由井薗先生「教材づくり講座」
1 教材7分,腕3分
加藤秀俊さんの「教材7分,腕3分」という言葉。
由井薗先生もセミナー中にこの言葉を引用されていましたが,それを実感することができた1時間半でした。
よい材料を吟味,準備をすることで良い結果が生まれる…70%は授業前に決まってしまう,ということです。
ですが,その材料を使えば,誰でも良い授業ができるということではない,と思います。目利き,仕込みを経ることで材料が活きます。
盛りだくさんの内容で全てを再現することはできませんが,由井薗先生に教えていただいたことを書かせていただきます。
2 広げ,深め,しぼる
教材とは「学び手である子供と,教材目標・学習内容を結び付けるもの」。
内容だけではなく,どのようにそれを子供に届けるかが肝心です。
そこで,由井薗先生は二つの教材研究を示しました。
① 教材の本質を明確にする「広げ,深める教材研究」
② 一人ひとりが追究するための問いを成立させる指導方法を探る「しぼる
教材研究」
教師自身が問いを持ち,学び続け,本質を明確にしていきます。
何を教えて,学ばせるか…。そこで四つのポイントを挙げられました。
「多面化,多角化,一般化,具体化」を通して,「見方・考え方」を成長させていきます。
水俣病で『具体化』をし,なぜ毒が止まらないのかと四日市ぜんそくやイタイイタイ病に『一般化』させます。そして「患者と生産者・消費者」「少数の犠牲者と大多数の利益」というように『多面化,多角化』させる。
社会問題について追究することに結び付ける。今日のセミナーの底に流れていたテーマだと思います。
3 四年「くらしを支える水」
蛇口まで水がどのように届くのか,またそれを支える人の仕事にはどのようなものがあるのか。
由井薗先生は小河内ダムを資料化されました。
そのプロセスが壮絶です。
Nという食堂が,ダムに沈む前の地図にもあったということに気づき由井薗先生は取材に行かれました。
旧小河内村の小学生の作文がそのお店に多数ありました。
「水をためて,大ぜいの人のためになるのだからいいのです。」という文章にフックがかかりました。無理やり自分に言い聞かせているのではないか…。
一軒一軒訪ねてみると,「畑が昨日まであったのに…。とにかく小河内のことを忘れないでほしい」という記述も見つけました。
納得するまで足を使って調べ尽くす。由井薗先生の「広げ,深める教材研究」の真髄を見つけました。
ここまで力を入れたのだから,僕だったら子供たちに伝えたくて仕方がなくなります。でも,それでは子供はお腹いっぱいになった考えることをやめてしまいます。大切なのは,それを精選することです。
4 しぼる教材研究
枝葉の切り落とし。子供たちの思考が「ひき潮」にならないように,資料を精選,加工しなければなりません。
由井薗先生の導き出した問いは,
『自分が小河内村の住民だったらダム建設に賛成できるか』…。
すると賛成派,反対派で話し合いが平行線に。そこで由井薗先生が945の全世帯がダム建設の誓約書に判子を押した,という「インパクトのある事実」を提示。
それでも子供たちは
「一軒一軒判子をおしてくれとまわるとおしかけているように感じる」
「あるじ(世帯主)じゃない人が反対だったら?」となかなか納得のいかない様子。
そこで『なぜ全世帯が判子をおしたのか』という新たな問いに。
「人のいる風景」と「事実とのインパクトのある出合い」から自分たちの問題を見つける。授業作りでとても大切なことを教えていただきました。
5 子どもありきの教材研究
二つの教材研究から「自分『たち』の教材」を作る。
「もう一度インタビューしたい」「友達の意見がめっちゃ気になるというふりかえりを子供たちが書くような教材。それが「自分たちの教材」だと由井薗先生はおっしゃいました。
3年生の総合的な学習の時間で実践された「小泉牧場物語」は「自分たちの教材作り」を具現化されていました。
6 クレーマーから牧場の応援団に
小泉牧場は練馬区大泉学園にある東京23区唯一の牧場で。小泉牧場は現在は孫の勝さんが三代目として経営の中心となり44頭の乳牛を育てています。また地域の人たちに向けて酪農体験や食・いのちの教育も行っており、練馬区の地域のシンボルになっています。
子供たちはそこに5回も見学に行き,取材を重ね,劇にまとめました。
その中で,勝さんが一番大変な仕事は23区で牧場を続けることではないか,と子供たちは問いを立てます。
「くさい,汚い,うるさい」という地域のクレームを,見学や体験学習という交流を経て小泉牧場の応援団に変わっていく。社会問題が解決した瞬間です。公民的資質の素地を養うために,こんなに適した学習があるでしょうか…。
少数の犠牲の上に,大多数の利益が成り立っている。
今回の裏テーマだったと思います。
原発,米軍基地,ゴミ清掃工場の建設。決してきれいごとだけでは終わらせることができない問題も社会科では考えなければなりません。
7 結びに
多くの大人から期待され,信頼され,見守られ,認められることで,子供たちの資質,能力は養われる。
終盤に由井薗先生がおっしゃっていた言葉。
これは我々が日々子供たちと接する上で,大切にしなければいけないことだということは言うまでもありません。
由井薗先生の教材研究に対する探究心の深さ,子供たちへの温かいまなざしを堪能することができたセミナーでした。足元にも及びませんが,できる限り自分の糧にしたいです。
ちんぺー_河根 慎一
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