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アオハル♂ストライカー 第4話

☆選考対象外ですが、ぜひ読んでみて下さい!


「――あれ?…」
背後に気配を感じた陽菜が振り向くと、生徒会副会長の坂井明日香が立っている。
生徒会活動を終えた制服姿の明日香が下校しようとしていたら、泰斗が放ったドライブシュートの派手な音に足を止めていたのだ。

「坂井ぃ、帰るの?」
陽菜は1年生の時に明日香と同じクラスだったので、わりと親しい。
「相変わらず、スゴいシュート撃ってるネ」
陽射しを避けて、ひたいに右手をあてている明日香。


「…塚本、どうしたの?」
グランドで走る泰斗を、呆けたようにガン見してたたずむ美咲を見た明日香が、怪訝そうにいている。
「あ――、あぁ~…」
どう説明したものか、悩んでいる陽菜。

「美咲は――、ほら…、ねぇぇ…」
曖昧な陽菜に、明日香は訳が分かっていない。

「坂井が…、ほら…、全然キョーミないこと――」
「――あぁ~…、そういうコトね」
ようやく合点がいって、大きくうなづいている明日香。

「男子ってサァ、ゴキブリとハイエナを足して2で割ったようなモンなんだからサァ」
明日香が、両手を横に広げ呆れポーズをしている。

「せいぜい気を付けないとネェ…」
毒づいて立ち去って行く明日香を、苦々しげに陽菜が見ている。
「――…、足して2で割ったようなモンねぇ…」



そうこうしているうちに時間が経過し、午後1時になって部活は終了した。
汗まみれの部員たちが水飲み場の蛇口を上に向け、頭から水を被っている。

髪の毛を含め上半身ずぶ濡れになった泰斗は、他の部員たちと歩きながらタオルで身体をぬぐっている。

「――ちょっと、永井くん」
泰斗の隣を歩いている颯一が、美咲に呼び止められたので振り向く。

「短パン、破けてるじゃない」
颯一が視線を下に向けると、自分が履くサッカーパンツの左側が裂けてしまっている。
練習中にボールの奪い合いでもみ合った時に、やぶかれてしまったようだ。


「貸して。直したげる」
美咲が颯一に、右手を差し出す。
「――え?ここで、…っスか?」
戸惑う颯一。

「なにはずってンのよぉ」
今更という表情の美咲。
「いっつも、あたしらの前で、平気で着替えてるジャンよ」
美咲が横目で見ると、ウンウンと陽菜が頷いている。

颯一は上着のシャツを目一杯下ろして、下着のトランクスがゾロゾロと部室に向かう他の部員たちに見えないようにして、渋々とサッカーパンツを脱いでいた…

********************

部室の中は、着替える部員たちでごった返している。
泰斗がロッカーを開けて制服に着替えていると、貴芳が着替えをしながら近寄って来た。

「今日、バイトか?」
泰斗に訊く貴芳。
「そう、4時から」
「じゃあ、時間までマックすっか?」
「おう」

ふと貴芳が見ると、着替えを終えた悠真が、出て行こうとしている。
「何だよ、悠真。帰っちゃうのかよ?」
「わりイ。俺、ちょっと…」
右手を上げて、詫びている悠真。

悠真が部室の入口扉を開けると、外に陽菜が立っている。
悠真は振り向いて、右手でバイバイしながら扉を閉めた…


「かあぁ!見せつけてくれるねぇぇ」
着替える部員たちが、思わず振り向いてしまうほどの大声で、貴芳が叫ぶ。
「男の友情より、女かよ。マジ、薄情じゃネ?」

「…たしか、和泉の方からコクったんだよな?」
「そう。中三の時にな」
陽菜も平瀬中学校の卒業生で、悠真を追って鷲ヶ峰高校に進学したほどゾッコンなのだ。

「これから、デートってか?」
「けっ。どうせ、イチャつきまくるんだぜ」
嫉妬に満ちあふれた顔で、毒づいている貴芳。
「あ~あ、俺も誰かとイチャつきてえなぁ」

貴芳のボヤきを聞いた泰斗は、ふいに萌とのランニング中に、優梨恵を想ったことを思い出す。
萌のことが気になっているはずなのに、である。

優梨恵と初めてLINEを交わした時の、頭から離れないトークが湧き上がってくる…

――ト・モ・ダ・チなんだからサ……


「何、ボ~っとしてんだよ?」
貴芳に言われて、我に返る泰斗。

「あ、いや――」
とっさに取りつくろって、宙を見上げる泰斗。
「デートって、どんな感じなのかなって…」
「…そりゃあ、おまえ――」
答えに詰まってしまう貴芳。

「やっぱ、いい感じなのかな?」
「なンじゃねえの」
ぶっきらぼうに貴芳が言うが、
「それ以前に、俺ら、彼女、いねえし…」

「彼女と付き合うって、どんな感じ何だろ?」
胸の前で両腕を組んで、泰斗が考えている。
「あこがれちゃうよなぁ……」
両手を腰に付けて、宙を見ている貴芳。

着替えを終えていない中途半端な格好のまま、ボーっとして固まっている泰斗と貴芳を、着替え終えた部員たちが不審顔でジロジロ見ながら、部室から出て行っていた…


********************


その日は午後から急に天気が悪くなり、雨が降り出した。
本降りの雨だ。
昨晩と朝の天気予報では、雨の予報は出ていなかった。

鷲ヶ峰高校のグランドは水捌けが悪く、瞬く間にぬかるんでしまう。
グランドでの部活動を予定していた運動部は中止にせざるを得ない。
サッカー部も、例外ではない。

全国選手権神奈川県2次予選の初戦まで、残り2週間あまりの大事な時期なのだが、とても練習が出来るグランドコンディションではない。
なので、サッカー部の面々は授業終了後のホームルームが終わると、各々家路についていた。


