心友

自分はよく腹を立てる。家人はそんな私を瞬間湯沸かし器と呼ぶ。
パンドラの箱じゃないが、腹が立ったりガッカリする反面、希望の光との出逢いがある。
私はそれを、“心友”と呼んでいる。

カタリン・カリコという66歳女性研究者が居る。
彼女は、メッセンジャーRNAを研究し続け今回の新型コロナワクチンのキーパーソンとなった人だ。
彼女が30歳の時、社会体制だった彼女の母国ハンガリーは経済に行き詰まり研究資金が打ち切られた。通貨の持ち出しが厳しく制限される中、車を売った僅かなお金を娘のぬいぐるみの中に隠しアメリカに渡りmRNAの基礎研究に没頭するが、殆ど評価されず研究費を減らされたりポストを降格されることとなった。
当時DNAの陰に隠れた彼女の研究は、同僚の研究費に頼るしかなく尊敬している人に批判されていることを知って傷ついたこともあったという。
それをどうやって乗り越えたかというと、『どうにもできないことに時間を費やすのでなく、自分が変えられることに集中しなさい』という愛読書にあった言葉に“その時の自分に何が出来るのか”に立ち返ることが出来たのだという。
「他人や環境は変えられません。自分がすべきことに集中するのです」と彼女は言う。
iPS細胞がmRNAの技術を使うと効果的に作れることをアメリカの研究グループが突き止めたことでカリコの研究が一躍注目され、今回の新型コロナのワクチンが一年足らずの短期間で開発されることとなったが、「それまでの長い研究歴史があったことを忘れてはなりません」と山中伸弥教授は言う。

何かに腹を立てている暇があったら、自分に出来ることを一つでいいからやってみろ!と、自分に思う。看却下、照顧却下だ。

今年、心友となった人にカリコの他に瀧本哲史が居る。
彼は、アリストテレスの「奴隷とは何か」という問いに「ものを言う道具」と答える。
自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の頭で考え、自分の責任で決めて行動する。
奴隷でも猿でもなく人間になろうよ。本を読んで終わりでなく行動せよ。
語って終わりにするな。
釈迦が入滅する時、弟子が次々と集まって来て「貴方が居なくなったらどうしたらいいのか?」と嘆いたらしい。
釈迦は「今こそ私の教え“自灯明”を実践する時が始まったのです。自分の目で見て聞いて考えて決めて行動するのです」
自らの中に自らが灯りを点け灯す“自灯明”を、自らの覚悟と意志で行う。
教えの最後は、行動だった。

釈迦の話をしていた瀧本哲史は、2020年6月30日にまたここで会おうというメッセージを残し2019年亡くなっていた。
 

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