「ネタパレという戦場の傷跡」
「そのセットこっちでーす!」
ネタパレの収録が撤収の準備を進めていた。そんな中、俺はその場から動けないでいた。その場に残っていたのは俺だけではなかった。
「くそぉぉう!!」
上田さんの声がスタジオに鳴り響いていた。拳からは血が滴り落ち、隣にはサイトウさんが倒れ込んでいた。
「悔しい!悔しいでございやすよ〜!」
かねちかは泣き崩れていた。こんなに売れても、かねちかはネタパレで負けて涙を流す。何処までも真っ直ぐで純粋な男だ。
「次は絶対に勝ちましょう。」
ニコッと笑って、りんたろーさんが、かねちかをそう励ます。そのままかねちかをおぶってスタジオを後にした。
「あーーはっは!敗者っていうのは、こんなにも惨めなもんなんですねぇ〜」
最もハマった芸人に選ばれたザ・マミィ林田君が、服を着るために一度家に帰り、戻ってきた女性2人を両手に抱えて高笑いをしていた。
「確かに今日のザ・マミィのネタは凄かった、でも次は負けねえからな!!」
悔しそうにそう言い残し、上田さんはスタジオを後にした。
「上田さんが悔しそうだとこんなに嬉しいもんなんですね!んじゃ帰りましょう!姉さん!母さん!」
あのさっきまでトップレスだった女性達は林田くんの家族だった。いつもだったら、え!?まじ?なんでさっきまで裸だったんですか??え!!と驚き、興味も爆発していただろうが、今はそんな風に思えなかった。それほどに悔しかったんだと思う。
「ダメだったなぁ、、、」
人はなんでダメだった時、ハッキリ口に出して、もう一度ダメだったと言ってしまうのだろう。そんなことを考えていたら、また悔しさが身体中を駆け巡っていった。そんな時だった。
「ダメなんかじゃねえ!今日のお前らのネタは最高だった。」
血まみれの男がゆっくりと立ち上がり、俺の方を向いてそう言った。そう、サイトウさんだ。
「最高だった。俺は1番だったと思うぜ?いや、相方の作ったネタが永久1番だから2番かな?笑」
サイトウさんは、相方の上田さんのことを本当にリスペクトしている。血が出るほど殴られた状態でもそう言えるのだから、それがよく分かる。
「ありがとうございます。でも負けたのは事実なので、、」
「なんかだいぶ今回にかけてたみたいだな。」
「はい。どうしても藤田ニコルさんに選ばれたくて、、」
「そっか、にこるんファンなの?」
「いや、ファンというか、、、」
サイトウさんは、小さい噴水が頭に乗ってる?と思うくらい血が出た状態で、俺に優しく微笑んだ。
「ジャンボ、、にこるん、レインボーのネタで1番笑ってたぜ?」
「え、本当ですか??」
「俺、実はにこるんのファンでさ、ずーっと見てたんだよ!そしたらさ、ダントツでお前らのネタで笑ってた。」
俺は心から嬉しかった。急に重かった体が軽くなった。心からの嬉しさを身体中で感じていた。
「ありがとうございます!サイトウさん、凄え、凄え救われました!」
「ははは!それは良かったぜ、、んじゃな。」
サイトウさんの後ろ姿は、ライトに照らされ、頭から血が小さい噴水のように三本吹き出ていて、なんだかオバQみたいに見えた。
「サイトウさん!血ー!拭いた方がいいですよ!」
「ん?ちょっと〜吹き出てんじゃん!ほんと、」
サイトウさんは立ち止まり、振り返って、ニコッと俺に微笑みかけてこう言った。
「チェだぜ?」
サイトウさんは全身真っ赤で、夕日に照らされてるみたいですごくカッコよかった。
「ふぅ〜、タバコ、吸いたいなぁ。」
安心した俺は、急にタバコが吸いたくなった。地下の誰もこない穴場の喫煙所に向かった。途中ブラックコーヒーを買い、喫煙所に向かうと案の定、誰もいなかった。
「お、ラッキ〜。」
俺は喫煙所に座り、タバコを口にくわえ、缶コーヒーを開け、万全の体制をとり、ワクワクしながらライターを取り出した、、いや、ライターが見当たらない。最悪だ。俺はポケットというポケットを探した。周りから見たら明らかにライターを必死で探す男だろう。情けない、、俺は下を向いてうなだれていた。そんな時、俺の目の前にライターが現れた。誰かが差し出してくれているのだ。この穴場に来るとは、なかなかの手練れである。そんな事より!とにかく有り難すぎる、、
「すいません、、」
ライターを受け取り、顔を上げるとそこには、
天使がいた。
天使は微笑みながら俺に言った。
「最高でしたよ。」
俺はくわえていたタバコを落とした。
続く。
これはフィクションです。
ジャンボに特茶1本奢ってください!