傘を持ってこなかった生徒は大勢いて、校舎の玄関は傘が無いので帰るに帰れない生徒たちで、ごった返している。
中には意を決して本降りの雨の中に、そのまま飛び出して行く生徒も見受けられる。

そんな玄関に佇む生徒たちの中に、栗色のボブショートヘアの美咲がいる。
美咲は恨めしそうな眼で、降りしきる雨を見つめている。

「センパイも傘、持ってないんスか?」
呼び掛けられた美咲が振り向くと、颯一が立っている。

「そうなのよ。天気予報を信じちゃったら、これだもン」
「俺もっス…」
玄関のひさしの下にいる大勢の生徒たちに混じって、二人は横並びに立って雨を見ている…


「――止みそうもないネェ…」
嘆く美咲に、颯一が無言で頷いている。

「まぁ、部活が中止になっちゃって、どうせヒマだからいいンだけど…」
「そうっスね…」
美咲に同意している颯一。

「――あれ?小河原くんは?」
「あいつは折りたたみ傘、持ってたんで、先に帰っちゃいました」
「なぁんだ。男の友情って、薄いのネェ~」

「そ、そういうセンパイこそ、和泉さんは?」
うろたえ気味に、言い返す颯一。
「決まってンじゃん。佐々木くんと、相合傘で帰ったわよ」

「――俺が、傘、持ってれば、よかったんスけど…」
「え?」
少し照れ気味に言う颯一の方に、首をかしげた美咲が向く。


「――こ、この間は、…ありがとうございました」
前を向いたまま、照れ臭げにしている颯一。

「え?何がよ?」
怪訝な顔の美咲。

「――ほ、ほら…、短パン、縫ってくれて…」
「あ――、ああ~…」
「ちゃ、ちゃんと、――言ってなかったンで…」
「いいのよぉ、そんなの――」

「なんだぁ?お前らも傘、持ってねえのかよ?」
いきなり、背後から声がする。
颯一と美咲が振り向くと、褐色かっしょく顔の貴芳が立っていた。


「塚本は、和泉に置いてきぼりかぁ…」
美咲の右隣に並び立って、いやらしげな貴芳。

「薄いネェ、女の友情って」
「違うの!あたしはバス停まで行けば、どうにかなるから気にしないでって、あたしが言ったの!!」
むくれた美咲が、言い返している。

「そっか。塚本は、バス通学だもンな」
合点がてんしている貴芳。
「そうよ。大きなお世話よ、まったく」

「俺は泰斗と、相合傘して帰るけどネ」
ドヤ顔であごをしゃくる貴芳の、後ろを見ると…
折りたたみ傘を右手に持つ、泰斗が迷惑顔をして立っている。
「勝手に決めてンじゃねぇって…」


「――じゃあ、俺は、これで…」
ぶっきらぼうに会釈をした颯一は、降りしきる雨の中に飛び出して行く。

「あ――」
美咲が右手を伸ばしかけるが、颯一の姿は雨の中に消えて行った。

「――なンだ?あいつ…」
怪訝な顔の泰斗。
「急いでンじゃねえの?止みそうもねえし…」
降りしきる雨を見ながら、そ知らぬ顔の貴芳。

せっかく美咲とイイ感じで話せていたところをジャマされて、颯一がイラついてしまったことを、泰斗と貴芳が知るよしもない…

********************

「ほら。ウザいから、さっさと帰ってよ」
美咲が右手で貴芳のことを、シッシとしている。

貴芳がムッとして眼をむいていると、
「これ、使えよ」
泰斗が折りたたみ傘を、スッと美咲に差し出す。

「え?…栗林くんは、どうすんのよ?」
美咲が驚いた顔をしていると、
「いいンだって」
涼しい顔で応じる泰斗。

「俺は岩っちと、ランニングして帰るから」
貴芳の方をチラ見している泰斗。


「で、でも、制服じゃない」
 戸惑っている美咲。

「関係ねぇって。なあ、岩っち?」
マジかよ、と言わんばかりの顔をしている貴芳。
「だ、だめよ、そんなの――」
「いいんだって」

泰斗が困惑している美咲に、折りたたみ傘を押し付けるように手渡すと、
「ほら、岩っち、行くぞ!」
貴芳の肩を叩いて、雨の中に飛び出した。

「お、おい?!泰斗ぉ~」
貴芳が慌てて泰斗を追って、雨の中に飛び出して行った…


ポツンとその場で、困惑したまま立っている美咲…
泰斗から手渡された折りたたみ傘を右手に持って、啞然としている。

やがて、美咲の口元が徐々に緩んでいく。
微笑んだ美咲は、折りたたみ傘をギュッと握りしめていた…

********************

降りしきる雨の中を、スポーツバックを背負って泰斗と貴芳が駆けている。

「泰斗よぉ…」
貴芳がずぶ濡れの顔で、雨で眼をしばたたかせている。

「――おまえ、塚本に気があンの?」
「そんなんじゃねえって」
ずぶ濡れ顔の泰斗が、貴芳の方を見る。

「俺だけ傘差して帰ったんじゃあサ、岩っち、イラついちゃうだろ?」
「だからぁ、相合傘して帰ろうって――」
「モテねぇ男同士で相合傘なんて、キモいじゃんか!」
「そっかぁ~、そうだナァ」
泰斗と貴芳は笑い合って、雨の中を駆けて行った…



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