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【12歳セネガル人から学んだ】 改めて考えるストリートサッカーの重要性

昨シーズン指導をしていたU-13のチームに当時まだ12歳のとあるセネガル人プレーヤーがいました。彼の名前はousmane(ウスマン). 生まれも育ちもセネガルの彼は、12歳の時に父の仕事の影響でスペイン/バルセロナに渡ってきました。

彼の出身地セネガルの英雄マネともそっくりです(ただ彼のアイドルはデンベレです)

世界地図を見ても分かるとおり、アフリカ大陸からかなり近い位置にあるバルセロナには彼の家族のようなケースは決して珍しくありません。

ここ8シーズンバルセロナで指導をしてきた中で、たくさんのアフリカ出身のプレーヤーとの出会いがありましたが、結論から言うと僕は彼らが大好きです。

まず人間面では、何かナチュラルな素直さがあって、謙虚で周りを明るくする不思議なパワーを持っています。サッカー面でも彼らが大好きで、スペイン人プレーヤーにはないアフリカ人独特の何か野生感溢れたプレーは本当に見ていて魅了されます。

これだけでも彼らからたくさんのことを学ばさせてもらったわけですが、今回の記事ではタイトルにもある通り「ストリートサッカー」と昨シーズン出会った、この12歳のセネガル人少年から学んだことを関連づけて話ができたらなと思います。

-この記事を書いている人-

この記事を動画で視聴されたい方はこちらから。

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-尋常なほどの適応能力

まず内容に入る前に彼のちょっとした背景だけ説明させてください。先ほども言ったように彼は12歳になったばかりの時に家族とバルセロナにやってきました。それまでは母国セネガルのチームに所属してサッカーをしていたらしいですが、所属先のチームでサッカーをするよりも街中で友達とストリートサッカーでボールを蹴る時間の方が長かったらしいです。

実際の写真を見してもらいましたが本当にこんな感じです

そんなストリートサッカーで育ったウスマンは、バルセロナに着いた後まずは近所にあった小さな街クラブでサッカーをスタートします。皆さんもご存知の通り、バリバリにリーグ戦文化が展開されるスペインの育成サッカーの環境に「なんだこれは?」と12歳の少年は困惑しますが、それでもアフリカ人特有のフィジカル的優位性を活かし、シーズン途中からチームに加入したのにかかわらず、一気にリーグ戦での得点ランキングトップに立ちます。(ウスマンはFWです)

そんな彼の噂はすぐに、バルセロナの強豪街クラブのスカウト部にも行き着き、結果的に昨シーズン他クラブにスカウトされ移籍をすることになりました。(そのチームで僕は彼と1シーズンを戦うことになります)

彼にとってはまた新たなそして大きな挑戦です。プレシーズンの時間は、チームの環境に慣れるのにとても苦労していました。スペイン人指導者はチーム規律をとても重要視する傾向があり、ストリートサッカーで育ったウスマンは純粋に楽しくTR中に笑いながらプレーをするのですが、それが集中力が欠けているとみなされ注意を受けることも多々ありました。(ただ、のちにスタッフ間でウスマンの背景を考慮した彼に対しての接し方/マネジメント方法を話し合い他のスペイン人選手とは異なった接し方を行うことに決めました)

ロッカールームでチーム一の人気者だったウスマン

それ以上に苦労したのはもちろんフットボールの中身の話です。そりゃそうです。これまで自由奔放に1つのコートでサッカーをしていた少年にとって、コートの隅から指示を受けながら行うサッカーに慣れるには一定の時間が必要でした。

それに加え言語の問題もありました。セネガルの公用語であるフランス語が少しスペイン語と似た部分もあるとは言いつつも、監督からの戦術的な指示への理解がなかなかできずこのようなことから、常に第一監督の第一オプションはウスマンではなく自分の戦術が理解でき安心感が持てるスペイン人のプレーヤーでした。(僕も含めた他スタッフはもう少し彼を使ってあげてもいいのにな..といつも話していました)

しかし…「今シーズンは彼にとって難しいものになるかな」という僕の思いはいい意味で裏切られることとなります。

シーズン序盤こそなかなか出場機会に恵まれなかったものの、時間が経つにつれチームが求める動き出しや、フィニッシュのパターンに対しての理解が増し、それに加えて元々備わっていたゴールへの嗅覚が爆発し、もはやチームにとっては欠かせないパーツとなっていました。

試合勝利後はウスマンが踊り、チーム全体での写真撮影が恒例行事に

ここで彼から観たことは、その適応力のすごさ。これはまさしく彼が育ったストリートサッカーに隠れているパワーなんだなと僕は思っています。

大きく話すとたくさんあるストリートサッカーのメリットですが、僕の中では以下の4つがあるんじゃないかと思っています↓

これらはミニゲームのTRにも共通するので”ミニゲーム”と記しています

で、特に「リアルな試合状況/背景での戦術的認識の発達」+「成功体験の蓄積」がそれがたとえ異なった環境(異なった指導者の考えやプレースタイル)に飛び込んだ時でも一定の時間さえあれば適応してしまう力に変わってしまうのではないかと思っています。

彼らからすると、無我夢中にストリートでサッカーという遊びをしているだけに過ぎないかもしれませんが、ゲーム(試合)という一番リアルなゲーム状況の中で同じアクションを異なった背景の中で無意識に反復してプレーするという最強なトレーニング方法となっているわけです。

