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【推しマチ#02】山と水の景、歴史×アートでひらくまち~長野県大町市(信濃大町)~(その2)

Jsurpメンバーによって、全国各地のまちを紹介するシリーズ『推しマチ』第2弾でご案内するのは長野県大町市・信濃大町!
 (その1)に引き続き、山と水の景に恵まれ、歴史やアートで開かれたまちである大町市・信濃大町の魅力や様子、まちづくりの動きなどをお伝えします。


大町市のまちなかのメインストリートを歩く ~本通り界隈~

 JR信濃大町駅前のロータリーを出て右手にまっすぐ伸びた道が本通りで、その先約1.5kmに渡って沿道に商店街が形成され、これが大町市のまちなかのメインストリートとなっています。かつてこの通りの真ん中には「町川」と呼ばれる水路が流れていたそうです。いまは両側の歩道下(地下)を水が流れ、通りの表に水が流れる姿を見ることはできませんが、本通りの裏手には、これに並行して町家の家々の床下を流れる水路「飲み堰(呑堰)」を目にしたり、静かな路地に入って耳を澄ますと、地下を渾々と流れる水音を感じることができます。

明治中頃まで道の中央を流れる水路があったという本通り
(北アルプスとの距離が非常に近い大町市のまちなか)
本通りに面する町家の裏手(建物下)を流れる水路「飲み堰(呑堰)」
(かつては飲料水としても利用されていた)

 この本通りには駅から700mくらい先まで両側にアーケードがあり、450mほど先の交差点までの間(仁科町)は比較的新しいアーケードなのに対し、千国街道の道筋と一致するその先(下仲町・上仲町)は昭和50年代につくられた古いアーケードで著しく老朽化が進んでいます。かつて賑わいをみせた本通り商店街も、店舗の郊外化や事業主の高齢化等に伴い、シャッターの降りた店舗が目に付く現状にありますが、飲食店や菓舗など地域に根差して営業している店舗も少なくありません。

お昼時ともなると来客が列をなす姿が見られる中華料理の老舗 「俵屋飯店」

 「塩の道」とも呼ばれる千国街道は、糸魚川と松本を結ぶ交易の道で、間宿として栄えた大町宿の中心地はこの古いアーケードの沿道周辺エリア一帯になります。町家や土蔵などの歴史的な建造物もよく残っていて、一部は文化財にも指定され修復・保存が図られつつ、さまざまなかたちで現代に活かされている姿を垣間見ることができます。

江戸時代の庄屋で塩問屋を営んだ平林家の土蔵造りの町家を活かした博物館兼カフェ 「塩の道ちょうじや」
江戸時代の大庄屋・栗林家の旧住宅(町家造りの建物)を活かしたレストラン 「創舎わちがい」
地元で広く栽培されていた麻の集積・保管に用いられた蔵を再生した
アートギャラリーショップ 「麻倉 Arts&Crafts」
江戸時代末期に福島家が創業した酒蔵(大町の地酒三蔵の一つ) 「市野屋」

 また、このエリアには大正時代に建てられた木造の洋風建築や、昭和レトロなアーケード街、路地の古民家カフェなどが往時の姿のまま、あるいは見た目や使われ方を変化させながら、各時代の建物が入り混じり共存しているところに、歴史の重層性や生きたまちの面白さが感じられ、味わい深い魅力になっているように思います。

大正時代に建てられた木造三階の擬洋風建築で屋上の八角望楼が特徴的な「松葉屋旅館」
(ゲストハウスとして昨今復活!)
本通りに面して大きな入口看板のある路地のアーケード街「大町名店街」
(誘われるように中に入るとそこには生活感漂う昭和レトロな空間が広がっている)
「下仲町ポケットパーク」として整備された本通りの路地と
これに面する古民家のリノベーションカフェ「ai coffee」

 古いアーケードは、安全面からも撤去を含め今後の扱い方が取りざたされているところですが、かつてはいまより長く続いていたこのアーケードも、平成17年の大火を機に一部はすでに撤去されており、近年、降積雪量の少ない傾向が続くなかで、そうは言っても元来、多雪地の大町でアーケードのありがたみも感じられるなか、将来のまちなかのビジョンを共有し、まちづくりの方向性を見定めたうえでの次の一歩が求められています。

