刑法①未遂〜哲学的な法律よ〜

はい、というわけで第一弾は刑法です。

刑法とはその雰囲気通り、「これやったら逮捕されんで」というものを集めた法律です。警察、動きます。まずは法律のキソとして、第1条いってみますか。

刑法 1条1項「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」

きました。そう、この法律は「罪と罰」を規定したものとなっております。つまり、これやったら何罪、それやったら何罪、と「やってはならない」集が記されているのである。

具体的には、殺人罪、傷害罪、窃盗罪、強盗罪、器物損壊罪、住居侵入罪、強制わいせつ罪あたりは一般にも耳にする犯罪でしょうか。

なお「盗撮」のように刑法ではなく、他の法令(この場合は各自治体の「迷惑行為防止条例」)が定めている犯罪もあります。そんな風に、刑法は基本的でクラシカルな犯罪を定めたもので、社会の中のすべての犯罪を網羅的に列挙しているわけではない点に留意が必要です。

さてそんな刑法は、しばし哲学的であるといわれます。なぜなら、本質的に「罰を科すほどに『悪い』こととは何か」という問いが常につきまとうからです。未遂について考えてみましょう。

AがBに向かってピストルを向け、引き金を引いたとします。でも空砲だった。そんなときにこの行為をどう評価すべきなのかを考えてみてください。

Aとしては完全に殺意をもって引き金をひいたけれど、目的を達しなかった。しかし客観的には、物理的に弾の入っていないピストルの引き金を引く行為にはなんら危険性はないとも思えます。

では、いくつかピストルが並んでいる中でAがひとつを掴み取り、そのピストルのみが空であった、という事情が加わるとどうでしょう。たまたま掴んだのが空であったものの、別のピストルを掴んでいたらと思うとAのこの行為が危険でないとはいえなくなってきませんか?

そう、未遂のキーワードは「危険の発生」です。

もうひとつ、「時点」というものも重要です。上の例で、Aがたくさん並んでいるピストルのほうに向かった時点、ピストルを掴んだ時点、ピストルを向けた時点、引き金を引いた時点のそれぞれで危険性は違うと思います。

このように、あらゆる事実を総合的にとらえた上でそれらをどう評価するか、というのが刑法の醍醐味です。この「評価」というのは人それぞれなのですが、そこをいかに説得的に語れるかというのが重要なのです。

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