[ゼミログ] 市民と演劇

みなさんどうも。別れと出会いと花粉の季節ですね。私はここ数年で花粉を寛大な心で受け入れることのできるリミットが超えて発症しかけています。辛いです。あは。

さて、市民と演劇についてです。

一般に市民参加型の劇とは、プロではない人々が作品に介入するものを指します。日本においては、市民団体を立ち上げた後行政に活動の申請をし、場合によっては金銭的な助成を受けながら活動を行う事例が多いようです。そもそも「市民参加」という概念は、1960年代後半から議論されるようになった市民運動や住民運動の中心理念の一つだといいます。市民が直接自治体に積極的に関与していくことによって、政党や組合をはじめとする既存の枠組み外での新たなつながりが生まれうることが特徴のひとつとして挙げられています。こうした社会的な背景が、今日の市民参加型舞台芸術の素地となっていたこともあり得るでしょう。

例えば藤沢市民オペラは、日本最古の市民オペラとして知られています。1973年に第一回公演が行われましたが、当時の市長が計画し藤沢市在住の音楽家に依頼して始まったのが特徴のようです。合唱をはじめパートによっては素人の地域住人を交えるなどプロ・アマを混在させる形式を取り、第四回公演では「ご当地もの」の作品を制作するといった実験的な試みも行っていました。

すなわち市民参加型の舞台芸術は、スキルを問わず誰しもが参加できる解放性を備えており、それによりネットワークが醸成されたり、プロの現場では挑戦しづらいラディカルな取り組みを行うことができるという利点があります。一方で、アマチュアの参加それ自体が技術力や完成度の面で様々な矛盾点を抱えていることも指摘されているようです。

以上のように、市民と演劇の関係を考えることは、同時に地域や劇場、アートマネジメントや公共といった近接のテーマを扱っていることにもなります。一概に市民参加といっても、リミニ・プロトコルの作品群に代表されるようなドキュメンタリー演劇の文脈やジェローム・ベルによる『Gala』などコンテンポラリーダンスの文脈ではその意味合いはまた異なるでしょう。

さいごに、市民参加型の舞台芸術において、演出家の役割がただ作品の演出を行うのみならず、制作過程を含めた全体のファシリテーションへと拡張していることは示唆的です。市民の創造性を引き出すプロフェッショナルとしての演出家像は、現代における芸術の役割を再考するきっかけを与えてくれるかもしれません。

それでは、また。

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<参考文献>
市民参加型舞台芸術に関する序論的考察(山本珠美 2007)
地域の劇場モデルに関する考察 : 市民参加の可能性について(永井聡子 2012)
市民参加演劇の活動を通じた公民協働による地域活性化の方途--アウトリーチとインリーチの反復的交替の視点を中心に(小山健一、山口 洋典 2010)


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