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手漕ぎボートで働くフィリピン漁民の現代ならではの要望

日本と同じく島国のフィリピン

離島と無人島の数は日本以上に多く、全ての島を合わせるとその数は7107とされています。

そのため、日本のように鉄道で全国を回ることはできず、大都市間の移動には飛行機が頻繫に使われますが、もっと近距離の島への移動だと船での移動も一般的で、世界の船乗りに圧倒的にフィリピン人船員が多いのは、子供の頃から水や船の取り回しに慣れており、船酔いせず、長期の航海も楽しむ明るい国民性を持ち、海に親しんでいるからです。

私は昔から近現代史、とりわけ戦争の歴史と日本軍の激戦の史跡に興味があるので、これまでルソン島のみならずパナイ島レイテ島ネグロス島に行ったことがあり、何度か小舟での移動を経験しました。

そして、地元の人たち船を呼ぶ時の名前を聞いて、「あれっ?」と不思議に感じたことがありました。




彼らは木製の無動力の小舟を「バランガイボート(Barangay Boat)」と呼ぶのですが、このバランガイという単語現代フィリピンでは日本でいう「番地」、「町」、「区画」といった小規模な行政区分を意味し、また、国政選挙の際の選挙区の区分でもあります。

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フィリピンとの郵便物のやり取りをすれば、そこにはバランガイの略語であるbrgyという言葉が頻出します。

実はこの「バランガイ」、遠い昔にマレー系のフィリピン民族現在のボルネオ島やマレー半島から北に移住した際に乗っていた木製ボートのバランガイが由来で、同じバランガイに乗り合わせた「運命共同体」の人々がバランガイ・ボートで漂着し、住みついた場所を「バランガイA」と名付けたことから、小舟の名前と町の名前が一体化し、それが今では住所や選挙区を意味する言葉になったという歴史があります。




その後エンジンが発明され、無動力のバランガイボートの出番はめっきり減って、今ではごく近隣の海域への移動手段か、小規模な漁船としての用途を残すのみですが、離島や少数民族が暮らす島では、漁業はいまだ重要な産業で、バランガイボートは重要な「仕事道具」です。

そして、そのバランガイボートでは最近、小さな問題が発生していると、フィリピン在住の経営者の方から聞きました。

それは、「海上でスマホの充電ができないこと」です。

バランガイボートは無動力か、あるいは小型の船外機を付けただけで、本格的な漁船のような洋上加工や冷凍は行いませんから、電源の積載は前提ではありません。

携帯電話が登場する前まではそれでも問題ありませんでしたが、「スマホ漁民」は「台風が来たから帰る」と家族にメッセージを送ったり、「今日は大漁だ」、「大物が釣れたぞ」と漁協や家族に写真を送ったり、天候を調べたりできますが、何分海上はスマホを十分に使うには過酷な環境で、電池が切れたり、充電ができないことはそれなりのストレスの種だそうです。

そこに、佐賀県の会社が発明した軽量の太陽光パネルを提案したら、「まさにこれだ!」と喜ばれ、導入のための情報交換と市場調査が始まりました。




「太陽光パネル」と聞いたら一般的に想像されるのは、ガラス基板を用いた結晶型の太陽光パネルですが、これは陸上設置が前提で、重く固く、変形できないものです。

しかし、これではアフリカの粘土で作った家屋や、東南アジアの草木で作った家屋には使えず途上国の電源開発を事業目的としたこの会社は、

①厚さ1mmのフィルム型
②総重量1kg以下のコンパクト型
③曇りでも紫外線を受けて発電効率が落ちない
④表面温度85℃でも発電性能が落ちない
⑤砂やホコリが付着・蓄積せずメンテナンスが簡単

という特徴を持たせて、途上国や貧困国の人たちが無理せず購入でき、使用できる条件を満たした太陽光パネルを開発したのでした。

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私たちのフィリピン漁民向けの提案は、このフィルム型ソーラーパネルを、現地のバランガイボートの漁民に販売し、スマホの無料充電を可能にし、家族との連絡や魚の写真や動画の送信に生かしてもらおうというもので、①軽量、②故障に強い、③設置や取り外しの手間がない、④安価というポイントを丁寧に説明しましたが、やはり100米ドルを超える価格がネックとなり、現地に送ったサンプルは喜ばれたものの、たった100ドルほどの現金を捻出できる漁民がいないことに驚きました。

インドネシア洋上冷凍が可能な急速冷凍庫を提案した時も、格安にしたのにやはり価格がネックとなり、東南アジアの一次産業従事者の置かれた過酷な経済環境について考えさせられました。




このパネル自体の着想は非常に良く、途上国のニーズに基づいて設計したので冷蔵庫やエアコンは動かせませんが、スマホの充電、小型照明の稼働、ノートPCの稼働には使えます。

現代人の生活は、途上国といえど、スマホという超小型高機能端末に集約されているので、スマホが動けば仕事の幅と生活の自由度が広がり、スマホが使えれば日常生活、日常業務のストレスやトラブルは大きく解消、解決されるという現状があります。

ただし、途上国では新品のスマホを買うことが難しい人も多く、そうした人々が購入するスマホは廉価版か中古版で、バッテリーは最初から劣化しており、みんながパワーバンク(携帯充電器)を「セット持ち」にして歩きながら通話しています。

こうした人々が肩掛けカバンやバイクのシートに、持ち運びや取り付けが簡単なフィルム型パネルを取り付ければ、移動中や会話中にもスマホの充電が可能になり、生活の利便性が大きく向上するはずです。

バランガイボートへの太陽光パネルの導入は実現しませんでしたが、フィリピン社会について思わぬ視点から情報が集まったので、新たなアプローチの切り口を探っていきたいものです。


▼「海外展開」「輸出」をお考えの方は、ご覧ください。


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