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交縁少女AYA 第11話

NPO法人『マザーポート』の、埼玉県戸田市にある適応支援ハウス。
広めのフローリングの部屋で、白いダイニングテーブルに座る綾と愛莉、そして対面して座る五十嵐。
時刻は午後5時まで、あと10分ほど…

「ここでは、立ち直らせたい男の子や女の子のカウンセリングをしたり、社会の適応支援もしたりしている」
組んだ両手をテーブルの上に置いて、五十嵐が話している。
「岡崎和真くんも、ここで支援を受けた」
それを聞いた途端、綾と愛莉の顔色がサッと変わる。

「――…、それって――」
「そう…。あの岡崎くんだ」
愛莉が思わず顔を横に向け、隣に座る綾を見る。

「――…そンなンじゃナイ」
動揺を隠すように、五十嵐をキッとにらみつけている綾。
「そうだな。君たちが知りたいコトは、そんなんじゃないよな…」
平然としたままの五十嵐が、腰を浮かせて座る姿勢を直している。

「オレが知る限りの事は話すけど、聞くに堪えないコトもあるが――」
「構わない…」
表情を強張らせて、五十嵐を睨みつける綾が、言い放っている…


「犯人の顔は、見た?」
「いや…」
五十嵐は椅子から立つと、部屋の端の棚から新聞を一部取ってきて、バサッとテーブルに置く。

「?!――こいつ…」
二人がハモって驚いたのは、新聞の一面に載る顔写真の男に、見覚えがあるからだ。
以前に、二人がホストクラブ『得夢』に行く途中、すれ違った葉月と腕を組んでいた中年男…

「あくまで俺が知ってるのは、マタ聞きでしかないんだが…」

******************

110番通報した男性が、葉月とラブホテル深雪の部屋に入ろうとしていた所を、犯人は襲撃した。
包丁で脅した犯人は、男性から引き剥がした葉月と部屋に入り、中から鍵をかけてしまう。

通報した中年男性は、葉月とデート中だったとのことだが…
どう考えても、パパ活の最中だったのだろう。

葉月と犯人が死んでいるので推測だが、葉月は殺害される前後に姦淫されていたらしい。
遺体を司法解剖した結果、膣内から犯人の精液が検出された。
その結果から、導かれた推測だ。

そして葉月は、包丁で胸をひと突きされて死んだ…――


「――…大丈夫か?」
顔を青ざめている綾と愛莉を見て、五十嵐がいきさつを話すのを中断する。
「――ゴメン…、あたし、ムリ…」
ハンカチを口元に当てて、ゼエゼエ言っている愛莉。

「――…それで?」
顔を青ざめながらも、気丈に振る舞っている綾。
「胸を刺した犯人は、7階の部屋の窓から素っ裸のまま飛び降りて――」

――ウッぷ!…

口元を押さえて立ち上がった愛莉が、顔を引きつらせてドタドタと、小走りで部屋から出て行く。

「犯人の身体は、パトカーのボンネットでバウンドしてから地面に転落、そこで即死というワケだ」
取り残された綾は、顔を強張らせたまま呆然自失している…


「――…いいか?君たちは、これだけ危険な火遊びをしているんだ」
五十嵐が机に載せて組んだ両手に、力を込めて話す。

「相手にしている男たちは、君たちを自我のある人間とは見ていない。単なる性欲の捌け口としか、見ていないんだ!」
疲れ果てた表情の綾が、弱々しい視線を五十嵐に向けている…

「君たちを、人間扱いしない連中を相手にするんだぞ?危険過ぎると思わないのかッ?!」
真っすぐに綾を見て、言い放つ五十嵐。

「女の子を人間扱いしない奴に、マトモな奴がいる訳ないじゃないか!」
「………」
「そんな連中が、何をやらかすか分かったもんじゃない事が、今回の件でよく分かっただろう?」
紅潮した顔の五十嵐が、上がった息を抑えるようにしている。

「女の子に話せるようなコトじゃないけど、あえて俺は――」
「五十嵐サンは…」
気力を振り絞って、五十嵐の話を綾がさえぎっている。

******************

「犯人が…、どうして葉月を、殺したと思う?」
机に載せていた両腕を胸の前で組んで、五十嵐が思案している。
「多分、ヤツの思考は…」
あごを引きながら、上目遣いで五十嵐を直視している綾。

「こいつは、俺のオンナだ。俺のオンナに、手を出すな…」
「………」
「オマエは、俺のオンナだ。俺以外の男と寝るな、って…」
「そンなの――」

「そう…。身勝手な独占欲だな」
眼を大きく見開いた綾の口元が、ワナワナ震えている。


「だから他の男に寝取られるぐらいなら、いっそ殺してやろうと――」
「は、葉月が誰とパパ活しようと、そンなの自由ジャンか!」
「そもそも、パパ活したらダメだけどな」
ニヤリと笑う五十嵐に、綾は一瞬ひるむが、負けじとまくし立て続ける。

