【文字起こし】カジノ住民投票の条例制定 討論 2021年1月8日横浜市会
2021年1月8日、19万人以上の署名を集めた「横浜市におけるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致についての住民投票に関する条例の制定」は横浜市会で否決された。議会で過半数を占める自民・公明の市議全員が否決に賛成したからだ。
この議決前、本会議では約2時間にわたって7名の市議によって賛成討論・反対討論が行われた。本記事では、このうち以下2名の討論の全文を文字起こしする。
4人目 公明党・安西英俊(横浜市港南区 選出) 否決に賛成
7人目 無所属・井上さくら(横浜市鶴見区 選出) 否決に反対
*井上さくら市議の反対討論ノーカット映像はYoutubeで公開中
<表記の注意事項>
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・用語解説や背景知識が必要な場合は * で補足説明する
・議場の様子や市議の様子は適宜( )で補足説明する
賛成討論 公明党・安西英俊
(休憩終了を知らせるベルが議場に鳴り響き、本会議が再開される)
自民党 横山正人 議長:
現在、着席人数は55人であります。休憩前に引き続き、会議を続けます。
安西英俊君。
(拍手に包まれながら、安西市議が自席から演壇へ下りてくる)
私は、公明党の横浜市会議員団を代表し、ただいま議題となっております第100号議案につきまして、原案に反対する立場から意見を申し述べます。
この度、地方自治法に基づき、横浜市としては40年振りとなる直接請求を受け、委員会が開催されました。これまでの議案関連質疑、並びに委員会において繰り返し確認された通り、議会の地方自治は代表民主制であり、各地から選ばれた議員が冷静に責任ある議論を通して、結論を導き出す役割が求められております。住民投票は代表民主制を補完する制度とされておりますが、先の大阪で実施された大阪都構想の住民投票は特別区の設置に関する国の法律に基づき、行われたものです。今回、請求されている条例で定める住民投票には法的な拘束力が無く、そもそもIR事業は数ある横浜市の総合的な政策の一つであり、制度に課題を抱える住民投票で市民に判断を委ねることではないと考えます。
また、住民投票をしても、それを実施する場合には10億円もの費用が必要となり、現在コロナ禍の状況を踏まえますと、法的拘束力の無い住民投票に対して、このような費用をかけるのかとの厳しいご批判やご意見なども市民の皆様から届いておりますので、最優先の課題であるコロナ対策に総力を挙げて取り組むべきと考えます。
さて、私ども公明党 横浜市会議員団は一昨年のIR推進事業の調査費用に関する補正予算を可決した際、8項目、万全な避難対策や横浜市大医学部との連携による依存症対策の充実を始め、IRからの増収財源を医療・教育など市民生活の安全・安心の確保に活用することなどを要望しました。当然ながら、この8項目が納得いくものとなり、市民や関係団体への理解が深まり、取り組みが進まなければ、横浜市におけるIR誘致が実現されることは無いと考えています。
今後、横浜市は超高齢社会を迎え、将来的に税収の減少も避けられませんが、子育てや教育、医療や福祉、さらには災害に強い街づくりなど市民生活の安全・安心の確保に向けての市民サービスの提供はしなければなりません。一方で横浜市の将来的な財政状況を心配する市民の方々からはIR事業に期待するとのご意見も頂いています。現状では横浜市の区域整備計画が示されていないことや、それに替わる代替案が無い中で賛成や反対を判断することは困難であると考えています。
引き続き、私どもは市民の代表として、今後提示される予定である区域整備計画案を責任を持って審査し、それに基づく治安対策や依存症対策、税収の使い道などを検討しながら、横浜市が直面している課題解決に繋がるのかという視点でIR事業に対する判断を行っていく所存であることを申し上げまして、公明党 横浜市会議員団を代表しての討論と致します。
反対討論 無所属・井上さくら
(7人目の最後の討論者である井上市議の登壇前、進行に抗議する傍聴者の退場が決まる)
自民党 横山正人 議長:
傍聴席で会議を妨害した、座席番号B12の方、再三注意しましたが、ご理解頂けないようなので、極めて残念ですが、地方自治法130条の規定により、退場を命じます。
*地方自治法130条:「傍聴席が騒がしいときは、議長はすべての傍聴人を退場させることができる」と規定されている
自民党 横山正人 議長:
