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「綺麗だけど、ピンとこない。」の正体 あなたのデザインに“生っぽさ”はあるか?


NewsPicksでインフォグラフィック・エディターをされている櫻田潤さんのVoicy『「デザイン逃避行」ラジオ』。櫻田サロン公式noteではテキスト版としてお届けします。今回は第二回「綺麗だけど、ピンとこない。」です。



『「デザイン逃避行」ラジオ』の時間です。パーソナリティーの櫻田です。

第一回目の放送(テキスト版はこちら)の後に色々な方から「聞きましたよ」と言われました。今まで「インフォグラフィックを見ましたよ」とか「インタビューを読みましたよ」と言われたことはあるんですけど、視覚から聴覚にきた感じがありました。聞きました、というのは耳ですもんね。

コンテンツの作り方でいうと、普段やっている記事やインフォグラフィックは作り込みを重ねて、そのうえで世の中に出していくんですけれど、Voicyは未加工だし、Twitterに近いところもあるのかな。実際にやってみて、より生な感じ、ライブ感みたいなものがあると思いました。

前回も、配信前に聞き直してみると「ああ、接続詞が間違っているな」とか思うところがありました。でも、撮り直しちゃうとその生っぽさがなくなるのかなと思って、それも違うのかなあということでそのまま出しちゃいました。

二回目の今回は、デザインにおいてのライブ感っていうのはどうしたらいいのかを話します。

綺麗だけど、ピンとこない。


インフォグラフィックというのは作り込みを重ねて世に出すというふうに言ったんですけれど、全部が全部を作り込むというよりは、大部分を作り込んだうえで一部はライブ感や生っぽいところを残すのがいいと思っています。

そのライブ感や生っぽさがないと、出来は良いんだけれど心に入ってこない。「綺麗だけど、ピンとこない。」という感じになってしまう。作り物感というか、出来すぎちゃっていて「これ本当に信じていいの?」と、逆に嘘みたいな感じになる。生っぽさという隙みたいなものがところどころにあって、それによって「あ、信じていいんだ」と、心に引っかかりが出てくるようなイメージです。

「綺麗だけど、ピンとこない。」と言いましたけど、本当に美しいものは、生っぽさという飾りのないところまでを含めてピンとくるのかなと思います。


そして、そのライブ感・生っぽさを注入する対象は2つあります。インフォグラフィック制作において、一つはストーリーテリングのところ。要所に心をかき立てるような部分、つまりはゆらぎの山を持ってくることです。

もう一つは、ストーリーに出てくるグラフィックのパーツ部分。イラストであったり、図解であったりとか、そういったところでもそれぞれに表情がある。そこにアドリブみたいなもので、予想しなかったような表情が出てくると「おや、なんだろう」という気持ちになります。要するに、エモくなるわけですよね。

これは映画や漫画の作りとすごく似ていると思います。たとえば、映画では脚本とそこに登場するキャラクターや舞台装置などの道具があって、その中で女優さんがアドリブを効かせると思わぬ表情が加わります。

それによってある程度はできていたもの、しっかり固めてあったものにバラつきが意図的に出たりするんです。見ている人はそこの部分で「おや」というふうになって、その世界観により引き込まれていく。そういった映画とか漫画にあるおかしなところ、作り込むと生まれないようなところがインフォグラフィックにも必要かなと思っています。

ライブ感ってなんだ?


この間、ザ・クリブスっていうイギリスのバンドのライブに行ってきました。その時のことを思い出してライブ感ってなんだろうということをもう少し言葉にしておこうか思います。

ライブの何が良いかと言うと、その瞬間に立ち会っている感じなんですよね。二度とない、再現性のない世界にいるんだというところ。同じ音は鳴らないし、MCももしかしたら定型化してるのかもしれないですけれど、その瞬間の出来事にです。

その他にも、お客さんとの関係とか熱量みたいなものもその場限り。そういったライブ感を生み出すうえで、曲はでき上がっているものだからだいたいの構成は決まっているけど、その中にパフォーマンスが加わってくるわけですよね。それによって再現性のない世界が生まれる。つまり、一点モノですよね。ライブ感というところでは、一点モノであるいうことがすごく大事なポイントなのかなと思います。


