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ジャンプ小説新人賞2020の部門別講評とあと一歩の発表!

ジャンプ小説新人賞2020の選考結果が、先日Jブックスの公式サイトで公開されました。

この記事では、部門ごとの総評や、最終候補まであと一歩だった作品への講評を掲載します。今回ご応募された方や、今後ご応募を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
※ジャンプ小説新人賞2021は4月募集開始予定です。

テーマ部門「この帯に合う小説」総評

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物語の展開で泣かせようとする作品、とりわけ悲劇が多かったです。しかし「この帯に合う小説」は悲劇である必要はありません。例えば、ある人が「死んだ」と「死んだと思ったが助かった」という結末は、まったく反対のものですが、どちらにも優れた作品がありました。前者に比べて後者が良いというわけではありません。大事なことは「ある人が」の部分です。悲劇であろうとなかろうと、物語を優先させるあまりに人間が疎かになっていないか。その結末を迎える人間をしっかり描けているか。最終候補の作品はいずれもこの点において優れていました。そんななかで、受賞作品の『鈴波アミを待っています』は、何気ない言葉でありながら作品中において重要な意味を持つという見事な「最後の一行」が書かれていたため、金賞となりました。

「この帯に合う小説」最終候補まであと一歩の作品と講評

『四月の光』PN.ヨシノヒロ
高校生活を三人の視点から描くことで登場人物ひとりひとりが丁寧に掘り下げられている。文章力も高い。だが、物語に起伏が少ないため、それを三者から描くことでやや冗長にみえてしまったのが惜しかった。もう少しだけドラマがほしい。

『夜行列車に乗って』PN.Ellie
素直な物語で読後感も良い。ただし、後半で娘のほうから主人公に会いに来ることで、真偽不明の言い伝えに頼ってまで娘に会いたいという主人公の切実性が弱まっている。どうしても列車に乗らないといけないと思わせてほしい。

『事故物件住んでみた』PN.池貝雛
幽霊の少女のキャラクターが良いのだが、全体を通じては、登場人物、エピソードともに多く、詰め込みすぎになっている。もう少し要素を減らして、主人公と幽霊の関係性を描くことに字数を使ってほしかった。

『黄昏のラドッピアーレ』PN.葉月景
ピアノや歌に幽霊というモチーフの扱いが上手い。不思議で美しい話になっている。しかし最初に予想される通りのことが起こるので、後半で謎解きのようになるのが惜しかった。もう一ひねり、実はこうだったのかと思わせる部分があるとよかった。

『0.01ミリ』PN.野宮水
主人公の片思いの相手に近づきたいという思いがよく伝わってくる。物語もどんどん予想のつかない方向へ展開していき、最後まで読ませる力がある。ただ、設定や展開がわかりづらいところも多く、もう少し掘り下げてほしい。

『咲月夜-サクヅキヨ-』PN.冬芽
共感したくなる主人公にヒロインの特異な設定、及び両者の関係性など優れた部分は多いのだが、もう少し今回のテーマへの意識がほしかった。


テーマ部門「バディ」総評

バディという以上、魅力的な登場人物が二人いるというところに留まらず、その二人の関係性や会話の面白さ、あるいは一人ずつではなく二人組でいることで初めて何かを達成できるといったところまで踏み込んで書かれている作品が最終候補になりました。特に最後の点に関して、例えば探偵と助手の二人組で前者がほとんど一人で事件を解決して、後者はそれに驚くだけというような、バディの片方でだいたいのことができてしまって、二人組ならではの面白さに欠ける作品が多くみられました。銅賞を受賞した『六里塚探偵事務所へようこそ』も探偵ものですが、ミステリとしての完成度はもちろん、二人組の面白さも評価されての受賞となりました。金賞の『都市伝説さん』は二人組で初めて強くなるという関係性がわかりやすく提示されており、さらに掛け合いも軽快で面白く、この二人の物語をもっと読みたいと思わせるだけの魅力がありました。


「バディ」最終候補まであと一歩の作品と講評

『ふせん』PN.黒森さらだ
ふせんという身近なものにどんどん憑りつかれていく彼氏の描写が面白い。演出力が高く引き込まれた。ただ、この二人は最初からバディではないので、最終的に壊れる関係であるとしても、もう少し繋がりがあるという部分も書いてほしかった。

『怪異コンサルタント神代久遠』PN.日部星花
読者を驚かせようという仕掛けが多く、文章力も高い。その反面、殺人の扱いが軽く、主人公を含め登場人物の感情に対して共感や理解が難しい。意外性のある展開はよいのだが、なぜそうなるのかという説得力がほしかった。

『鷹の隣の雀』PN.柳田知雪
キャラクターを作ろうという意識が高く、二人の関係性も面白いのだが、作品全体では要素が過多で、せっかくの獣人設定も活かしきれていないため、不完全燃焼になっている。もう少し要素を絞ってほしい。

『俺が殺した探偵』PN.玄森椚
トリックの作り込みが上手くミステリとして面白い。主人公が創作した探偵とバディを組むという設定も独特で良かった。ただ、設定上主人公を超えられないのは仕方ないにしても、バディの探偵の良い部分をもう少しみたかった。

『シュガーとペッパー』PN.堀之内いぶき
ハードボイルドな冒頭から中盤以降コミカルになる意外性が良く、ジョークを交えた軽快な掛け合いも面白かった。しかし、主人公が裏切ったバディを最後に許したことにはもう少し説得力がほしかった。

『単焦点とオムファタル』PN.辻本ナオ
爽やかな青春ラブコメでキャラ同士の掛け合いが良かった。とはいえ、一貫して三人組の話であり、三人とも各自で動くので、どこをバディとして読めばいいのかというポイントがはっきり見えると良かった。

『偽りのマグダラ』PN.藍森うつわ
冒頭で古典アートの贋作というテーマに興味をもたせられているが、中盤以降は説明が多く、ドラマが弱くなっている。特に贋作師と告白することと画家としてデビューすることの繋がりはもっと掘り下げて書いてほしかった。

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ジャンプ小説新人賞2021は4月募集開始予定です。
第4回ジャンプ恋愛小説大賞は募集中です。(締切:2021年3月31日)
第7回ジャンプホラー小説大賞は募集中です。(締切:2021年6月30日)