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「りんたろー、ジャンボを鼓舞する」

フジテレビ湾岸スタジオ、3階廊下の奥に、小さなスペースがある。そこの椅子に俺は、ぽつんと腰掛けていた。今日はネタパレの収録。この番組には感謝しかない、「綺麗だ」のネタ以降、どこにも引っかからなかった俺たちを、唯一使い続けてくれたからだ。勿論、毎回全力投球。自分らの力、全てでぶつかっていく!ただ、俺は動揺していた。不安で不安でしょうがなかった。

「藤田ニコルさんの前でうまくできるかなぁ」

不安な俺は、ブラックコーヒーを片手に、そう独り言を言っていた。我ながら情けない。

「どうしたっていうんですか?ジャンボ君、とても不安そうに見えますが?」

「あ、りんたろーさん!」

りんたろーさんだ。言わずもがな、チャラ男を武器に、飛ぶ鳥を落とす勢いのお笑いコンビ、EXITのツッコミ担当であるが、普段は後輩にも敬語で、とても丁寧で、顔も大きく、周りからの人望も厚い人格者だ。

「こちら座ってもよろしいでしょうか?」

「ちょっと!そこは俺の膝の上ですよ!」

「ふふふ。これは失礼致しました。。」

りんたろーさんは、普段からボケも絶品だ。りんたろーさんは、俺の正面に座った。

「ジャンボ君、なぜでしょう、僕には君が、いつもより集中していないように見えますが?」

「そ、そんなことないですよ!俺らはネタパレしか出れないんで、今回だって気合十分です!」

「、、、心ここに在らずって感じですね。」

「、、え?」

「ネタのこと以外で、頭が一杯なんじゃないですか?そうですねえ、、」

りんたろーさんは僕の目をじっと見て、少し微笑んだ。

「、、恋ですね?」

りんたろーさんには全部お見通しだった。俺は藤田ニコルさんのことを全てりんたろーさんに話した。

「あはははは!あはははは!あーっはは!」

「りんたろーさん!なに笑ってるんですか?俺は真剣に悩んでるんですよ!」

「悩んでる?悩んでるって?何に?何に悩んでるっていうんですか?」

「いや、だから、えと、、」

戸惑う俺に、りんたろーさんは、とても大きな顔をぐっと近づけた。近づいてくる顔は、本当に大きくて、これは大げさでもなんでもなく、実家の冷蔵庫くらい大きかった。そのままりんたろーさんは、真剣な面持ちで口を開いた。

「簡単ですよ。笑わせましょう。沢山笑わせて、今日のネタパレで、最もハマった芸人に選ばれましょう。ジャンボさんはツイていますよ!だって大好きな人に、最もかっこいいところを、見せることができるんですから?そうでしょう?我々、芸人の1番かっこいいところは、、笑いを取っているときです。」

俺は、りんたろーさんの言葉が突き刺さった。

「はい!りんたろーさん!俺、頑張るっす!」

「素晴らしい。それでこそ、ジャンボ君です。では、私も、、、」

りんたろーさんはニコッと笑って、目を瞑り、聞こえるか聞こえないかの声で、

「ポン、ポン、ポン、ポン、、、ポンポンポン」

深呼吸して、パッと目を開け、スッと立ち上がった。

「今日も盛り上がっていきまショータイム!!ポンポーーン!!!そうだろ〜!ジャンボ〜!!」

りんたろーさんはいつもこうやってスイッチを入れる。そして、いつも鼓舞してくれる、後輩を。本当に頼りになる先輩だ。

「よーーし!目を瞑って、、ポン、ポン、ポン、ポンポンポン、深呼吸をして、、パッと目を開け、スッと立つ!よっしゃー!待ってろ、俺の天使ーー!!」

俺はブラックコーヒーを飲み干して、相方の元に走った。

「池ちゃん!ネタ合わせするぞ!!!」

池田は気だるそうにストレッチをしながらこう言った。

「わてなぁ、、最近口説いてるメイクさんに、かっこいいとこみせたいねん。ジャンボはん、かましまひょか?」

よし、コンビの足並みは揃った。


続く。



これはフィクションです。

ジャンボに特茶1本奢ってください!