それをグラフィックとかに置き換えて考えてみます。僕はアイコンとかイラストをどう管理していますかとよく聞かれるんですけれど、割と毎回ゼロから作っちゃうんですよ。生産性を上げるという点でいうと、一度ベーシックなものを作ったらそれを使い回すのがいいんですけど、ほぼ同じようなものでも毎回作っちゃうんです。

同じものを使い続けてもいいんですけれど、どうしても新たに作ってしまう。それはやはりライブ感みたいなものが必要なのかなと思っているんです。


その時のテンションや温度感によって、ちょっとずつ違った動きが必要で、同じ人でもアイコンの大きさとか、その手の太さとか、角度とかそういったものにテンションが必要だと思って。それで、毎回一点モノになっちゃうんですけれど、実はそれこそがライブ感を出すのに役立っていたんじゃないかなと感じています。

この話の流れでいうと、ライブドローイングとかライブデザインがまさにそうですよね。みんなが見てる前でデザインしたらどうなるんだろうって考えることがあります。今のところはそれはできなくて、誰も見てないところ一人でこもって作りたいタイプではあります。

前に『20世紀少年』や『MONSTER』などを描いた漫画家の浦沢直樹さんのライブパフォーマンスを見に行ったことがあります。そこではライブドローイングするんですよ。音楽もやっているので、楽器を弾いて、歌いながら時々ライブドローイングが混ざるという。あれはすごかったですね。貴重な体験でした。

ああいったことできると、気持ちいいでしょうね。なんていうか、本を出すというようなスタティック(静的)なことをやりつつ、動的な活動もされている。ああいうのは、ちょっとうらやましいなと思いました。

櫻田さん、嫉妬したデザインはありますか?


それでは質問にいきましょう。「最近嫉妬したデザインがありますか?」という質問をもらっています。

僕ね、本気の嫉妬ってしないんです。だけど「すごいなぁ」とか「かっこいいな」と思うことはあって、憧れたり、好きになったり、ああなりたいと思うことはありますね。

いつが最初に思ったかとかは覚えてないですけど、ピーター・サヴィル(イギリスのグラフィックデザイナー)という人には、作ったものも生き方も含めて憧れがあります。

ピーター・サヴィルさんはCDのジャケットに良い作品が多くて、ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダー(いずれもイギリスのロックバンド)のジャケットデザインもしています。彼の作るものは美しいですよね。さっきの「綺麗だけど、ピンとこない。」という文脈で言うと、美しすぎてピンとくる、生っぽさもあると思います。

少し話はずれますが、最近の映画でスティーブン・スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』の中でピーター・サヴィルのデザインしたニュー・オーダーの『Blue Monday』という曲が使われていて、いいところで流れてきたなぁと思いました。

あと、登場人物の一人がジョイ・ディヴィジョンのTシャツを着ていて「おや」と思いました。これ、全然関係ない話ですけれどね。つい言いたくなりました。

もう一つぐらい嫉妬した…嫉妬はしないんだけれど、すごいなと思ったデザインの話でいうと、ペンタグラムというデザイン会社のやっているデザインはすごくゾクっとします。

最近の例を挙げると、アメリカン・エキスプレスのデザイン。サイトを見ると載っているんですけれど、あれは普通じゃないですね。アメリカン・エキスプレスのロゴで、アメリカン(American)のcとaとが重なっていて、それがエモい。それからエキスプレス(express)の最後にssって重なってるんですけれど、そこのsのデザインなんてめちゃくちゃエモいですよ。

おわりに


はい。「デザイン逃避行」ラジオ二回目、ありがとうございました。いかがでしたでしょうか。Twitterで感想とか質問があれば #デザイン逃避行 でつぶやいてください。

今回はライブ感というところを主軸に話をしました。それによって引っかかるものがあって、つるっとした綺麗さじゃなく、深みのある美しさみたいなものが作れるというそんな話でした。ありがとうございます。

今日は割とじっくりデザインというものの話をしたんですけれど、三回目はどうなるかな。全然わかりません。お楽しみに。

おやすみなさい。

※この記事はVoicy『櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオ』の「綺麗だけど、ピンとこない。」の内容を書き起こし、加筆・修正を加えて編集したものです。

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櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオはこちらから。(第五回まで配信中 ※2018年7月26日現在。随時更新)

#デザイン逃避行 のハッシュタグで感想など、お待ちしています。


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テキスト:守隨佑果
編集:石川遼
写真:池田実加

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