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世界を救うかもしれない昆虫「キリアツメゴミムシダマシ」

オランダのバイヤーさんから、アイントホーフェン工科大学での研究成果を元に、ある製品を日本で作ってみないかと相談が来たのは、2018年の秋でした。

異常気象による干ばつは、ヨーロッパの農業に深刻な被害をもたらしており、特にスペインとポルトガルの被害は大きく、多くの果樹園が廃業に追い込まれたそうです。

中でも、

「世界でたった一つ、宇宙空間から見える」

という巨大なビニールハウス群を有するスペイン・アルメリア地方の被害は深刻で、世界最大のハウス群の集積のため、地下水が枯渇しかけているとのことです。

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そこで、アイントホーフェン工科大学が試作したのが、「Fog Catcher」という、放射冷却時に地表から蒸散する水分を「収穫」して、農業用水に変える特殊な繊維です。

試作品の回収水量は一日2リットルが限界で、なおかつポリエチレン製です。

そこで、農地に及ぶマイクロプラスチック飛散の被害を防ぐため、素材開発に強い日本の中小企業に作ってほしいというのが相談の概略でした。

霧深い山にバレーボールのネットのような網を立て、霧を回収して飲料水にしている南米のキャンプ地や登山者の映像は見たことがあります。

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しかし、湿度がそこまで高くない平地で、空気中の水分を回収するとなれば、山と同じ手法では通用しません。

私は詳細を調べるべく、オランダから送られてきた動画を何度か集中して見てみました。

(▼ポルトガルの果樹園のsponsh systemの動画)

すると、その冒頭に

「Namib Beetle(日本名:キリアツメゴミムシダマシ)」

という不思議なカブトムシが紹介されていました。

年間降水量が、あのサウジアラビアの50分の1程度の「1-2mm」という極度の乾燥状態アフリカ・ナミブ砂漠で逞しく生き延びてきたこの昆虫は、海風が吹いてくる方向に向けて尻を上げ、尻の部分で水分を集め、水をたらふく飲んでいます。

なぜ、お尻の部分に水分が集まってくるのか。
世界の注目の的となっている機能があるからです。

最近のナノテクノロジーでこの不思議な能力を分析した結果、尻の部分の表明はミクロンレベル「超撥水、超親水、超撥水、超親水・・・」と交互に突起状の物体に覆われており、その水滴接触角は165度を超えています。

その構造は、千歳科学技術大学での実験レポートに詳細に説明されており、小さな虫に潜む自然界の神秘に目を見張らされます。

(『キリアツメゴミムシダマシから着想を得た大気からの水回収技術』J-STAGE)

人類が最近生み出した最新技術を遥かに上回る集水性能を、アフリカの砂漠に生息する数センチの虫が持っていたのです。

(▼親水、撥水の両機能を発揮して収縮する素材の顕微鏡映像※英語)

地下潅水に関しては、佐賀で生まれた優秀な製品がありますが、樹木のように根が太く長い植物に対しては、この製品は使えません。

そのため、私はずっと地表で集水、給水できる器具を探してきましたが、まさか西南アフリカのカブトムシの尻にそのヒントがあるとは思いもしませんでした。

それから数ヶ月、撥水性素材と親水性素材を比較研究し、短時間で水を集め、逃がさずに落とすのに適した面積と孔の配置、形状が少しずつ見えてきました。

先日、パンチングシートのサンプルを買ったので、来月から地元で簡単に実験してみる予定です。

集水効率が目標以上の器具が作れれば、世界を救う製品になるはずです。

しかし、仮説はいつも現実の前に修正を余儀なくされるので、しっかりとデータを取り、各国での実証実験につなげていけたらと思っています。

水問題は将来、地球最大級のマーケットの一つになると見込まれており、日本企業にも、きっと活躍できるステージがあるはずです。

(2019年5月29日投稿記事の再掲載です)

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