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システム思考おぼえがき/リソース管理ゲームとしての日常生活
☆☆☆ noteは気楽な連ツイ感覚で!(おまじない) ☆☆☆
あるメンタルクリニックの先生いわく、「都会での女性の一人暮らしは基本的に無理ゲー」とのことだった。なにか特殊なスキルがあるとか、実家からの安定した経済的援助があるとかでなければ(いわゆるイージーモードってやつですね)、女性が都会での一人暮らしを長期的に維持することは出来ない。
これは先生の職業知から来ているのだろうから、完全無欠な真実かはわからないにしても、少なくともそう感じる充分な根拠はあるのだろう。
ところで「無理ゲー」というからにはゲームに例えているわけだが、それはどういったゲームなのか。
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おそらくそれはリソース管理ゲームということになるだろう。死ぬか、家賃が払えなくなるか、その他何らかの理由で一人暮らしを維持できなくなったらゲームオーバー。それからもう一つのルールとして、生活を維持しつつなにか目指すもの(クリア条件)があるかも知れない。なにも目標がなければ所謂エンドレスモードというやつですね。
日々の生活および突発的なイベントの繰り返しのなかで、いかに健康やお金、メンタル、スキル、人脈、名声、所持品といったリソース(資源)を維持するか、またいかに事故や犯罪、トラブルに巻き込まれるのを防ぐか、というのが基本的なプレイ内容となる。
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ここで少し話が迂回するのだが、ドネラ・H・メドゥズ『世界はシステムで動く』という本がある。
これはシステム思考についての本のなかでもとりわけわかりやすく、かつ実践的に書かれたもので、上でいう「リソース管理ゲーム」とかなり似たことを述べている――という驚きが、今回書きたいことの一つである。
メドゥズは次のように述べている。
システム思考家は、世界を「フローの操作によってその水準を調整するメカニズムが付いているストックの集合体」として見ています。
つまり、システム思考家は、世の中を「フィードバック・プロセス」の集合体として見ているのです。
解説すると、ここでメドゥズのいう「ストック」が、リソース管理ゲームで言うところの「リソース」に相当する。
そして「フローの操作」には「インフロー」と「アウトフロー」があり、ストックに入ってくるものがインフロー、出てゆくものがアウトフローとなる。典型的な例でいえば収入(インフロー)と支出(アウトフロー)だとか、食事(インフロー)と運動・代謝・排泄(アウトフロー)といったものだ。
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よく出来てるなと思うのは、晦渋なシステム論で説かれる、常に外部から何かしらを採り入れ何かしらを放出することによってかえってシステムの同一性が保たれるという対象の流動的性質にたいする認識を、動的平衡だとか散逸構造といった専門用語に頼らず、シンプルなストック/フローのモデルに内包させていることだ。
さて上の図は最小限の基本単位であり、実際にはもう少し込み入った場合が多い。
たとえばなにかを食べるというのは、胃袋にとってはインフローだが、食料の備蓄という意味ではアウトフローとなる。また食べ物を買うのは備蓄にとってはインフローだが所持金にとってはアウトフローとなる。
もし帰宅を待てないほど空腹が切羽詰まっていれば、割高で不健康な「買い食い」という緊急手段を取らなければならなくなる。親友と料亭に行けば、時間と金はかかるが、栄養だけでなく、くつろいだ時を過ごしてSAN値が下がり、人間関係にもボーナスポイントがあるかも知れない。特売を見つけても、冷蔵庫に空きがなければ少ししか買うことが出来ない、云々。
このように人生は絶え間ない選択の繰り返しであり、一つの選択がしばしば複数のストックに影響を与える。また選択によって突発的な出来事の可能性が上下する(コンパに行けば一定確率で素敵な出会いやさほど素敵でない出会いがある、深夜に帰宅したり人通りの少ない道を歩くと痴漢やひったくりに遭うリスクが高まる、等)。プレイヤーはあらゆる要素や可能性を考慮し、できるかぎり最適な判断を下すよう尽力する。
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リソース管理ゲームとメドゥズ流システム思考が、相当近しいことを言っているのが了解いただけただろうか。
