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*フィクション* 最後のハグ(7秒)

「最後の1秒は あなたが決めてね。
  いぃち  にぃい  さぁん  しぃい  ごぉお  ろぉく…」

随分 間延びした カウントを6まで数えて
言葉をめた。

終らない ハグ 。あなたとの最後のハグ。
私はあなたの腰に回した手にギュッと チカラを込めている。

私とのことを 忘れて暮らしてほしいけど
私のことを 忘れて欲しくない。

そんなワガママを込めて。



争いごとが苦手な彼氏と 上手くいっていると思っていたんだ。穏やかな付き合いって こんな風なんだなって。言葉遣いも穏やかで 誰に対しても同じように接する人だったんだ。

『優しい』って 人によっては種類があって 一言では表現できないけれど とても難しい。



今思えば
「喧嘩にならないことは 良いこと」

「喧嘩しても 解決して仲良くしてゆくこと」
を理解できていなかったのかもしれないね。

だから 私の中で最優先は 
「喧嘩にならないこと」=「良いこと」
と思い込んで いつの間にか「目標」みたいになって 「好き」とかの感情はどこかに置き去りにしてしまって 自分の考え・意見や感覚を後ろに回してでも 彼に合わせて 争いごとにならないことが「良いこと」にすり替わってしまったんだよね。

「好き」が始まりのハズだったのに 二人の関係を続けることそのものを「目標」にしてしまって そのために お互いに(主に私が)相手に合わせすぎて ストレスを感じてしまう。そしてギクシャクして誰かに助けを求める…。



「なんでも言ってよ。聴くだけだけど、。」

最初は本当にその通りだったあなたの言葉に
途中から それ以外の感情があるのに気がついていたんだよ 私。

普通はさ  興味のない異性の話なんて聴かないでしょ?

 あまりにも親身になって聴いてくれるから つい話し過ぎちゃったよ。

女友達に相談しても「ヤメヤメそんな彼氏。ソレ我慢し過ぎだって。相手に合わせ過ぎは良くないよ?次行こう次っ!」ってストレート過ぎる 答えばっかりで 男の人側の気持ちがいまひとつ分からなかった。

 結果的には
あなたは私のことを
「守りたいと考える対象」になったし
私もあなたを
「もしもこの人が 隣にいる人だったら」と
想像してみる日が来てしまったし
今日こうして
「やっぱり  さよなら、 しよ。」
と 私がこの状況に終わりを告げている。


「今の彼氏と別れてしまえばいい話だ」と言わないあなたは 本当の意味で優しいとわかっているから 
あなたと 7秒 最後のハグをして 
あなたと さよなら します。


最後の1秒を あなたに預けて さよなら します。
最後の1秒に あなたの想いを込めてください。


「最後の1秒は あなたが決めてね。
  いぃち  にぃい  さぁん  しぃい  ごぉお  ろぉく…」



                            #フィクション # 最後のハグ(7秒)