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JTB社員時代に新規事業を創出した先輩イントレプレナーに聞く、チャレンジにあたって大切なこと

JTBで新たに立ち上がったイノベーション創発プロジェクト「nextender(ネクステンダー)」。社会のさまざまな共創パートナーとともに、社内起業家(イントレプレナー)輩出や新しい事業の創造を目指すプロジェクトです。
 
「nextender」開始以前にもJTBからはさまざまな新規事業が生まれています。そこで今回はJTB社員時代に社内起業をして、今は他社で活躍しているイントレプレナーの一人、田中宏和さんに話を聞いてみたいと思います。
 
JTBの法人営業担当として経験を積んだのち、社内の公募制度を利用して、福利厚生サービスを運営する「JTBベネフィット」を立ち上げた田中さん。事業を作るまでの経緯や失敗談、これからチャレンジを考えている人に向けてのアドバイスを語ってもらいました。


田中宏和(たなか ひろかず) 
1987年、(株)日本交通公社(現:JTB)へ入社、法人営業部門に従事。2000年、社内ベンチャー制度にてJTBベネフィットを起業し、福利厚生サービス「えらべる倶楽部」を立ち上げる。2022年、経営統合によりJTBグループを離れ、(株)ベネフィット・ワンの役員としてヘルスケア事業を担当。2023年より健康経営を推進する(株)ビゼル執行役員と、博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」フェローとして人的資本経営、ウェルビーング経営に資するサービス開発に携わる。

締め切り前日に手書きで書いた応募書類が人生を変えた

―― 田中さんは新卒でJTBに入社していますが、その決め手はなんだったのでしょうか?

JTBは旅行好きの人が第一志望で入社してくることが多いのですが、実は私は二次募集で入社しました。当時は日本交通公社という名前で、私は名前すら知らない状況で。もともとは広告代理店やマスコミを志望していたのですが全然受からなくて、たまたま見つけたJTB(日本交通公社)の二次募集に応募しました。

―― 入社後、若いときはどのような仕事をしていましたか?

はじめは東大阪の小さな支店に、10年ぶりの新入社員として配属されました。業務としては法人営業の担当です。朝から晩まで自転車で営業していて、今思い出すとJTB入社後、一番しんどい3年間だったかもしれません。4年目からは大阪の中心部の法人専門支店に転勤になりました。お客様に恵まれて、数字が出るようになり、この頃から仕事がちょっと面白くなってきました。

―― どのような経緯でJTBベネフィットを立ち上げたのでしょうか?

きっかけは社内の公募です。ある日、オフィスに出社したらデスクの上に「来たれビル・ゲイツ!」と書かれた社内報がありました。普段は、社内報などはあまり見ないのですが、なんだかそのときは「俺のことだ!」と思ったんです(笑)。
 
実は、そろそろ会社を辞めて次のことをやろうかなと思っていた時期で、どうせ辞めるんだったら思いきって応募しようと思いました。結局、締め切り前日まで忘れていて、前日に喫茶店にこもり、2時間かけて手書きで一気に思いを書き連ねて提出しました。

―― なかなかのチャレンジでしたね(笑)。

ほかの人たちはみんなパワーポイントできれいに資料を作っているのに、私だけ手書きでしたから(笑)。でも、当時JTBで新規事業を起こした経験のある大先輩がいて、彼が審査員として後押ししてくれたので、審査に通りました。

半年間の自由なリサーチ期間を経て

当時の社内報

―― JTBに入社したときから、「起業したい」という想いがあったのでしょうか?

明確に起業しようとは考えていませんでした。でも、私の父親が2回起業し、倒産なども経験する姿を見ていました。父の苦労を目にしながらも、自分も起業するかもしれないという気持ちはあったのかもしれません。

―― 田中さんが当時参加した社内公募制度はどんなプロジェクトだったのでしょうか?

当時の経営改革部のなかにR&D(Research and Development)チームがあり、公募に通った人はそこに所属することになっていました。チームメンバーはもともと所属していた2人に加え、私含めて公募に通った2人の計4名。それぞれが別のテーマを持ち、起業したり新規事業を起こしたりすることを目指して活動していました。

―― 会社としてのバックアップは?

最初の半年間は本当に何も言われず、自由にリサーチしたり計画を立てたりして、半年後に役員の前でプランを紹介するという枠組みでした。もちろん、そのあいだもマネージャーが助言や支援をしてくれました。

―― 田中さんはなぜ福利厚生をテーマにしたのでしょうか?

営業の仕事をするなかで、旅行の手数料モデルだけでは、あまり会社の利益につながらないのではないかという疑問を感じることが増えていました。そんななかで、当時の私の得意先の企業に対して、ある福利厚生サービス会社が営業をかけてきたんです。その福利厚生サービスではJTBの旅行パッケージや旅行以外の生活支援メニューが割引されていて、異業種からのアプローチに対する危機感を覚えると同時に「これだ!」と直感しました。旅行は福利厚生サービスの王道でもあり、JTBのアセットを使えば、さまざまな福利厚生サービスが作れるのではないかと。

社内起業だからこその良さと難しさ

―― 半年間のリサーチを経て、どのような流れで事業を作っていったのですか?