ブラジル人プレーヤーが欧州の各トップリーグで、それも長いこと活躍できる理由は1つこのストリートサッカーに詰まっているんだとつくづく思います。

欧州の舞台で長年プレーし続けたダニ・アウベス(左)とチアゴ・シウバ(右)

また脳科学的な視点からもストリートサッカーの利点を少しだけ話したいと思います。

そもそもでサッカー選手が何か新しいことを学ぶ際のサイクルの一番初めにくるのは「興奮」にあります。当たり前の話ですが感情的に、高ぶ(興奮する)っていないと何かを学びたいという気持ちにもなれないわけです。

サッカー選手がアクションを学び実行する際の脳のサイクル

つまり、自然的に選手たちの好奇心を掻き立てるようなゲーム形式(ストリートサッカー)を行うことで、ドーパミンを放出し学びを行うための脳を整えることができるというわけです。

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スペイン育成の課題でもある「圧倒的な個の力」

「チーム全体としての構造の完成度は非常に高いが、局面局面で個としての打開ができない…ストライカーというストライカーが出現してこない…」皆さんもご存知、現在のスペインサッカーの大きな悩みです。

バルサ育成年代もこのテーマには危機感を抱いているようで、育成年代の全チームに1vs1での個の突破を図れるような選手を育てるための新ノルマを設置したぐらいです。*以下参考動画

その反面ストリートサッカーで育ったウスマン君はと言いますと、本当に予測ができないようなプレーだったり創造性溢れたプレーを練習から披露していましたし、実際の試合でも周りのスペイン人のチームメイトは見せないような個の突破でゴールチャンスを生み出すようなプレーを連続にしていました。

これを観た我々スタッフは、先ほど少し触れた彼に対してのマネジメント方法の一部ではありませんが、普段スペイン人指導者が怒って注意してしまいそうな派手なプレーに対しても彼の良さを消すことのほうが良くないと思い、注意はせずより積極的にそのようなプレーへのトライをするようにと促すことに決めたんです。

スペイン人指導者の中でもこのような課題が自国のサッカーにあることをしっかりと理解している指導者は普段の練習から、派手なフェイントをする選手への褒め言葉をあえて意識的に行ったり、彼らに対して何か制御(ストレス)を与えるようなことはできる限り抑えるように意識しています。

最近知人の日本人指導者の方と話をしていた際に、ここ最近スペイン国内で若手有望選手が続々と出現していることについて話す機会がありました。その中でもより個人の力で局面を変えられるようなペドリやピノの話になった際に「そういえばこの2人は島出身だよね」という話になり、その流れでストリートサッカーが少なからず関連しているのでは?という話になったんです。

ともにカナリア諸島出身のペドリ(左)とピノ(右)

実は、バルセロナ市内では僕がバルセロナに初めて着いた8年前に比べると明らかにストリートサッカーの割合が減っている印象を受けるのですが、面白いことにバケーションで僕もマジョルカ島などの離島に行ってみるとめちゃくちゃストリートサッカー今でもやってたりするんです。

こちらのドキュメンタリー動画でも、ペドリの父親が彼はストリートサッカーで育ったと話していましたが少なからず関連性はあると思っています。

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「勝つ」ために同じ船に乗る

さて話をウスマンに戻します。ここからが今回の記事で1番に伝えたかったことでもあります。彼の人間性の部分です。人間性と言っても曖昧で、彼が持つ優しさや謙虚さや素直さや…あげたらキリがないくらいあるわけですが1つのエピソードとともに話せたらなと思います。

とあるトレーニングの日、W-upに5vs2のロンドを行なっていました。普段はキーパーコーチとともにトレーニングをするキーパー陣もその日はチームに帯同しており、一緒にロンドに参加していました。

その週末に首位決戦を控えていることもあり、その日のロンドはいつも以上にインテンシティ高く行われていました。そのせいもあってか、キーパーの1人がDF役でなかなかボールを取れずに息が切れてしまうくらいまで長時間DFをしなければいけないシーンがありました。

その様子を伺い、一度ロンドを止めようと介入しようとした瞬間攻撃側でボール回しをしていたウスマンが「ダニ(GK)変わるよ。疲れたよな」と言いながら自らDF役に志願しました。

わからないです。もしかしたら「こんなこと別に日本でもやる子はいるでしょ」という方もいると思います。というかどこかしら探せばいるんでしょう。

ただそのロンドの後に彼に詰め寄り聞いたんです。「なぜあのような行いをしたの?」と。彼は「単純に可哀想だと思ったし、チームに必要な行動だと思った」と言いました。

12歳でなかなか行動に移せないことだし出ない発言だよなと思いながら、同時にこのような何か協同性,社会性のようなものもストリートサッカーから自然と養われたものなのかなと思ったりしました。

だって、ストリートサッカーってその場で居合った仲間(年齢も違えば、レベルも違う)と勝利という目的へと協力してプレーしなければいけないわけで、そんな仲間を人一倍思える力が彼の中で養われてきたんだなと感じた瞬間でした。

ということで今回の記事では、僕自身が昨シーズンバルセロナのサッカー現場で出会ったアフリカ出身の少年とのエピソードとともに、ストリートサッカーから習得するものについて少しまとめてみました。日本のみに限らずに世界全体で減少しているこのスポーツが持つパワーを改めて整理しながら、いつの日か子供たちが自由にボールを蹴れるような環境を与える側になれればなと思っている最近です。


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