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久々の更新~最近借りた『エノク書』について色々と

クッッッソ久々の更新。マジでいつ振りか分からんね。
最近はMythpediaさんっていう神話・伝承や宗教のまとめサイトで記事の方も書かせて貰っているしツイートが万バズしたしで色々ありましたね。
サイト様のURLはこちら↓

https://mythpedia.jp/

最近グノーシス主義とかカバラとか、ゲームの設定の元ネタになってるヤツについて解説したから読んでくれると泣いて喜びます。

こないだ原稿書く時に旧約聖書における堕天使のこと書こうと思って資料探してたんですけど、図書館に行ったら『聖書外典偽典』っていうそこそこ分厚い本があって、それに二種類のエノク書が収録されてたんすよ。文庫版の聖書外典にもエノク書は入っているけど量が比じゃなかった。
なので今回は呼んだ感想とか色々書き連ねていきたいと思います。

『第一エノク書』とエグリゴリ

今回記事を書く為に借りたのは『聖書外典偽典3 旧約偽典Ⅰ』『聖書外典偽典4 旧約偽典Ⅱ』の二冊。調べたら一冊4000円とかだった。高い。
内容も膨大で、目当てだったエノク書以外にも『ヨベル書』とか『シビュラの託宣』『第四マカベア書』とか色々入ってて兎に角ボリュームが凄かった。

何でエノク書を借りようと思ったのかっていうと、エノク書には堕天使や世界の終末に纏わる啓示について細やかに書かれているのですよ。
因みに、こういった最後の審判とかについての啓示が主題の文書は「黙示文学」と呼ばれ、旧約聖書の『ダニエル書』や新約聖書最後の正典『ヨハネの黙示録』なんかもこれに含まれるモノになります。

エノク書には『エチオピア語エノク書』と『スラヴ語エノク書』の二種類があって、内容自体は預言者エノクが見た啓示ってのが主題で、天使達による幻想的なイメージが語られて行くんだけど、細部の内容に違いがあるんです。

エノク書のストーリーは旧約聖書の『創世記』の6章、つまり大洪水辺りの時系列だけど、6章のある一節にスポットが充てられているんです。その箇所がこの部分。

「神の子らは、人の娘たちが美しいのを見て、おのおの選んだ者を妻にした。」(創世記6章2節)

ここで言う「神の子」はキリストとかじゃなくて「天使」って解釈される。
つまり、神に仕える筈の天使があろうことか人間の娘を娶ったってこと。
当然、その後に天使と人間の子が生まれる訳で、それが「ネフィリム」
このネフィリムは創世記曰く、古い時代の英雄だったとされる種族で身長が3000キュビト(1350メートル)もあったらしい。

この人間の娘を娶った天使――否、堕天使達について『エノク書』では掘り下げられているんですよね。
エチオピア語エノク書』では更に細かくて、堕天使達の名はアザゼルだったりシェミハザだったりラミエルだったり、総勢で200人もの天使が人間を妻にする計画に賛同したって記述。
しかも堕天使の筆頭格だったシェミハザが

「もしかして俺だけがお前らの尻拭いする羽目になったりしない?」

って言うと、他の天使達は口を揃えて

「じゃあ全員で計画を実行するように誓おう。破ったヤツはハブる」

って言うんですよ。コイツらマジで欲に忠実過ぎる。
因みにこの堕天使達の総称は「エグリゴリ」で、「見張り」なんかの意味を持つ。
タイトルにも書いてるけど、このエグリゴリってエルシャダイに出てくるグリゴリの元ネタなんすよ。
そんな装備で大丈夫か?」に対する「大丈夫だ、問題無い」で有名な主人公イーノックの名前も『エノク書』の主人公であるエノクの名前なのですよ。エルシャダイって名前自体も「全能の神」を意味するヘブライ語だし、作品自体が聖書偽典であるエノク書をベースにしてるんですよ。

堕天使達は人間の娘との間にネフィリムを生んだけど、他にもルシファーよろしく人間達に様々な「知恵」を授けました。
例えば、化粧や灌木の断ち方、武具の生成、魔術とそれらに対する対処法、占星術や天文学などなど、人類の文化の発展に貢献した訳ですよ。
でもその所為で地上に悪が蔓延って、神様は大洪水を起こして地上を一旦リセットしようとする――って流れ。つまり、堕天使達は人間に知識を与えたけど、そのせいで自分達もろとも裁かれてしまうことになる。
見方を変えれば堕天使ですら人間の繁栄に貢献したって考えるとカッコいいなって部分はあると思います。

因みに第一エノク書では堕天使達に対する裁きについても語られていて、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四大天使を派遣しました。
ミカエルとガブリエルは聖書正典の伝承にも多く登場するけど、ラファエルとウリエルに関しては実は外典とか偽典にしか出て来ないんよ。

というか、固有名詞で言及される天使がミカエルとガブリエルの二人だけで、それ以外は殆ど正典以外の文書が出典な気がする。
例えばマンセマット、『真・女神転生DSJ』でハッスルしてた彼も同じく偽典の『ヨベル書』が出典だしね。