もちろん日常生活だけでなく、会社経営にしても、極寒の地で共同体が生存するにしても、傭兵部隊を統率するにしても――また特定の相手との恋愛とか、なんらかの挑戦といった生活の一面をクローズアップするにしても――すべてストック/フローによるモデル化が可能であり、そうすることにって問題解決のために場当たり的な対応ではなく、本当はどこにてこ入れすればいいのかを知ることが出来る、とメドゥズは太鼓判を捺すのであった。ただし隠然たる影響を与えている要因を見落とす(モデルに拾えない)と大変なことになるけれど。
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さてここで話を終えてもいいのだが、せっかくなのでメドゥズが書いているノウハウのなかから基本的なものを幾つか紹介してみよう。
一つめは「ストックがあることで、インフローとアウトフローはそれぞれが独立し、一時的に両者間のバランスを崩すことが可能になる」という指摘。
逆にストックが枯渇する=自転車操業に陥ると、インフローとアウトフローの独立性が失われ、それぞれの領域で合理的な選択が出来なくなってしまう。たとえば資金繰りに困って高利貸しに頼らざるを得なくなったり、締切り前に徹夜を重ねて健康を損ねたり、上で述べたような、帰宅を待てずに買い食いしたり、冷蔵庫のスペースがなくてお得な買い物をパスせざるを得なかったりといった(下記の関連記事は、まさにそうした自転車操業状態の弊害を、とくに時間の欠乏に焦点を当てて書いたものです)。
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二つ目は、複数のフィードバック・ループ(同じ要因からくるインフローまたはアウトフローの繰り返し)のなかで、支配的なループが存在すること。メドゥズいわく、
ひとつのループが別のものよりも支配的である場合、挙動への影響も大きくなります。多くの場合、システムには、同時に作用しているいくつもの競合するフィードバック・ループがあるため、システムを支配していループが挙動を決めることになるのです。この「支配」という考え方は、システム思考で重要な概念です。
ひとつのループが別のものよりも支配的である場合、挙動への影響も大きくなります。多くの場合、システムには、同時に作用しているいくつもの競合するフィードバック・ループがあるため、システムを支配しているループが挙動を決めることになるのです。
現状が右肩上がりであるとか頭打ちである、または先細りつつあるという場合に、なぜそうなっているのか、色々ある要因のなかからどの要因が「支配的」であり、最も強い影響を与えているのかを見極めよ、ということですね。
生活維持ゲームで例えるなら、不要なサブスクも解約したしスイーツも2回に1回は我慢してるのに一向に貯金が溜まらないので何故だろうと思い家計簿をつけてみたら、知らないあいだにホストにめちゃくちゃ貢いでたわ、てへっ☆ みたいな。
もう一ついこう。三つ目は「制約要因」の考え方。
ひとつの要因が制約要因でなくなると、必ず成長が生じ、成長自体によって要因の相対的な稀少性が変わり、別の要因が制約になってくるのです。豊富にある要因から次に制約となりうる要因へと注意を転じることは、成長プロセスを真に理解し、それをコントロールすることでもあります。
これは傭兵団の統率で例えるなら、最初の制約要因は強いメンバーがいないことだとする。そこで色々と人材を捜し強いメンバーを集めると、次の制約要因は無名で大した依頼が来ないことに変わる。それも地道な努力でなんとか有名になってゆくと、次は全員まで管理が行き届かず規律が乱れてくる。そこで管理職を置いて規律を引き締めると、今度は幹部や古参メンバーに払う賃金が不足し、さらに引き抜きが発生する……といったように、そのつど成長を妨げる要因が変わってゆくので、リーダーたるもの「今まではこのストックが重要だったが今後はこっちのストックの重要度が上がってきそうだ」とか、「今までは大したことのなかったリスクが今後要注意になってくるだろう」というような変化になるべく速やかに気付いたほうがいい、というわけである。
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ここまで読んで「どれも当たり前じゃないか」と思った方もいるかも知れないが、実際に生活全般にこういう意識を行き渡らせている人は少ない。これは実践の誘いなのである。
やってみると、あらゆることに「こっちを選ぶということは何を取って何を捨てるということか」と考えるのがわりと面白い。そのうち何かよい発見があるかもしれないと思えてくる。
さて、だいたい書きたいことは書いたので、今回はこれで終わります。
それではまたー(・ω・)ノシ
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