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雑文集

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自分が書いた雑文をまとめています。取り留めのないものばかりなので、暇つぶしにどうぞ。
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僕は「ヒーロー」になりたかったんだ

僕は、その時が来たら、きちんと自分の運命を選択できるだろうか。 僕には愛している人がいた。ずっとずっと心の底から愛していた。でも、ある日、その人を傷付けてしまった。それから僕らの運命は別々の道を歩みだした。周りから見れば幸運とも言えるのかもしれない。「一緒に地獄に行くことなかろう」そう友人たちは言う。そう、その通りだ。ただ、僕には君を救うことが出来なかった。その事実が心にぐっと引っ掛かっているのだ。「救う」なんて、誰かと付き合う上で奢った見方なのだろう。 あの夜、真っ赤な

雨宿りのかもめ

もう何度目だろうか。またこの港に戻ってきてしまった。 遥か彼方に霞んで見える島への連絡船が、いつ出航するかも分からないのに。ただ、相変わらず、夕陽に照らされた君は美しく、愛おしかった。 「ねえ、僕はどうすればいいんですか?」 堤防に腰掛けて釣りをしているおじさんに話し掛けてみる。 「さあね。自分のやりたいようにやればいいさ」 視線を変えずにおじさんはそう返してきた。まあ、誰であってもそう言うさ。自分のやりたいようにやる、か。 「釣れてます?」 「いいや、さっぱりだ」 空っぽ

ウチウ岬の噂話 その1

時折思い出すのだ、あの港の景色を。もうどうやって行くのかも思い出せないが。 僕は音も立てずにすっと飛び降りた。翼を閉じて出来るだけ体を細く小さくする。もっと早く、もっと!! 青く煌めく海面が眼前と迫ってくる。不思議と恐怖は無い。もしぶつかったらどうしよう。ふとそんな考えが頭をよぎったが、僕は海面にぶつかる直前、翼を広げ風を掴む。風に乗った僕は、ぐんぐんと相手との距離を詰めていく。手が届きそうな距離まで近づいた。よし。一気に相手に降り立ち掴もうとするが、相手も一筋縄でいかない

欠けたウィスキーボトル

君が誰と寝て、僕が誰と寝るなどという問題は、人生を送る上ではほんの些細な問題なのかもしれない。僕は隣で柔らかい寝息を立てて眠る君を見て思った。僕は布団から静かに出て窓辺の椅子に腰を掛けた。ついでに冷蔵庫からヴィンテージ物のウィスキーをショットグラスに注いだ。眠れぬ時の睡眠導入剤だ。 僕は最近夢を見る。僕が君を殺し、最後には僕も死ぬ。死に方は毎回変わって、溺死だったり首吊りだったり、バラバラにしてシチューにして食べてしまうなんてのもあった。これは何かの暗示なのか。 駅のホーム

日記「19XX年6月30日」

私には中学生から下の記憶が無い。気がついたら、私はおばあちゃんの家から近くの高校に通っていた。毎日、徒歩30分の道を、大雨の日も大雪の日も歩き通した。もう高校3年生。秋には大学の推薦入試がやってくる。私は道内の医科大学に進むつもり。“医科”と言っても医者になる訳じゃない。看護の方。でも、なんで私が看護に行くことにしたんだっけ? 私が看護師になんか向いてないって、自分でよく分かってる。死にたいって、いつも思ってる。手首をカッターで切ったこともある。赤い血がすーっと流れて、見て