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日本の「1人当たり輸出額」が意味すること

新型コロナウィルスに対する官民の対応を見て、私たちが信じてきた日本の医薬品開発力、公衆道徳、行政の事務能力に対し、戦前に日本軍の弱さを知った祖先のように、幻想が崩れたかのような感覚を味わった人も多いのではないでしょうか。

現代に突如発生した世界規模の巨大な感染症の拡大は未曾有の事態であり、誰かに責任を転嫁して憂さ晴らしをする性質の問題ではありませんが、それにしても「日本って、案外、大したことなかったんだ」、「日本社会、国家の屋台骨がグラついているんじゃないか」という印象は多くの世代が抱いた実感で、私は民族が共時的に同じ感覚を抱いた事態の発生に直面して、「これが歴史的な感覚というものか」とある種の感慨を覚えました。

そうした、幻想めいた自己認識が崩れた落胆と危機感を、私は長らく貿易の分野で感じてきました。それは「日本は私たちが思っているほど貿易立国、輸出大国ではなく、むしろ輸出小国だ」という現実です。

わが国の「一人当たり輸出額」は5,050ドルで、世界44位。韓国や台湾の半分以下、ドイツの3分の1以下で、とても「輸出で儲かっている国」とは言えない状況です。

さらに、輸出企業のうち「中小企業」が占める割合は、製造業でも卸売業でも「1%台」です。(「商工業実態基本調査・商品等の輸出状況」経済産業省)

国民一人当たりの「平均値」が5,050ドル(=約55万円)なら、その1%は約5,500円で、これを12ヶ月で割ると「462円/月」です。

輸出が直接、間接であるかを問わず、中小企業が輸出で稼いでいる金額が大雑把に見て「月に500円足らず」と考えると、私たちがスタート地点とすべき現実は、むしろこちらの数字ではないかと感じます。

20フィートや40フィートのコンテナに憧れるのではなく、噂に一喜一憂するのでもなく、実感の湧かない海外の巨大な人口や市場規模に妄想を抱くのでもなく、「500円を1,000円に、1,000円を1万円に」と、自分でコントロールできる売上を地道に作り、再現性と発展性のある海外取引ノウハウの確立とともに、下請けや不安定な仲介、紹介、補助金に頼らない独自の輸出チャンネルを築いていくべきです。

「地方の中小・零細企業は、まだ、輸出による恩恵を受けていない」という事実は輸出小国日本の現実であり、地方のチャンスです。500円からスタートしましょう。



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