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「喫煙所の天使」

俺の名前はジャンボ。吉本で芸人をやっている。これは、俺が人生で、忘れることのできない恋をした話だ。拙い文章だがお付き合い頂きたい。

1年ほど前だろうか、俺は憤りを感じていた。テレビに出れない。ずっとお世話になっているネタパレという番組には定期的に呼んでもらえるのだが、それ以外の番組には一切出られない。お呼びがかからない、悔しい。相方の池田は吉本坂というアイドルグループに加入し、センターとして活躍、休日は吉本坂の営業で忙しそうだ。相方の俺は努力するわけでもなく、パチンコに勤しむ日々、、自分が情けないったらありゃしない、、 その日も俺はパチンコでコテンパンにやられていた。

「なんで俺ばっかこんな目に合うんだよぉ!俺が何したってんだよぉ〜」

かなり大きめの声でそう言って俺は店を出た。自己嫌悪で今にも泣きそうだ。その時スマホが鳴った。

「あ、おばたくんだ、、」

おばたくんとは同期芸人のおばたのお兄さん。小栗旬のモノマネで一躍人気者となり、奥さんはあのフジテレビのエース山崎アナである。昔から仲が良く時々連絡をくれる。だがしかし、大概連絡をくれる時は、、、

「お〜実方くん??今日女の子と飲むんだけど、どうかなぁ?」

いつもこの調子で連絡が来るときは決まって、女の子との飲み会だ。おばたくんは1度週刊誌に撮られたにも関わらず、一切反省もせずに女の子との飲み会に誘ってくる。

「おばたくん、いいの?奥さんに悪いよ?」

「あのさ〜、遊んじゃいけない法律でもあんの?いいよ?イヤなら他の人誘うから。」

ただ、俺もここ1年彼女なしのモテない男。こうゆうチャンスを断れるはずはない。

「わかったよ。いくよ!いく!」

「あれ?行かないんじゃなかったのー?」

「、、ごめん、是非行かせてくれよ。」

「あ〜他の人も来たいって言ってるのよ〜」

忘れていた。おばたくんは1度やめといたら?的なことを言うと、そのあと、どうしようかな〜?みたいな下りをかなりしつこく言ってくるんだ、、そういう時は、、

「SNSで言うよっ!!」

「、、、、21時恵比寿で、、」

おばたくんはブレイクしてからというもの、、SNSに取り憑かれてしまった。なので、SNSという言葉を出すと静かになる。

「かんぱ〜い!からのま〜きのっ!」

おばたくんのかなり無理のある乾杯から大体飲み会は始まる。女性は2人いて、2人ともとてもお綺麗だ。ただ、、、

「おばたさんのインスタ大好きです〜」

「ねえ〜おばたさ〜ん!私身体鍛えたいです〜」

「んじゃ、レッスンしようか?夜のレッスン!」

「やだ〜!ははは〜!」

「おもしろ〜い!」

「ま〜きの!ま〜きの!もういっちょ!ま〜きの!」

なかなか会話に入れない。当然だが、お二人ともおばたくんに夢中だ。おばたくんもサービス精神抜群のやつなので止まらない。俺みたいなよく知らない芸人にはなかなか目を向けてはくれない。ただ、おばたくんも気を使って言ってくれる。

「知らない?テレビ少し出てたのよ?ほら、実方くん!この2人どう?」

「2人とも、、、、綺麗だ!!!」

「、、、しらな〜い。」

「てゆうか、凄い太ってますね、、、」

とても辛い。テレビで流行らなかったギャグを今更やるのはとても辛いものがある、、おばたくんも気まずそうにしてる。この空気耐えられない。

「ちょっと、、一服してくるわ、、」

俺はタバコに逃げることにした。このお店の喫煙所は外に1つしかない。今は女性が1人居るだけで空いてるし、ちょうどいい、俺は大好きなセブンスターに火を付けた。

「ふぅ〜〜〜」

俺はタバコが好きだ。緊張感から抜け出して、安堵の中で吸うタバコは落ち着くし、格別に美味いと俺は思う。どこを見るわけでもなく、俺は夢中で一息、一息を大きく吸った。

「美味しそうに吸いますね。」

とても優しい女性の声だった。先に喫煙所にいた女性が話しかけてきたんだ。俺のタバコに無我夢中になる顔を見られたと思うと急に恥ずかしくなった。

「いやいや、すいません。」

とっさに出た言葉がこれだ。何を謝ってるんだ。我ながら情けない、、

「なんで謝るんですか?褒めてるんですから、誇らしくしてください。」

彼女の方を見ていなくても、微笑みながら言ってくれているのがわかった。優しい人なんだろうなぁ。俺は彼女の方を見て言った。

「では、、ありがとうございます!」

彼女を見て、俺は自分の語彙力の無さを悔いた。いや、語彙力があったとしても俺はこの言葉を選ぶだろう。

彼女は天使だった。

天使とは似つかわしくない革ジャン、天使とは似つかわしくないタバコ、でも天使としか思えなかった。

「ありがとうございますもなんか変です!」

微笑みながら彼女は俺にそう言った。ただその時の俺には聞こえてなかったようで、、

「天使だ。、」

とっさに出てしまった。こんなことがあるんだろうか?思っていたことが脳を通さずに口から出てしまった、、

「あ、いや、その、、、」

弁解もできない、恥ずかしくて俺はすぐにタバコを消して、その場から立ち去ろうとした。すると彼女は、

「はじめて面と向かってそんなこと言われましたよ!なんか、、いいもんですね!褒めてくれて、ありがとうございます!」

そう言って天使は、俺の顔を見て、少し意地悪そうに笑った。何度も見ては笑った。彼女はかなり短くなったタバコを消して立ち上がり、

「次会う時も天使のままでいれますように!」

彼女は立ち去っていった。俺はその場から少し動けずに、もう一本タバコの火を付けた。その一本をゆっくり、噛みしめるようにゆっくりと吸った。

「ごめんごめん!タバコ二本吸っちゃった!」

「遅いよ実方くーん」

「おばたさーん!これも見てよ〜!」

「こっちの写真も可愛いよ〜!マジこんな顔に生まれたかった〜!マジ天使〜!」

女性陣がおばたくんに、誰か女性が写っている写真を見せているようだ。俺はその写真を覗き込み、そして、、自分の目を疑った。そこに写っていたのは、さっきの喫煙所の天使だった。天使の写真で間違いなかった。俺は思わず興奮して、女性のスマホを奪い取って言った。

「ねえ、誰!??これは誰なの?有名人??」

「うるせえな豚!スマホ返せ!!」

「そうだよ!豚!ダチのスマホ返せ!豚汁!」

話が進まないくらい悪口を言われたので一旦スマホを返して俺は言った。

「ごめんごめん!つい興奮しちゃって。」

「ざけんなよ。豚汁ついたろ、、」

まだ怒っている。そこで俺は決意した。今後女性のスマホは触らないと、、すると女性は口を開いた。

「この人はチョーカリスマ!にこるん!藤田ニコル!!」

「実方くん知らないの?すっごいテレビ出てるよ!」

俺は普段テレビを観ないから知らなかったが、

そうか、、、

天使の名前は藤田ニコルっていうのか。


続く。



これはフィクションです。





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