(傍聴者が退場されるのを待った後)次に、井上さくら君。
井上さくらでございます。今日も傍聴者から退場者が出て、大変残念に思います。まあ、こういうことがなぜ起きるのかということを私たちも考えなければいけないなというふうに思います。
私は市第100号議案「横浜市におけるカジノを含む統合型リゾート施設 IR誘致についての住民投票に関する条例」の制定の議案を可決し、請願第60号、61号、62号、それぞれこの住民投票条例の制定を求める請願の採択をすることを求めて討論いたします。
*請願第60号:IR誘致の賛否を問う住民投票条例の制定について、請願第61号:住民投票条例の全会一致による制定について、請願第62号:IR・カジノの是非を問う住民投票条例の全会一致による制定について
昨日、この横浜を含む1都3県において新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されました。感染状況は非常に深刻であり、昨日はこの神奈川、東京、千葉、埼玉、すべてで新規感染者数が過去最多を記録しています。横浜市でもお亡くなりになる方が連日出ています。心よりお悔やみ申し上げます。昨日は本当に痛ましいことに60代の方が自宅療養中に容体悪化し入院することなく命を落としたことが公表されました。救えるはずの命が救われない事態に、もしやこの横浜でもうなってるんじゃないんでしょうか、市長。この問題の検証は、市長されたんでしょうか。あるいは再発防止は講じられたんでしょうか。
本来、市民の生命生活を守ることを第一の使命とする基礎自治体としての横浜市は今何をおいてもこの新型コロナ対策に全力を挙げなければならない時です。ところが今もこうして今日は私たちの議場、半分だけ交代で入ると、こういう事態になっているわけですね。しかし、その中で何を議論しているかと言うと、コロナ 対策ではなくて、カジノ IRの、それも一番最初の初手であるはずの方向を決めるにあたっての民意をめぐる議論をせざるを得ません。
この責任の第一は、林市長、あなたにあります。
今日も多くの議員が指摘し、この住民投票実施の直接請求を行った市民の皆さんが憤り、私も繰り返し申し述べてきたように4年前の選挙で市長は「カジノは白紙」と喧伝し、公約で「市民のご意見を踏まえ、方向性を決定」と記載をして、徹底してカジノIRを争点から遠ざけました。自らの選挙に不利になると考えたからこそ、カジノIRは白紙として市民の判断から逃げ、その後も市民に問うことなく、IR導入の準備を進め、ついに当時の申請スケジュールの中でギリギリのタイミングであった一昨年の8月、突如としてIR実現を宣言しました。
*カジノ誘致をめぐる林市長の発言の変遷は筆者のnote記事を参照
今日まで一貫して市民の民意から逃げながら、一方でカジノIR導入方針は決まったこととして、その手続きを強引に推し進めようとしている。そのことに市民がなんとか待ったをかけようと膨大な時間と労力。そして、このコロナ禍において、大きなリスクを負いながら直接請求という手段を取らざるを得なかったんです。冒頭申し上げた通り、新型コロナ感染症における緊急事態宣言下において、この新型コロナの脅威に向き合い、市民の命を守るための議論に集中できない原因を作った責任をまず市長には自覚して頂きたいと思います。
さて、今回の住民投票条例実施のための議案、特に条例制定についての意見案についてです。この意見案では4つの理由を挙げ住民投票実施の意義を否定しています。
まず住民投票一般について、国の地方制度調査会での議論を引き合いに住民投票の位置づけの難しさなど記載し、また法的拘束力のないことと実施コストの問題を抱き合わせるなど、そもそも基本的な住民自治への見識を疑わせます。
さらにIR整備法で手続きが定められているから、住民投票を実施することには意義が見出し難いと主張していますが、言うまでもなく、IR整備法で例示されている手法以外の方法を取ることはなんら妨げられておらず、これを以って市民の求める住民投票を否定することは自治体としての主体性を毀損することになります。
そして4点目の代表民主制が健全に機能しているとして住民投票実施が議会での議論を棚上げするとの認識は、代表民主制と市民の認識や議論、行動を切り離す住民自治と民主主義にとってあまりに危うい考え方だと言わざるを得ません。
住民投票を行う意思が市長に無いということは確かに分かりますが、だとしても、なぜこんな、かえって住民自治への見識の無さ、民意というものへの偏った見方。地方自治や民主主義という価値と、これを多くの犠牲を払って築いてきた先人への敬意を全く感じさせない文章。IRの是非を超えて、自治体としての立脚を忘れているようなことをなぜ書いてしまうんだろうと。今後、横浜市の地方自治体としての発信力に傷がつくのではないかと心配になるほどです。
