再考、2011年はなぜオナニーできなかったのか

 以前、このようなブログを書いた。

 このブログの内容をかいつまんで言うと、2011年に職場に入ってきたおばさんが、たちまちのうちに雌ボス猿のように従業員間に君臨し、誰も面と向かっては逆らえない異様な事態が生じた(裏ではみんなボロクソ言ってたけど)。そして僕は、その雌ボス猿に嫌われてしまい、連日ひじょうに手の込んだいやらしい精神的迫害を受け、すっかり心を病んでしまった。そういう嵐のような一年の話である。
 けっきょく雌ボス猿は一年きっかりで、僕ではなく別の従業員とケンカしてプイっとやめてしまったのだが、その一年間、基本的にオナニストである僕がほとんどオナニーする気が起きなかった経緯について記している。

 当時の僕は、「敗北している気分でオナニーすると余計に自分がみじめになるのでしたくない」というような文系的理解をしていた。まあ客観的に見ても、抑鬱に伴う性欲減退というのは珍しいことではないし、その雌ボス猿に恐怖しっぱなしだったので、テストステロン値が下がって異性を求める心が喚起されにくかったのではないか、と上のブログでは考察している。

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 さて上のブログを書いてから数年が経った。僕も人間心理への理解が些かなりとも進み、今ではあの状況にまた違った光を充てることができる。
 つまり、あの年は「熊を警戒している状態」だったのではないか、ということだ。

ARTICLE • BEAR COUNTRY Bear Attacks

 これはドーキンス流の書物でよく言われることだが、大脳の古い皮質による生存プログラムは、基本的に人類学的時間単位(つまりサルだった頃からの長い経験の蓄積)に最適化されており、ここ数百年といった社会の変化にはあまりついて行ってない。
 そんななかで「危険」というと、まず猛獣のようなものに襲われる、その次に崖から落ちるとか、毒が体内に入ってしまうといった状況が想定されていた。

 つまり、2011年の僕は、まるで猛獣に遭遇したような状況を想定してしきりに生存プログラムを稼働させていたのだ。
 職場の「猛獣」は家までは追いかけてこないのだから、退勤したらそんなことは忘れて、リラックスして本を読むなりおいしいものを食べるなりオナニーしたければすればいい……というのは現代生活に適合した考え方だが、残念ながら脳みその大半はそういうふうには出来ていないのである。

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 我らが生存プログラムは「まだそこらへんに熊がうろついてるかも知れないから、今は食べ物とか異性とか考えてる場合じゃない」と命ずる。あたら食べ物や異性を求めてウロウロすると、さっき遭遇した熊にまた遭遇して食べられてしまうかも知れない。ねぐらでじっとしていなさい、というわけだ(抑鬱もだいたいこういうメカニズムだと、元陸上自衛隊心理教官の下園壮太が書いている)。

 具体的には、たとえば交感神経系がつねに活発化する、とか。
 交感神経系が活発になると心拍数や血圧、呼吸が上昇し(熊から逃げるため!)、いわゆるFight or Flight(闘争-逃走反応)が起きるのだが、なにぶん筋肉や血管等々を活性化させるため、消化器官だとか、性器のほうにエネルギーを注いでいる余裕はない。そして食欲や性欲は減退する。
 何事もなければ人は、やがて交感神経系優位から副交感神経系優位にモードチェンジし、休息に適した心身状態になる。だが危険な(と本人が感じている)状況が続くと、つねに交感神経系優位の状態が続いてしまい、食欲もなく、休もうにも頭は覚醒し続け、眠りも浅く、どんどん疲弊していってしまう。

 これだったんだろうなあ。2011年の僕が、なんだかオナニーする気が起きなかったのは。
 まあ、心や脳の働きというのは複合的かつ複雑なものなので、最初に触れたようなテストステロンも関係しているだろうし、他にも幾つかの要因がかけ合わさっているとは思う。
 また、このように脳化学的に言及してみても、やはり文系的な、「こういう心境のままポルノを観ても一向に気分がすぐれない、なんだか観たくない」という気持は残る。

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 実はさきほど仕事中に見知らぬ喧嘩腰のおっさんに絡まれるという事態が発生したんですね。
 若い時に比べればあまり尾を引かない(げんにこれを書いているあいだ忘れていた)んですが、それでも今夜はあまり食欲がなく、またエロ動画を観るぞ! という気分にもなれず、ふと「そういえばあの時はこれが一年続いていたわけか」と思ってとりあえず風呂に入ってnoteを書いたのでした。
 さすがに少しお腹が減りました。とりまオニオンコンソメのスープでも飲みます。
 それでは、また~(・ω・)ノ🥣
 
 

 

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