そういえば、もうすぐ最新作『真・女神転生Ⅴ』が発売ですね。個人的にDLCで人修羅参戦が死ぬほどビビった。

神は四大天使を派遣し、ラファエルにアザゼルを縛り付けるように言ったり、ガブリエルにネフィリムを殲滅させたり、ミカエルに堕天使達を最後の審判、終末の日が来るまで大地の下に閉じ込めさせたりと、まぁ色々とやります。
旧約聖書の偽典の一節ですが、一応の「神の子」が地獄の底に閉じ込められるっている顛末はギリシア神話のティターン達にも通じる点が見受けられるのが面白いですね。

『第二エノク書』とエノクの昇天

俗に『第二エノク書』と呼ばれるのが『スラヴ語エノク書』です。
第一エノク書が比較的「旧約的」なのに対し、こちらの第二エノク書では神の峻厳さが和らげられており、新約聖書に近い思想が見受けられます。
こちらの文書でもエグリゴリや世界の終末といったテーマは共通していますが、第二エノク書ではエノクは啓示を見せられるだけではなく、実際に天界へと連れていかれます。
ダンテの『神曲』の天国篇のような感じですね。
第二エノク書に描かれる天国は七層の階層構造であり、第一天から第七天まで存在します。

・第一天-天の運行を司る200人の天使と「地上よりも遥かに大きな海」、雪や氷、雲の貯蔵庫とそれらを守る天使、オリーヴオイルのような露の貯蔵庫とそれらを守る花のような姿の天使を見る。

第二天-「断罪された天使」が泣いているのを見る。曰く彼らは「主に背き、主のみ声を聞かず、自分たちの意志で談合した者」とされる。

第三天-生命の樹が存在する天国――つまりエデンの園にエノクは降り立つ。計り知れない程美しい景色が広がっているらしく、庭園全体を巡る四つの河、即ち『創世記』におけるピション、ギホン、ティグリス、ユーフラテスが「食物となる全ての良い物」を生み出していた。

第四天-太陽と月のあらゆる運行と移動、「太陽の車」を引く十二枚の翼を持つ天使を見る。この天では太陽と月の運行について詳細に啓示させられる。

第五天-エノクは「エグリゴリ」、つまり堕天使達を見る。彼らは人間と同じ姿をしており、天にいながら何もしていなかった。
200人の天使がヘルモン山に降りて身を穢したという説明は第一エノク書と同様。

第六天-この天には七人の大天使がおり、彼らは輝かしく、誉れ高く、顔が太陽の光線のように輝いているという。この天使達は世界の秩序と星、太陽と月の運行を他の天使達に教える役目を担うとされる。
更に「時と年を支配する天使」「川と海を支配する天使」「果実と草と湧き立つもの全てを支配する天使」「あらゆる民族の天使」がおり、生活の全てを神の前で記録する。
他にもフェニクスやケルビム、六つの翼を持つ天使が七人おり、揃って歌っているという。

第七天-この天には大天使や天使、ケルビム(智天使)オファニム(座天使)が集い、神が玉座に座っている最高位の天。
エノクはこの天でガブリエルに「わたしと共に来なさい。主の顔前に永遠に立つのです」と言われ、栄光の天使と同じ姿になる。
その後、大天使ヴレヴェイルから本と葦ペンを渡され、「天地の全てに関すること」、「あらゆる元素の運行と生成」「武装した軍勢の歌」を語られ、それらを全て記録する。そして360冊の本を書き上げた。

エノクの名は旧約聖書『創世記』5章にも登場しますが、この聖書箇所では

「エノクは神と共に歩み、神が取られたのでいなくなった」(創世記5章24節)

と記述されているので、偽典であるエノク書にて天界へ行き天の書記となるのはこの聖書箇所に因んだものとも考えられるでしょう。
これまで『第一エノク書(エチオピア語エノク書)』、『第二エノク書(スラヴ語エノク書』を参考に話を進めて来ましたが、エノク書にはどうやらもう一つ種類があるらしく、それが『第三エノク書(ヘブライ語エノク書)』というものらしいです。
曰くその文書では「エノクが大天使メタトロンになる」という説話が語られているらしく、現在定説として広まっているエノク=メタトロンはこの文書が起源になっているみたいですね。

第一、第二エノク書は図書館で借りれたりもしますが、第三エノク書を収録している資料は日本には無さそう感がありますね。残念。

感想

個人的な感想なんですけど、聖書正典に語られる物語も十分に面白いですが、外典や偽典の内容も非常に惹かれるものがあると思うんですよね。
天地創造から楽園追放、ノアの洪水やバベルの塔を経てアブラハムやモーセといった預言者に至るストーリーも良いですけど、正典には登場しない大天使や彼らによる啓示などは何処かミステリアスというか、そんな印象を持ちます。
天使がエノクを天界に連れていき、宇宙の運行などを説くというのも古代の天使と宇宙論の結び付きについて考えられたりするのかなぁと。

エルシャダイ然りメガテン然り、外典や偽典がサブカルの源泉になっているのは正典には無い魅力というのも影響しているんでしょうかね。

こんな駄文を最後まで読んで頂きありがとうございました。

参考文献

左近淑ほか訳『聖書外典偽典第三巻 旧約偽典Ⅰ』教文館、1975年
村岡崇光訳『聖書外典偽典第四巻 旧約偽典Ⅱ』教文館、1975年

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