また、事前に市長が記者会見で語っていた「住民投票の結果を尊重する」あるいは「条例についてはニュートラルな気持ちで」などの発言ともあまりに乖離しています。
*わずか2ヶ月前の2020年11月13日の記者会見で林市長は「議案に付す意見は、賛成反対といった直接的な表現はしない予定」と回答していた。
私はこの意見案がどこでどう作成されたのか、どのような問題意識や議論があって、また市長自身の意見はどうであったのかを確認しようと、この意見案策定に至る会議録、決裁文書、一切を資料請求しました。ところが、出てきたのはA4の紙1枚。右肩に令和2年12月23日。これは住民投票の直接請求が実際なされた日ですが、その日の市長説明資料とあるだけで、最終的に議案に付されたものと一言一句違わない文章でした。
市長説明資料とは書かれていても、その会議の議事録もなく、市長がどのような考えを示したのか。それまでの自らの発言と整合が取れないことをどう調整したのか、誰が出席をしたのか、草案は誰がつくったのか。何も記録に残っていません。
40年ぶりの市民の直接請求による条例制定という大変重要な問題で、議論のプロセスは全く明らかにされず、市長をはじめとする庁内で真剣な議論がされているのか疑わざるを得ません。
今回、今日でわずか3日間ですが、この条例案の審議の中で、少しその背景を見る思いをしました。昨日この議案が審査された、政策・総務・財政委員会を最初から最後まで傍聴いたしました。その中で、「住民投票を否定するなら、いつ、どのようにして民意を得るのか少なくとも地域における十分な合意形成を確保すべきである」とIR整備法 基本方針で明示してある。これをどう担保するのかという質問が各委員から繰り返し出されました。これに対して平原副市長が主に答えていましたけれども、その内容はIR法に例示された県との協議会、公聴会、最後の議会議決。この言葉に終始し、その上で、なんと
「IRは国家的プロジェクトでありその枠組みに従って、なんとか間に合わせなければならない。国の申請期間、国のスケジュールの中でなんとか実現したい。」
まあ、これが本音なんだなというふうに私は感じました。IR法でさえ、地域における十分な合意形成を確保すべきであると明記しています。それはこの事業が長期にわたり、かつこれまでにない大規模な投資を求めるものであるからこそ、将来を含めた事業の安定のために地域における十分な合意形成が不可欠だと言っているわけです。
合意形成とは一人でできるものではありません。相手があることです。そして、合意形成が条件であるということは、つまり合意されなければその先には進めないということです。にもかかわらず、平原副市長らの幹部の認識は、国に申請することはすでにもう決まった前提であり、それを何とか今のスケジュールの中で間に合わせなければならない。ひたすらその意識で突っ走っているのだということがこの発言からも明らかです。
法定の合意形成すら、今の横浜市はアリバイとして通過できれば良いとした考えておらず、確かにその認識では民意とは、ひたすら自分たちの決めた進路、スケジュール、ギリギリのスケジュールを邪魔する障害でしかないということになるんでしょう。民意というものも、首長、行政組織の外に分かれたり、むしろ対立する存在と捉える意識が、普通ならこんなふうに書くかという市長意見のベースにあるということを私は感じました。
先ほど来、民意を測るには、これはこの住民投票条例を否決をしようと呼び掛けた議員の方々もおっしゃっていますけれども、今は材料がない区域整備計画ができてからだということをおっしゃっています。しかし、それでは遅いんだということを私なりに少しお話させていただきます。
今の林市長や副市長たちの何よりもスケジュールありきの、この姿勢から考えられるのは、この住民投票条例議案が今日議会で否決されれば、次はIR事業者の公募を時間をおかずに開始するということが予定されていると思われます。事業者公募を開始するということは、これまでの横浜市が自分たちの中で検討していますという段階から明らかに一線を画した新たな段階に入るということです。それは横浜市として条件や選考基準を示し、その条件のもとにIRという巨大事業の共同事業者として長期にわたる巨大な契約を交わす。その前提として事業者たちに投資を行わせるということになるからです。このIRカジノ事業者のプロポーザル。1兆円規模の開発ですから、このプロポーザルのプランを出すだけでも億単位のコストを事業者たちにかけさせることになり、走り出させるということになります。民間事業者たちに億単位の投資をスタートさせるということは、当然横浜市もそれに見合った責任を負うことになる対外的な責務を負うことになるということです。
