【COVID-19】スペシャルティコーヒーロースターへの調査と回答:パンデミック後、どうコーヒー生豆買付は変化する?

元記事:As Uncertainty Continues, Specialty Coffee Roasters Adapt Sourcing Plans - Daily Coffee News [Peter Roberts and Kayla Bellman | June 17, 2020]

COVID-19パンデミックの初期のたった数週間、避難場所の確保やソーシャルディスタンス(注釈:「密」を避ける行動のとり方)が小売市場で様々な混乱を引き起こした。これはサプライチェーン全体の問題や先行きの不確実性を引き起こして、こうした課題は現在、世界的な景気後退の長期化という現実的な懸念によってさらに深刻化している。 


こうした問題の蓄積とともに、COVID-19 パンデミックがスペシャルティコーヒーのサプライチェーンに与える長期的な影響についての検討が重要である。具体的には、ロースターのコーヒー生豆の調達計画や優先順位の経過記録などが挙げられる。5月の初めの2週間、我々は Transparent Trade Coffee のSpecialty Coffee Transaction Guide(注釈:スペシャルティコーヒー取引ガイド)のデータ提供に同意する、Transparent Trade Coffee のウェブサイトに登録している、取引透明性に関する誓約書に署名している、のいずれかに該当する64社のスペシャルティコーヒーロースターにアンケートを送付した。


この調査は、ロースターが直面しているグリーンコーヒーの調達計画・優先順位の変更と、小売の混乱との関連性を明らかにする目的で行われた。サンプル(注釈:コーヒーロースター)は、”ダイレクトトレード” を行う先進的なロースターに偏っているものの、これらの思慮深い企業が COVID-19 による直接的・間接的な問題にどのように対応しているのか知ることができた。 

最終的に私たちは37社の焙煎業者から回答を得た(回答率58%)。回答者のうち20社は北米、13社はヨーロッパ、4社はその他の国に拠点を置いている。 回答を総括すると、ほとんどの回答者が小売の混乱により調達計画の変更を余儀なくされており、特にスペシャルティコーヒー市場において生産者の見通しは暗くなっていると回答している。

・小売業の混乱
・”ダイレクトトレード” の混乱
・短期的な課題
・協力関係の維持


小売業の混乱


ほぼ90%の焙煎業者が小売販売の構成に様々な変化(店舗売上の減少、オンラインストアの売上増加、生鮮食品売上の増加など)があったと回答した。回答者の約3分の2が、総販売量の大幅な減少、融資やその他の緊急資金の必要性、従業員のレイオフ(一時雇用停止)、コーヒーショップの閉店・閉鎖などの問題を報告している。さらに、これらの複数の問題は同時に発生しており、回答者平均でこれら5つのうち3から4つをCOVID-19パンデミックの最初の1か月間に経験したと報告した。

これらの問題がスペシャルティコーヒーのサプライチェーンにどのような影響を及ぼすかを知るために、各ロースターに対して今後12~18か月間の生豆の仕入れ方法や変更点に関して質問した。これに対して11社(約30%)のロースターは大きな変化を予想していないと回答し、これらのロースターと仕事をしているコーヒー生産者にとっては安心感を与えている結果となっている。

しかし、37社中26社がグリーンコーヒーの調達方法に大きな変化があると予測している。小売の問題に直面しているロースターほど大幅な調達方法の変更を検討する可能性が高く、そういった企業が平均3.7件の問題を報告しているのに対し、他の11社のロースターは2.8件の問題を報告している。
より詳細には、主に売上の減少、従業員の解雇、融資や緊急資金の必要性などが特に影響している。 スペシャルティコーヒー生産者にとっては、これらの調達先変更がどのような形で行われるかが重要である。そこで、購入の優先順位や購入方法の変更に際して最も起こりうる可能性が高い5つの点を挙げるよう質問した。その結果80 件の回答を得て、約半数のロースターが購入する生豆の量を減らす計画を持っていると回答し、小売販売量の減少と財務状況の逼迫を反映した。

”ダイレクトトレード” の混乱


ロースターの中には、全体的な購入量の削減に加えて取引先の数を減らす計画を立てているところもある。例えば、既存のパートナー(生産者)からできるだけ多くのコーヒーを購入するために別の新規の生産者からの購入を断念したり、購入する国の数を減らしたり、特定の原産地を購入リストから除外することを計画しているところもある。