※参考・参照:『大町市まちなか文化財散策マップ』(大町市教育委員会事務局生涯学習課文化財係)

新たなまちづくりの動き ~信濃大町100人衆プロジェクト~

 「信濃大町100人衆プロジェクト」は中心市街地の再生に向け、大町のまちなかの将来像を描く未来ビジョンの策定とこれに係る公民学の連携によるプラットフォームづくりの取組として、令和2年度からスタートしました。
 「100人衆」とは、平林家や栗林家、福島家など江戸時代に「大町十人衆」として活躍した人たちの集まりの名にちなんだ名称で、まちなかにいる地域の担い手となる“地域人”を掘り起こし、その皆さんと未来ビジョンを話し合う場として、参加メンバーを固定しないかたちで、信濃大町100人衆会議が立ち上げられました。

 最初の年は地元高校生が、地域資源を活かしたまちなかの再生や賑わいの創出に主体的に取り組む“地域人”にインタビューを行い、令和3年度に『信濃大町100人衆インタビュー』として冊子にとりまとめ、まちなかには豊富で多彩な人材がいることを明らかにしました。

 また同年秋には「にぎわい社会実験」として、期間限定で商店街の空き店舗のシャッターを開けてチャレンジショップを開く「シャッターオープンプロジェクト」など7つのプロジェクトが実施され、まちなかの賑わうシーンが創出されました。

 この年からKRCも業務として関わり、シャッターオープンプロジェクトの一環で、沿道の空き地等にオリジナルベンチや遊び道具を置き、居場所や遊び場をつくって賑わいを生み出す試みの効果検証や全体の回遊動向の調査等を行うとともに、「走りながら描く」をコンセプトに、社会実験の成果も反映した未来ビジョン検討の伴走支援を行いました。

沿道の空き地を生い茂った雑草を刈り、ウッドチップを敷いてつくり出された遊び場
~手作りモルックの体験(にぎわい社会実験)~

 令和4年度は駅前広場での青空ワークショップや、アーケードのない本通りの一部区間を歩行者天国にして、アーケードを撤去し現在の車道幅を狭めた場合に生み出される賑わいのシーンを想起させる社会実験を企画・実施し、道路空間の活用や、北アルプスの眺望景観をまちなかに取り込むことによる魅力向上の可能性等の検証を行って、本通りを3つの区間に分けて理想の姿を示した『大町まちなか未来ビジョン』の素案をとりまとめました。

 コロナ禍で思うように活動の進まなかった時期もありましたが、まちづくりのラストチャンスとして、ビジョン実現に向けた取組がいままた再び動き出そうとしています。

駅前広場で開催した第2回信濃大町100人衆会議
~みんなで未来ビジョンを考える青空ワークショップ~
既存のイベントとタイアップし、アーケードのない本通り北側の一部区間を歩行者天国にして、100人衆メンバーのアイデアをもとに実施した道路空間活用のさまざまな試み

※参考・参照:

アートの力 ~北アルプス国際芸術祭2024~

 「北アルプス国際芸術祭2017」は大町市を舞台に、北川フラム氏を総合ディレクターにして、「水・木・土・空」のコンセプトのもと、36組の作家が手がけた作品やイベントがまちじゅうに展開したアートの祭典です。

 平成29年に初めて開催され、開催後の地域の声として「これまで来なかった層が大町市のまちなかに訪れるようになった」と人づてに聞き、まちづくりにおけるアートの力の大きさを再認識しました。第2回目の開催は令和3年で、先のにぎわい社会実験もこの芸術祭とタイアップして行われたものでした。

 今年がその第3回目で、9月13日(金)から11月4日(月・祝)までの53日間、「北アルプス国際芸術祭2024」として開催される予定です。初回と同じコンセプトのもと、世界各地のアーティストたちにより、「土地の力と記憶に寄り添い、切れ味する鋭い作品が呈示される」というこのイベント機会にぜひ長野県大町市(信濃大町)を訪れ、より多くの皆さんにこのまちの魅力を肌で感じ、味わっていただきたいと願っています。

※参考・参照:『NORTHERN ALPS ART FESTIVAL 北アルプス国際芸術祭2024』(北アルプス国際芸術祭実行委員会事務局)

(小林真幸/Jsurp理事・株式会社KRC)

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