先月この事業者公募の基本資料となる実施方針と募集要項案の骨子が常任委員会で示されました。この文書により、事業期間は35年。先ほどから、私たちはいないだろうと。議場にいないどころか、この世にだって居ないかもしれない。その長い35年という長期にわたること。また、事業者として選定されたものと横浜市は選定されれば速やかに基本協定を締結しなければならない。つまり契約関係に入るということが書かれています。
さらに国に選定された以降のこととして、カジノIRを共同で運営する際のリスク分担、事業の継続が困難となった場合の措置なども記載されています。この事業の継続が困難となった場合の一つに、市による区域整備計画の認定更新不申請があります。IRカジノ事業者、区域整備計画の認定。これは国に認定されたとしても10年間という期限付きの許可であるため事業者と交わす35年契約の途中で必ず先に期限を迎えます。その時には国に更新を申請し、認められなければ事業を継続することができなくなります。更新申請の際には、改めて市議会の議決を得る必要があります。もしその時に横浜市が方針を変更し、もうカジノは要らないという市長になっていたり、あるいはその時の市議会がこの計画ではダメだと否決をする。すると国からの認定も無くなり、IRとしての事業はそこでできなくなります。ところが、こうした更新の不申請はこの公募、実施計画によると、なんと5年前に事業者に対して通知することとされ、なおかつ事業が止まることによる損害を横浜市がIR事業者に対して賠償をすると。損害賠償を横浜市側が行うという規定も盛り込まれているんですね。
この規定は将来にわたる横浜市政を、市議会の判断を、市民を縛ることに繋がります。こういう重大な規定を盛り込んだ事業者公募を民意を問うことなく、市民合意なく開始することは許されません。
区域整備計画を策定するまで待たなければというのは、既成事実をとにかく積み上げて、この申請に駆け込んでしまおうという、そういう話に過ぎないと思います。
冒頭にも申し上げましたが、昨日、新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言が発令されました。今、世界は先の見えない新型コロナの嵐に襲われています。この嵐の最中、市にとっても、そして民間事業者にとっても、かつてなく大きな不確定要素を抱えています。その時に、このこれまでにない規模の投資。やったことのない事業。普通は怖くて踏み出せません。35年契約。1兆円規模の投資。これを進めるIR推進の立場だとしても、今はコロナ対策に集中し、このパンデミックが世界でどのように収束をし、その後のビジネスがどう動き出し、IRという大規模集客型の事業が本当にアフターコロナで成立をするのか。見定めるべきではないんでしょうか。
常任委員会で豊田議員によって継続審査の提案がありました。立憲・国民フォーラム、共産党の皆さんの賛成があったものの、自民・公明両党の多数により否決されたことは今はいったんカジノIRの議論を棚上げして新型コロナ対策に全力で集中し、その後の新しい世の中での横浜市のあり方をじっくり検討する、その機会を失ったもので、大変残念です。
自民党 横山正人 議長:
井上君。時間です。
このままだと横浜市は市民という基盤を失った砂上の楼閣になってしまいます。市民以外に私たちが拠って立つ基盤はありません。それは市長もそうですが、私たち議員にとって何より大事なのは市民の基盤です。これを取り戻すために、ぜひ今回の条例案を制定をし、市民と共に進んでいく横浜市を作りましょう。
自民党 横山正人 議長:
以上で討論は終了いたしました。この際、暫時休憩致します。
(休憩後、過半数を占める自民・公明の市議によって、住民投票条例は否決される)
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*本討論についての記事はハーバー・ビジネス・オンラインで公開中
更新履歴
2021/1/8 23:25 新規作成(井上さくら市議の討論を公開)
2021/1/9 13:49 安西英俊市議の討論を追加
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