【COVID-19】この数十年で最も過酷なコロンビアのコーヒー収穫期・前編

元記事:COVID-19 and the Most Complex Colombian Coffee Harvest in Decades - Daily Coffee News [Jennifer Poole | May 6, 2020]

コロンビア・アンティオキアの山や広大な丘に何千と点在するコーヒー農家。アンデスの雲の下、整然と植えられた作物の緑が風景を彩るこの地方では大多数の農家が小・中規模で、何世代も続く家族経営だ。世界でも有数の肥沃な火山性土壌である一方、極端な地形によって機械化の導入が不可能で、コーヒーにまつわる生活スタイルや商売の仕方は過去一世紀の間変化していない。しかし、この場所で伝統的に必要とされる手作業の量の膨大さを考えると、COVID-19 パンデミックは世界中のコーヒー消費者に大きな影響を与える可能性がある。

・既に遅れている収穫期
・矛盾するコーヒー価格
・労働力確保の難しさ
・スペシャルティコーヒーの今後【後編記事で紹介】
・価格の上昇はいつまで続くか?【後編記事で紹介】

・既に遅れている収穫期

COVID-19 の封じ込め措置がとられる前から、コロンビアのコーヒー農家達は静かな脅威に晒されていた。気候変動で雨季の開始が例年より1か月も遅れたのだ。これによりコーヒーチェリーが樹上で過度に乾燥し、ブローカ(コーヒーボーラー)と呼ばれる害虫や病気に対してより脆弱になる。
大規模な農園であればリソースや最新の気象データによって不測の事態にも対応することができるが、コーヒー業界のバックボーンである大多数の小規模農家では、先祖代々伝わってきた気象予測の知恵や知識がもはや通用せず、疑問を抱えたまま取り残されている。

ペレイラ市アラビアに三代続くラス・ブリサス農園 Finca Las Brisas のManuel Londoñoは「欠点のあるチェリーを収穫せずに放置する農園もあるようだが、その方法だとブローカがそれ以外の良質なチェリーを攻撃するリスクをただ上げてしまうだけだと気付いた」と話す。このようなリスクで小規模農家は収穫の15%を失う上、赤字に陥ってしまう可能性がある。

・矛盾するコーヒー価格

2019年はコロンビアのコーヒー農家たちにとって厳しい戦いの年だった。コロンビアは過去最高規模のコーヒーを輸出したが、世界の商品市場は歴史的な低価格を記録した。2019年4月、キロあたりの価格は8,428 コロンビアペソ($2.6 米ドル)とニューヨーク市場の5年間で3番目に低い数字を記録したのだ。国のほとんどを占める5〜12エーカーの小規模農家にとって、価格の下落は致命的になりうる。

その後価格は徐々に上昇傾向にあったが、COVID-19による世界的ロックダウンの開始に伴い、コロンビアのコーヒー価格は急激に高騰している。Federacion Nacional de Cafereros de Colombia(FNC、コロンビアコーヒー生産者連合会)は会員に支払う基本価格を決定するが、昨年の同時期と比較して価格は平均70%上昇している。
この急激な価格上昇は、コーヒーショップ、バー、レストランが世界中で閉まることとは一見矛盾しているようにも見える。しかし、世界の大口バイヤー、ロースターや小売店のコーヒー生豆・焙煎豆の買い溜め行動が、工場規模の生産者の間で供給を圧迫していることが一因となっている。

しかし小・中規模の生産者は小規模の流通業者と直接取引をしていることが多く、大口バイヤーの行動の影響を受けにくい。これらの農家は現在FNCの後ろ盾を得て、短期的な供給不足の可能性に備えヘッジとして先物契約を進めようとしている。今年に入ってからコロンビアペソはドルに対して20%も価値を下落させているため、FNCは小規模生産者に販売を促すために高値を払うことができる。現在の高値が維持できれば農家は次の収穫期に思わぬ恩恵を受けることができるものの、輸出期には歴史的な不安定さが待ち受けていることは確実である。

・労働力確保の難しさ

コロナウイルスの封じ込め措置は、手作業への依存が大きいコーヒー業界に影響を与えている。多くの大農園が地元のエリアで確保できる労働力は50〜60%にすぎず、さらにほとんどの季節労働者がウイルス感染リスクの高い共同宿泊施設に滞在する。しかも、農園への通勤には公共交通機関の制限という壁がある。

アンティオキアのシウダード・ボリバルにあるカフェ・ロルダンのオーナー、Samuel Roldanは「医療従事者が最前線にいるというのなら、農業従事者は第二線だ。農業は止めることができないし、もし止まったら社会は混乱に陥ってしまう。影響はまだ実感していないが、もしウイルスのせいで農業の生産や流通に影響が出てしまえば、社会は健康被害以上の問題に直面するだろう」と語った。

労働者が安全に移動できるようにするための政府の支援がほとんどない中、大農園はリソースや影響力を使って制限をなんとか回避しようとしている。通常より10〜20%高い給料を提示して、より大きな近隣の町から仕事のなくなった小売店、接客業の労働者を調達し状況に素早く対応しようとしているのだ。

それに対して小規模農家は家族総出で収穫に臨めるが、より切実に労働力の確保が必要な中規模農家は大規模農家の資本力の前には為す術もない。しかも大農園ですら収穫量が予定量に届くかは不明で、さらには公衆衛生当局が労働者が農園にウイルスを持ち込むという懸念の下厳格な隔離措置、”「密」を避ける” 措置を徹底しており、これによる収穫能力の急激な低下は確実である。

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今回の記事は少し長くなるので、前後編に分けて投稿します(後編は明日投稿します)。

今回の記事を訳すにあたって意訳を多く含めました。原文のニュアンス・意図からは少し外れてしまった可能性もありますが、文章の読みやすさ、意味の通りを優先して記載しました。

この記事はコロンビアのスペシャルティコーヒーサプライヤー Those Coffee People の共同創立者である Jennifer Poole 氏によって書かれ、この表現や見解は全て筆者のものであり、Daily Coffee News や私自身の意見や意思を必ずしも共有するものではありません。

junko