17. パラチのこと

パラチは Parathi と書きます。これは Para Thi からの造語ですが、意味は英語で「For You」。しかし実は、フランス語の「pour toi」と言ったほうが意味が近いのです。pour vous ではなく、pour toi。つまり、この時の「You」には親愛の情がこめられているのですが、当然、ここにはこの町の名前にまつわる話があります。

リオデジャネイロはブラジルの２番目の首都でしたが、その時代は1763年から1960年まで。その間のこと、1808年にナポレオンの勢力に押されたポルトガルは、難を逃れるために、皇室全員およびその取り巻き総勢15,000人が、リオに移住してきました。これからしばらくは、リオデジャネイロがポルトガル王国の中心となります。1821年にナポレオン失脚。これを機にポルトガルの皇室はリスボンに帰ることになりますが、王の息子ペドロ１世はリオに残り、ブラジルの統治を続けます。さて、このペドロ１世には恋人がいた。しかし、彼はすでに結婚していました。

今や父親に代わってブラジルの統治者となったペドロ１世の道ならぬロマンスに、周囲の眼は冷たくなっていきました。恋人を皇室に入れることができないために、特別に別荘を設け、恋人を住まわせることにした、それがリオから遠く離れた小さな漁村、この漁村には「Para Thi＝お前のために」という名前が与えられた、という話です。

僕はこの話を、リオデジャネイロの観光ガイドさんから聞きました。

ところが、この話はどの本にも出ていません。パラチには、ホームページがありますが、そこにも書いていない。それどころか、パラチという名前は、このあたりで多く獲れる魚の名前である、と書いてあったりします。果たして僕が聞いた話の信憑性がどの程度のものなのか、僕にはわかりません。わかりませんが、これを信じていけないという理由はない。僕は、この話が好きだという理由だけで、そのまま信じることにしました。

パラチは、波のおだやかな湾に静かに眠る真珠のようです。