R&Dチーム所属半年後に、役員会で自分のプロジェクトについて報告する機会がありました。当時の私はとにかくワクワクしながら事業計画を立てていましたね。役員会も意外とすんなり通って、晴れて会社を作れることになり、1000万円の準備資金とメンバーを1人追加してもらえました。
 
彼は当時別の社内公募企画で私と同じように福利厚生のサービスを考えていたそうです。私とは違ってパワーポイントで40〜50枚の資料を作って提案するようなきちんとした人で(笑)。タイプが真逆なので、まわりからはよくけんかをしていると思われていたようですが、毎日お互い必死に議論を重ねていました。今思い返しても、彼と一緒にやってよかったと思います。

―― JTBの社内ベンチャーとして起業したからこその良さはありましたか?

当時の経営改革部には、今の社長である山北(栄二郎)さんや会長の高橋(広行)さんもいました。先輩が親身になって相談に乗ってくれて、広い観点でビジネスのことを教えてくれた。本当に恵まれていたなと思います。
 
また、私はもともと地方の支店にいたので、JTB全体のことは把握できていなかったのですが、社内起業のために上京したことで、新たな知識をたくさん得ることができました。もちろん、福利厚生サービスの営業で旅館やホテルなどとやりとりをする際には、JTBのネームバリューのおかげで話がしやすい場面も数多くありました。これは社内ベンチャーならではの良さだと思います。

―― 一方で、難しかったことや失敗経験もありますか?

当初はJTBの営業部署やコールセンター、仕入機能など、社内リソースを使って事業を実現するつもりでした。会社を立ち上げたら当然ながら協力してもらえると思っていたのです。しかし、新規事業の立ち上げ時にはよくあることだと思いますが、いざ話をしてみたら「反対はしないけど協力もしない」と、ことごとく断られてしまって。JTBがすでにつながりのあるホテルや旅館への営業も、一から自分たちでしなければなりませんでした。それで最初は少なくとも100施設は契約が欲しいと思い、北海道から九州までレンタカーで3か月ほどホテルや旅館を回り続けました。
 
今思えば、私の力不足だったなと思いますね。新規事業の立ち上げ時にはよくある課題かもしれませんが、もっと人を巻き込む術を身に着けておくべきでした。福利厚生のサービス自体は大きな可能性を秘めていた。だけど、同じ社内とはいえ、JTBの営業やコールセンター、仕入部署の人たちに協力してもらうためには、彼らにとってどんなメリットがあるのかをきちんと説明する必要があったんです。その後はビジネスモデルを改善し、新たに大きな契約を獲得しながら、旅行販売にもつなげていきました。
 
元社員として振り返ると、組織として動き出し、それがつながったときにはすごいパワーを感じました。組織が動き、サービスが大きく改善され、お客様に価値を感じていただける……そんなダイナミックな瞬間を味わえたことは貴重な体験です。やはり新規事業を成功させるには「組織と人の力」が重要なんだなと。

諦めない気持ちと人を巻き込む力が起業を成功に導く

―― 今回、nextenderの取り組みを知って、どのように思いましたか?

面白い取り組みだと思います。若者はもちろん、私と同じくらいの世代の人も参加し始めていると聞いて、嬉しく思いました。

―― 田中さんが社内起業した経験から、どんなサポートや仕組みがあればよかったと感じますか?

事業計画の立案までは、とにかく自由にやらせてもらったので、その点はよかったと思っています。ただ、先ほどお話しした失敗経験の通り、強い既存事業があるなかで新規事業を立ち上げようとすると、さまざまなハードルがあることも事実です。そういったときに、経営層・マネジメント層が、俯瞰的な視点でアドバイスをしてくれると、よりスムーズに新規事業を推進できるのではないかと思います。

―― 最後に、nextenderを通して社内起業にチャレンジする社員に向けて応援メッセージをお願いします。

まず、後悔しないようにやってみてください。正直、くじけそうになることもたくさんあると思います。それでもあと一歩頑張ってみようと思うことで、大きく前進することがあります。私も、締め切り直前でもどうにか喫茶店で社内公募の応募用紙を書いたから、今があります。
 
もう一つ、1人では仕事はできないということを知っておくことも大切です。アドバイスをくれた経営者の方々や、一緒にビジネスを作ってきた同僚など、事業を起こすにあたって助けてくれた人がたくさんいました。誰か1人でも多く巻き込むことで、だんだんとその輪が広がっていき、チーム・支店・会社・社外と流れができていきます。より多くの人を巻き込めるように、つねに自分のやりたいことが誰を幸せにするのかを考えながら、事業を作っていけるといいのではないかと思います。
 
※イノベーション創発プロジェクト「nextender」詳細はこちら

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