「あンな『おぢ』のクソ野郎に、葉月をしばる権利なンてねぇジャンか!」
「それは、そうだな」
「――そンなんで葉月は…、そンなんで、葉月はぁ…」
「そう。殺されたんだ」

五十嵐を直視している綾の眼から、涙が一筋ツーッと頬を伝う。
腕組みをしている五十嵐は、表情を柔らかくして、優しげな眼で綾を見つめている…


「こんばんワー!」
玄関の方から引き戸が開く音がして、少年らしい声がする。
パタパタと廊下をスリッパで歩く音が、部屋の入口で止まる。

ゆっくりと綾が、涙で濡れた顔を入口の方に向ける。
右手でぬぐった眼をパチパチさせて、部屋の入口を凝視している綾…

そこには以前、綾をレイプしかけた和真少年が立っているではないか。


視線を合わせた綾と和真は、その場で凍りついてしまう。
一切の音が消滅した静寂が、二人を取り囲む空間にただよっている…

ハッとした和真が、きびすを返して玄関へと向かおうとする。
次の瞬間、レイプされた記憶のフラッシュバックが、綾を襲う――

******************

――ブラウスがはだけて、ブラジャーが外され…

スカートは履いているが、下着が脱がされていて股間がスース―する。
露わになっている綾の胸が、鷲摑わしづかみにされている感覚がある。
意識が朦朧もうろうとしていて、身体が思うように動かない…

――お酒って、こんなになるンだ…

初めてアルコールを飲まされたことを、後悔しているが手遅れだ。
焦点が定まってきて、誰かが自分の上に載ろうとしているのが分かる。

これは…、カズマ?
口は動くが、声が出ない。


…ヤメて――
股間が和真の手で、まさぐられている。

…イヤだ――
次の瞬間、何かが強引に、体内へ侵入して来た――

「――ヒイイィ~ッ?!」
股間に激痛を覚えた綾は、大声を発して全身で抵抗する。

和真のハアハアという荒い息づかいが、鮮明に聞こえる。
強引に力づくで押さえつけられている綾には、為す術が全くない。

抵抗空しく和真が、綾の体内への侵入を、強引に完遂しようとしている…

――イタァイィー…、ヤメてエェェッ~…



「逃げるのかっ?!岡崎くん!」
五十嵐の大声でハッとした綾は、フラッシュバックから引き戻される。
五十嵐が立ち上がり、背中を向けている和真を呼び止めている。

「木村さんに謝りたいって言ってたのは、ウソなのか?!」
立ち尽くしている和真の背中が、小刻みに震えている…


「――あンた…」
トイレから戻ってきた愛莉が眼を丸くして、和真から少し離れて立ちすくんでいる。
やがて、ひとしきり吐いて蒼白だった愛莉の顔が、みるみる紅潮していき…

「…このっ――」
血相を変えた愛莉が、和真につかみかかろうとする。
ハッとした五十嵐が、慌てて部屋の入口へと走る。


「――ちょっ、ちょっと待てって!」
愛莉を背後から羽交い締めにして、五十嵐が懸命に食い止めている。
鬼の形相でジタバタもがく愛莉が、和真を睨みつけている。

そのかたわらで和真は、うつむいていた顔を上げ、口をキッと一文字に結び、軽くうなづいている。

すると素早くフローリングに和真が、綾の方を向き両手をついて座り込む。
「――ずっと、謝りたかったんだ…」

次の瞬間、和真はゴンッと音を立て、フローリングにひたいを押し当てて土下座する。

「ホッ――、ホントにっ!…――申しわけっ、…ありませんでしたっっ!!」

******************

「――でっ、デタラメ言ってンじゃねえよッ!!」
激高した愛莉が、座っていた椅子を後ろに倒して、勢いよく立ち上がる。

「本当だ」
対面に座っている五十嵐が、毅然とした表情で愛莉を見ている…

張り詰めた空気が、四人がいるマザーポート適応支援ハウスの広めのフローリングの部屋を、ピリピリと占めている…
「芹澤くんが岡崎くんに、木村さんをレイプするよう仕組んだんだ」

愛莉が顔を紅潮させて、口元をワナワナ震わせている。
愛莉の隣には、鳩が豆鉄砲をくらったように呆然としている綾が座っている。
五十嵐の隣には、自分が怒鳴られたワケではないのに、和真が縮こまって座っている…


「…信じられないのか?」
「あっ、当ったり前でしょッ!それじゃあ、綾が――」
「田澤愛莉16歳、6月14日生まれ。日野市立高幡中学校卒業、小学校卒業と同時にトー横デビュー…」
五十嵐から早口で言い放たれているうちに、愛莉の顔の紅潮が、みるみる引いていく…

「トー横に行ったきっかけは、父親から――」
「やめてっ!」
綾が大声で叫び、五十嵐を睨みつけている。
五十嵐は、何が?という表情で平然としている。

顔面蒼白になった愛莉は、倒した椅子を引き起こし、スゴスゴと座り込んでしまった…



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第12話はこちら… https://note.com/juicy_slug456/n/nba133517bbc6

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