大学生のゼミ活動等への補助制度(市企画政策課まちラボ事業)の創設などもEMANONの実践から生まれている。

商店街・町内会等とは正式の連携はないが、同町内の公園の魅力化プロジェクトをまちづくり会社(楽市白河)と合同で行うなどの動きがある。
利用者の満足度については、利用者登録(会員証登録)を行った利用者であっても、一見さんになるもの・リピーターになるものとの判別が難しいことから、ここまでアンケート等は行っていない。
メディア掲載として、NHK Eテレ、テレビ朝日、日本経済新聞、河北新報、東京新聞、その他福島県内すべてのTV・ラジオ・地元紙への掲載実績があり、白河市の存在をPRしている。

複合施設基本設計の市民ワークショップ 高校生の部の様子

Q.施設運営にあたり、スタッフの確保など運営体制をどのように構築されているのかご教示ください。

スタッフの確保は課題が多い。要因として、市内に大学が存在しないことから、大卒の新卒世代を雇用するためには移住を伴い、生活環境の改変を受け止め、全人格的な関わりが要請される。また、白河市からの委託費(756万円)が2018年度以降横ばいとなっていることから、継続雇用する職員がキャリアプランを描きづらく、離職の原因になっている。同様の理由で、社会人経験のある転職者を雇用することも困難になっている。自主事業としてその他の自治体との事業(高校魅力化事業、高校生向けワークショップの設計など)もおこなっているが、スタッフが複数の事業を兼務することはより高度な職能が求められることから、単独事業でキャリアプランを描ける体制・体系が望ましいと要望しているが、今年度まで課題が残り続けている。
常時2名体制の勤務体系を取ることで、スタッフ同士が相互にフィードバックする体制を取っている。また新規雇用スタッフに対しては、代表や初年度から関わる職員による研修・OJTを行っている。

2022年度末卒業(?)スタッフ

Q.大学生の施設利用は有料でしょうか。また、高校生・大学生・その他一般利用者の利用者数の比や、利用頻度(新規利用かリピーターか等)、利用目的など、利用実態についてご教示ください。

大学生に関してはグレーだが、施設が最優先している設置目的(=高校生の居場所・地域活動拠点)からワンオーダーとしている。中学生の利用も一部見られるが、保護者の引率や会計ではなく、自身の意思で利用するケースのみを無料としている。ただし実際には、打合せ名目等で来店することも多いため、無料で使っているケースもある。
利用者数集計は下記のとおりである。訪問者数は喫茶機能を利用しないもの(打合せ・視察見学等)を指している。ただし、学生利用者数には高校生以外の中学生・大学生を含む。(学生種別ごとの集計は今年度から収集予定)

EMANON 利用者数集計(速報値)

高校生の利用目的は、自習・おしゃべり・相談・活動の打合せなど。
一般利用者は一般的なカフェと同じような活用をしているが、地域住民同士の交流会などを他事業で行うこともあるため、大人のコミュニティ交流施設としての実態もある。

白河市出身大学生による「卒論発表会」

Q.高校生の活動を支援するための費用は、カフェ収益のみで賄われていますでしょうか。そのほかの収入・収益等を活用されている場合は、差支えない範囲でその内容についてご教示ください。

基本的な財務状況は法人ウェブサイトで公開している。また、毎月の活動報告書もウェブサイトにアップしている。委託契約の事業費の大半は賃料及び人件費(常勤2名を施設の維持管理の最も基本的な人件費として想定している)で消化することから、助成金の申請が必須となっている。

旅費や印刷費など、地域から見て高校生の活動が可視化されるような事業を行う場合はほぼ外部の助成金の活用が必須である。例えば2022年度の収入として、市からの委託金が約750万円であるが、飲食物の販売による収入(費用含む)が200万円、高校生の情報発信事業として80万円、白河市を含む福島県全体の高校生の地域探究活動支援事業として400万円、白河市の高校生の地域活動マッチングプラットフォーム構築のために200万円など。

そのほか寄付金をクラウドファンディング及びウェブ募金フォームを活用して獲得しており、約150万円の収入があった。助成金は年度ごとに採択の可否が不透明なことと、使途の制限があり、人件費に充当できないケースがあることなどから、活動推進には不可欠ではある一方で、不安定な財源と捉えている。

Q.民間事業者が独立採算で中高生の居場所施設を運営する際の課題について、ご意見等があればお聞かせください。

高校生に対するユースワーク的かかわり、活動の伴走支援、教育関係者との協働(コーディネート)で求められる職能と、飲食物販売で求められる職能の間には乖離があり、人材育成と利益の確保の両立には苦慮している。民間事業者が完全独立採算で何らかの中高生を対象とした事業を行う場合、ボランティア的なものになるか、私塾的な受益者負担を求める形になることが想定される。少なくとも、中高生向けの職能を継続的に発揮し、しかし受益者負担ではない形でサービスを提供するならば、収益部門は中高生向け支援部門の人件費をも獲得できる高収益な事業が求められるのではないか。一方、中高生向けの居場所施設単独で、担当事業者や職員のキャリアアップも想定した体制を敷くためには長期的な財源が必要不可欠であることから、生涯学習や高齢者福祉など、隣接させることで効果が期待される公的事業との複合化なども検討されるとよいのではないか。

おわりに

「高校生の居場所」が政策課題になる…というのは2015年度に立ち上げをおこなった身からは隔世の感があります。一方で、先行しているからと言って優れているわけではないな…と思います。常設には常設の、非常設には非常設の、良さと課題があると思います。

まだ社会的な意義が確立されようとしている過程、だと思っているので、私たちもその意味や効果を磨き上げていかねばいけないと考えていますし、これから生まれる場所・施設を含めて、お互いに学び合う関係性になれれば嬉しいなと思っています。

学びあい、も居場所のキーワードです。学ぶということは変わること。高校生が変わる、高校生に関わる大人が変わる。関わりあって、変わりあう。

EMANONは対象になっていませんが、こども家庭庁による幅の広い調査結果も公開されています。公的な調査も、各地の実践の発信も、学びあいのノリシロになりますように。


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