今もまだそこにある奇跡の軌跡
田んぼばかりが目立つ田舎町を見下ろす小高い丘の上に、1人の青年がボンヤリと立っていた。
「いない……か」
寂しいとか、悲しいとか、そんな風情ではなく、元から覚悟していたような、諦めにも似た表情で「そりゃ、いるわけないよな」と、青年はもう一度呟く。
まだ少し肌寒さの残る3月下旬。
風通しの良い丘の上に立つ青年を嘲笑うかのように、空気の疾走が彼の頬を撫でては、逃げるように通り過ぎていく。
目的を果たす事の出来なかった青年は、しかし、その場を去る事も出来ず、丘の上に立つ一