夜が静かに明けて、地表と海流は熱を帯び始め、息づかいが激しくなる。
雲は過ぎ去った時代の物語を低く語りながら流れ、風は明日の予兆を歌っては空に舞い上がる。これが世界の息吹だ。世界のリフレイン。
明澄な午前に続いて豊饒の午後が舞台に踊り出る。その擾乱の後に、黄昏。
ようやく、「誰そ彼……」と、遠き人に目を凝らすほどの時刻が迫る。
孤独な丸い天体は、しかし、あくまでも緩慢な呼吸を繰り返し、こうして幾世紀が通過していったことだろう。
ほらごらん、時刻表のような、橋が佇んでいる。人間の爪痕なんて。
午睡の時刻が過ぎると、時の流れは勢いを増し、急流に入り、激しく渦を巻き、またたく間に地上の光は遁走する。
「君が見ていたものは、夢ということにしておいたほうがいい」
傾く太陽はそう言いながら、沈み行く情景に薄いヴェールを1枚、また1枚と掛けていく。
「思い出が美しくあるためには、こんなヴェールが必要だから」
と、老いた太陽がつぶやいた。
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