V6 For the 25th Anniversaryを観て思うこと

-私は、いや私たちは、エンターテインメントの転換点を目撃した。
コンサートが終わった瞬間、そう直感した。11月1日に行われたV6の25周年コンサート、V6 For the 25th Anniversaryは昨今のコロナ禍により、オンラインでの配信を余儀なくされた。最後にV6のライブツアーが開催されたのは3年前。ファンとしても首が大気圏突入するのではないかと危惧するほど首を長~~~くして待ち続けたコンサートだっただけに、会うことができない悲しさ、悔しさ、苦しさ、寂しさ…そういった負の感情を抱かずにはいられない場面も正直あった。コンサートが始まるまでは。

何が起きたか。

今までに見聞きしてきたオンラインライブ、いやライブというエンターテインメントの常識すらも覆しかねないとんでもないコンサートだったのだ。

ライブに欠かせないもの、それは観客の存在である。会場の高揚感、一体感、アーティストとファンのやり取り、そういった「みんなで繋がっている感覚」はライブの醍醐味である。ジャニーズのコンサートではペンライトの振り方や掛け声、割れんばかりの歓声、はたまた手作りうちわのメッセージにアイドルが応えるファンサービスなど、相互のコミュニケーションはあって然るべきものだ。

しかしオンラインライブではこの相互のコミュニケーションを取ることが難しい。そこで多くの場合、カメラをファンに見立ててファンサービスをしたり、客席にペンライトの代わりのLEDを敷き詰めてみたりと、少しでも「近くにいること」を感じさせるような工夫を盛り込んでくれている。疑似的ではあるものの、「いつものライブ」を体験できたファンの満足感は高い。

私がV6に「期待していたもの」も上記のようなコンサートだった。

しかし、V6はファンの存在もライブの固定概念も全部いったん取り払って全く新しい「オンラインでしか実現不可能なライブ」を構築したのである。座席のあるはずだったアリーナには複数の、全く雰囲気のことなるステージが鎮座。彼らがどのような通路を進んでどうやって今のステージにたどり着いたのか。さっきまで歌っていたステージがどの方角にあるのかを推し量る事すら難しい。例えるなら初めてディズニーランドに行ったときのようなもので、さっきまで近未来的空間にいたはずが気付くとアメリカンな街並みに囲まれているような、そういう不思議な空間を代々木第一体育館のなかに作り上げたのだ。普段の客を入れてやるコンサートでこんなこと実現できるはずがない。

また、歓声がないというデメリットすらも武器に変えてしまっていた。特にそれが顕著だったのは楽曲のインスト版(声の入っていないカラオケ音声のようなもの)に合わせて踊るV6の姿だった。静寂な6人だけの空間に響く楽器の音色。水しぶきを上げながらの力強い舞。そこに歓声なんていらない。呼吸をする音すらも惜しくなってしまうほど見入ってしまう美しさ。もちろん歌わずに音楽だけで踊る事など普段のコンサートでも可能だ。しかしここまでの繊細な緊張感は、画面越しに息をのんで見守る配信という形式だからこそではないかと感じる。アイドルとしてだけでなく、表現者としての信念を強く感じた1曲だった。

また、愛なんだやWAになっておどろう、Music For The Peopleなど、数多くのヒットソングを世に放ってきた彼らがそのすべてを封印した姿からも、誰も見たことのない景色を創り出そうとする6人の強い思いと、定番曲を一切やらないコンサートを決断できる技術力の高さ、そして25年積み重ねてきたアイドルとしての自信を感じた。

こんなに「無観客だからこそ」の魅力を推していると観ている人が置いてきぼりだったのではという印象を受けるかもしれないが、そんなことはない。普段観客が座るアリーナ席に座って歌ってみたり、ゆる~~~い謎のMCが繰り広げられたり、ファンへの暖かい気持ちを届けてくれたり、いつもの彼ららしいアットホームな空気感も忘れない。そのうえでの「極上の攻め」。こんなに新しいのに、こんなに攻めているのに、あったかい。昔懐かしい演出のオマージュもあったり、見る人が見ればしっかりと「周年コン」としての役割を果たしているのだからズルい。

歴史を目撃した表現者たちはこの先、どんなオンライン空間を創り上げていくのだろうか。まだもう少し、普通の日常を取り戻すのに時間がかかりそうな今、新たなエンターテイメントの可能性を提示したV6に賛辞を贈りたい。また「会える日」が来たときに、6人は、そして日本のエンタメはどれだけの進化を遂げているのだろうか。それを心待ちに日々を過ごしていきたい。

大好きな6人に、愛を込めて。

追記: 2020年11月13日21:00~リピート配信決定しました!見逃した方もチケット購入できるので是非。

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