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米国におけるテレビ番組の同時配信


 日本ではNHKに続き10月に日本テレビがTVerで同時配信を開始、テレビ東京も年内に開始予定であることを明らかにした。英国、フランスなどのテレビ局のホームページを見ると、日本からは視聴できないが同時配信をネットで無料で視聴できることが伺える。しかし、Netflix、Huluなどを生みだしたネット配信の最先進国である米国では意外にもNBC、ABCなどのネットワークの番組やその系列地上波ローカル局の無料同時配信は低調で、日本が先行する形になっているようだ。

「無料」の同時配信サービスLocast

   実は今年9月初めまでは、「無料」でエリア内の地上波ローカル局をネット配信でリアルタイム視聴できるサービスLocastがニューヨーク、シカゴなど主要35都市で提供され、300万人ほどの利用者がいた。著作権法が非営利であれば放送事業者の同意を得ずとも再送信することを認めていることを根拠としたものだったが、NBC、ABC、CBS、FOXの4大ネットワークが差止を求める訴訟を起こしていた。ニューヨーク連邦地裁は、「無料」というものの月5ドルの寄付をしないと15分ごとに寄付を求める画面が表示され、「寄付金」が設備投資に使われており非営利に当たらないとの中間的判断を示し、サービスの差止も命じた。Locastのサービス差止で地上波ローカル局のネット同時配信は限られることになった。

米国でインターネットでテレビ番組の同時配信を視聴する方法は限定

 RingDigital社の調査によると米国におけるネットワーク系列局など地上波ローカル局のリアルタイムでの視聴方法は、ケーブルテレビ又は衛星放送28.7%(米国では衛星放送は視聴エリアの地上波ローカル局再送信を含めケーブル同様のサービスを提供)、インターネット接続テレビ13.6%、地上波アンテナ受信7.9%、携帯・デスクトップ3.1%、ローカル局は視聴しない46.6%。このうち「インターネット接続テレビ」と「携帯・デスクトップ」によるリアルタイム視聴はインターネット経由ということになるが、具体的方法としては1)YouTube TV、Hulu Liveなどインターネットでケーブルテレビ同様のサービスを提供するもの、2)ViacomCBSのネット配信サービスParamount+がCBS系列局の一部をそのエリア内で同時配信しているもの、3)一部ローカル局がニュースのみ同時配信しているもの程度という。無料でニュース以外を含めてリアルタイムで同時配信されるネットワークや地上波ローカル局の番組はスポーツなどイベント的なものを除いてないようだ。 (なお、ケーブルテレビ等有料テレビ加入者限定のネット配信サービスTVEverywhereでは視聴エリア内の地上波ローカル局の同時配信が視聴可能。また、Southwest Airlinesでは機内サービスとして衛星放送の電波を受けて地上波ネットワーク系列局とケーブルチャンネルの番組の同時配信が各自のスマホ等で視聴できる。(上の写真はSouthwest Airlinesのホームページから。)筆者が、もう3年近く前になるが、サンフランシスコーラスベガス間で搭乗した時にはニューヨークの系列局の映像が流れていた。)


米国で地上波ローカル局の無料同時配信がない理由

 1)米国では、テレビ視聴の基本は従来は有料のケーブルテレビ等であり、彼らが支払う再送信料が地上波ローカル局とネットワークの大きな収入源となってきた。ケーブルテレビ等有料テレビの加入者の減少は続くが、ローカル局の再送信料収入は2016年の80億ドルから2020年には120億ドルに増加、さらに2024年までは増加が見込まれており、地上波ローカル局、ネットワークはケーブルテレビ等の有料テレビの機嫌を損なうことができないという事情がある。2)またネットワーク系列局もネットワークの直営局はごく一部であり、直営局以外の系列局との関係から有料テレビ加入者向けやYouTube TV、Paramount+のように同時配信を行う場合も、視聴できるのは視聴するエリアに存在する系列局に限られる。3)そもそもの話として、東海岸と西海岸で3時間の時差があり、ドラマ、バラエティ、全国ニュースなどは例えばニューヨークとロサンゼルスでは同じ時刻、つまり3時間の時差で放送されているということがあろう。全国ニュースやドラマなどは西海岸での放送終了以降見逃し配信(こちらは同時配信と違って一般的)が開始されるようだ。

ヨーロッパとの違い、日本との違い

 ヨーロッパでは放送のソフト・ハードの分離が徹底しており、その上放送事業者は全国ネットワークとして免許されるのが基本であるためネット配信も、経営を異にするローカル局の存在を意識することなく地上波とならぶコンテンツの視聴者への送達ルートの一つという位置づけになっている、といえよう。では、米国と同様に地上波ローカル局はエリア毎に無線局免許と放送事業免許が一体となって与えられる日本でキー局の同時配信が進みつつあるのはどういうことか。勝手な推論だが1)キー局と系列局との間に何らかの資本関係がある場合が多いこと、2)地上波はアンテナ受信が基本的な見方でケーブルテレビなど有料テレビが有力な選択肢となっていないこと、3)国内で時差がないこと、そして4)何よりNHKが英国BBCをモデルに「公共放送から公共メディアへ」をキャッチフレーズとして先行したことが大きな要因だろう。それにしても、全国の系列ローカル局への配慮は必要なはずで、例えば日本テレビが同時配信をする番組は、ほぼ全国でその時刻に放送されている番組が選ばれているのではないかと思うがどうだろう。また、広告料収入の分配の仕組もできているのだろうか。米国の主要メディア企業は地上波ネットワークやケーブルチャンネルよりもネット配信に重きを置く(同時配信はともかくとして)ようになっているが、そのようなことは日本でも起こるのだろうか。ヨーロッパのように「放送」が無線局免許と切り離され、日本の放送制度に何らかの変革がもたらされるきっかけになるということはないか。野次馬的に興味が尽きない。

参考

https://nscreenmedia.com/antenna-versus-connected-tv-local-tv/

など。

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