2 番目に多い変化は、オリジントリップに関するものだ。カナダ、ブリティッシュコロンビア州ペンティクトンにある Seis Cielo Coffee は、「コーヒーをカッピング(テイスティング)し、選ぶためのオリジントリップに出向くことができなくなる」と回答した 10 社のロースターのうちの 1 社だ。農園訪問はダイレクトトレードにおいて非常に重要なプロセスであり、もし農園訪問が困難になれば、品質やフィードバックを購入者から直接確認したい生産者にとっては不安要素となる。 

生産者とロースターは、他の主要な調達プロセスの変更にも対処しなければならない。例えばオーストラリアのメルボルンにある Seven Seeds Coffee Roasters は通常、取り扱う生産地のうち2か国で生産処理施設における品質管理を行っているが、今年はそれを行うことができなくなった。同メルボルンの Rumble Coffee Roasters は「起こりうる輸入の問題に備えるため、より多くのコーヒーを国内で保管することを考えている」という。また、ドイツ、フライブルクの Elephant Beans のように、収穫期前に資金面でのサポートをすることにリスクを感じ始めているロースターもいる。


短期的な課題


短期的な課題としては、スペシャルティコーヒー業界の短期的な発展や、より収益性の高い高品質分野への参入を目指す生産者にとっての課題が挙げられている。 4 社のロースターは、品質向上の誘引となるプレミアム価格が上がらない可能性を指摘し、さらに需要が高品質のコーヒーから低価格帯のコーヒーへとシフトしていることを報告した。


Wonderstate Coffee(旧 Kickapoo Coffee、アメリカ、ウィスコンシン州ヴィロクア)は、「高品質コーヒーの購入により慎重になる」と答えた4 社のうちの 1 つだ。3つのロースターは深刻な収益の減少とコストの圧迫に対処するため、スポット商品の購入を増やすことで凌ぐ計画をしている。より多くのロースターが高品質のコーヒーを買い控えすることは、同時に生産者の高品質コーヒー生産への投資が弱くなることを意味する。 さらに悪いことに、オリジントリップのキャンセルは、スペシャルティコーヒーのバイヤーに直接働きかけて差別化を図ろうとする 生産者にとって、重要なアクセスポイントを制限することになる。

また、ロースター側は信頼のおける生産者との取引が増えてきているため、信頼性の低い市場との関係は二重に悪化しており、他の新規の生産者がスペシャルティコーヒー事業に参入しにくくなっている。 また、購入量の減少、低品質品や低価格帯への需要の移行、販売プロセスの効率性の低下などが相まって、先行きの不確実性は深刻化している。あるロースターは、今後 2~3 年の予測を調整中であり、別の企業は需要の変化に応じて現在も見通しを調整中だという。

協力関係の維持


これまでの結果のほとんどがネガティブな方向を示しているが、悪いことばかりの調査結果ではない。生豆調達の課題や不確実性を相殺しているのは、何年にもわたって築き上げられた強固なサプライチェーンの関係だ。 多くのロースターは、信頼関係にある生産者パートナーとの間で販売を約束し、販売量を維持する可能性が高いと報告している。

アメリカ、ニュージャージー州ハイランドパークの Penstock Coffee は「トレーサビリティーと情報の透明性が高い、現在取引している生産者からのコーヒー供給を継続していく」と答えた。同ミシガン州トラバースシティの Higher Grounds Trading Co. のように生産者との長期的な関係を築くことで「この波を一緒に乗り切ることができる」と考えるロースターも多い。 このような試練の時期に必要とされる相互調整がサプライヤーとバイヤーの長期的かつ健全な関係維持のために良いだろうという楽観的な考えも少なからず存在している。 ブラジルにある Priscilla Soares Roasters は「私たちは皆同じ状況下にあり、このことがむしろ私たちの関係をより良いものにし、一緒に仕事をすることで相乗効果が生まれ、私たちの距離を縮めるだろう」と考えている。

 世界が短期的なショックから長期的な不況へと移行する中、スペシャルティコーヒーのバリューチェーンの両端には未だ多くの混乱が残っている。COVID-19 に関連する暗雲がいまだ立ち込める中、生産者とロースターとの健全な関係の構築を維持し続けることこそが一筋の光となるだろう。

----------------------------------------------------------------------------

junko