吉野ヶ里遺跡出土のトンボ玉エジプト産説

吉野ヶ里遺跡から勾玉と一緒にエジプトのトンボ玉が出土しているんですよね。

とトンボ玉についての耳学問をFacebookに書いたところ、考古学者の小山裕之さんから

吉野ヶ里出土のガラス玉がエジプト産と、Wikipediaやトンボ玉の諸解説などに述べられていますが、出典が全く分からないのですよ。有名な吉野ヶ里のガラス管玉(重文指定)は分析の結果、素材は中国であり、朝鮮半島で生産されたものではないかとの推論がなされており、シンポジウムでも(エジプト産ガラス玉)との話は聞いたことがないので、Wikipediaの説明は誤解があるかと思います。ガラス玉の技法がエジプト発祥である事を受けて、技法の電波とガラス玉自体の輸入を混同しているのではないでしょうかね~。もちろん、中央アジアやメソポタミア産と思われるガラス玉は大阪の古墳や奈良の都では発見されています。

とご指摘をいただきました。
ありがとうございました!
気になったので調べてみました。

「吉野ヶ里遺跡出土のトンボ玉エジプト産説」はウィキペディアのトンボ玉の項目の他、ウェブ上でもいくつも見ることができます。


小さな玉の中に様々な世界を -とんぼ玉作家 なかの雅章-
トンボ玉について

しかし学術的な記述においては小山裕之さんご指摘の通りです。
自分でも調べてみましたが、

吉野ヶ里遺跡出土のガラス管玉は、酸化鉛、酸化バリウム、ケイ酸を主成分とする「アルカリ鉛・シリカガラス」に分類されるソーダ鉛バリウム系のもので、エジプトのものとは組成がまったく違う

とありました。しかしかなり特異な組成のようで

・「現代にもひけを取らない高度な化学知識に裏打ちされた高度に厳選された材料のみで作れられている」
・鉄、アルミナ、銀などの不純物が殆ど見られない
・ガラスの融解温度を低くして製品の透明度を高める酸化ナトリウムが通常の3倍も加えられている
・ガラス化を促進して膨張率を低下させ細工を可能にする為の添加剤としてホウ酸が加えられている(同時代の中国のガラスでも殆ど含まれていない)
・同時代の中国で典型的な四川省出土のものには多く含まれているマグネシウムの含有量が少ない
・しかし管玉作成技術はおそまつ(笑)

とありました。
このあたりが小山さんが書かれた「素材は中国であり、朝鮮半島で生産」という推論の元になっているのでしょう。
 
では、この管玉の実際の由来はさておき、「吉野ヶ里遺跡出土のトンボ玉エジプト産説」はどこからでてきたのでしょうか。

日本国内でも当時の中国産ガラス玉には存在しなかった「アルカリ・シリカガラス」のトンボ玉も存在する

これは、小山さんが「中央アジアやメソポタミア産と思われるガラス玉は大阪の古墳や奈良の都では発見されています。」と書かれていたものですね。
これについて調べてみました。

「アルカリ・シリカガラス」のトンボ玉

・エジプトを含む地中海によく見られる、地中海産天然ナトロンが用いられているものが多い
・カリ、マグネシウムの含有量1%未満
・中国産ソーダ石灰系ガラス玉(河南省、河北省平山、湖北省曽公乙墓などの戦国墓)は、白色ガラス部分に、中国にはなく西方(どこ?)に一般的にみられる酸化アンチモンを用いている
・BC2000~BC1000の西アジア・エジプトのファイアンス玉とBC1000初頭の中国西周期のファイアンス玉は90%以上のシリカ分を有しておりその火化学組成が極めて類似していることから西周期初期ファイアンス玉は西方の製品が流入してものと考えられている
・島根県西谷3号墳出土淡青緑色管玉(2世紀末)以降日本にも見られ、3世紀後半頃から一般的に流通した(奈良県藤ノ木古墳出土例など)
 
なお、同じ「アルカリ・シリカガラス」のアルミナ・ソーダ石灰系、カリ石灰系、マグネシア・カリ石灰系、カリ系、「アルカリ鉛・シリカガラス」、「鉛・シリカガラス」のトンボ玉もありますが、これはエジプトと関係が薄そうなので省略(笑)

【推論】

・「アルカリ・シリカガラス」のうち(ファイアンス玉を含む)広義のソーダ石灰系トンボ玉はエジプトなどでよく見られるものである
・それが中国まで流入していた可能性が高い
・その知識と吉野ヶ里遺跡出土のガラス管玉の存在が混同されたものではないか

こうして考古学者の科学的検証に基づく認識とは離れた、「あって欲しい」話が、日本のトンボ玉販売者や日本の現代トンボ玉作家の間で流布し「俗説」になったのではないでしょうか。
先に挙げた例も日本の現代トンボ玉作家の紹介だったり販売サイトばかりでした。
私が何度か耳にしたのも、確かに文献や博物館の解説などではなくトンボ玉が販売されているところでした。

結局、小山裕之さんの書かれた

ガラス玉の技法がエジプト発祥である事を受けて、技法の電波とガラス玉自体の輸入を混同しているのではないでしょうかね~。

そのまんま(笑)
 
でも自分で調べてなんとなく納得しました。
素人の戯言ですから、これまた間違っている可能性大で、別の俗説にならないことを祈っています(爆)
間違いがあったらご指摘くださいね〜

参考文献:谷一尚、工藤吉郎『世界のとんぼ玉』里文出版、1997

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