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永住権申請を返却する可能性が低いわけ②

前回は、すでに移民局が受理した永住権申請を返却することには技術的(法的)なハードルがあることをお話ししましたが、今回は「滞留している申請数は、そうした特別な措置が必要なレベルなのか」という点について考えてみます。

そもそも、移民局は永住権技能移民部門(Skilled Migrant Category =SMC= resident visa)をどのように審査しているのでしょうか。2021年3月14日の報道に、いくつか基礎的なデータが出ていましたので拾ってみます。(特に指定がないデータは記事掲載時点での数値です)
- 2021年6月までの18か月間で50,000件から60,000件の永住権を承認する予定。
‐ ニュージーランド国外からの申請の審査は停止中。
- ニュージーランド国内からの永住権申請11,785件の審査担当オフィサーが決まっていない。
- 2021年1月1日から1,304件の永住権申請を審査担当オフィサーに割り振った。
- 審査担当オフィサーが決まった申請のうち、64%がニュージーランド国内からの非優先申請(Onshore non priority applications)。
https://www.rnz.co.nz/news/national/438330/immigration-says-auckland-covid-19-lockdowns-delayed-visa-processing

上記の数字をもとに説明していきますね。

まず「18か月間で50,000件から60,000件」という数字は、SMC resident visa申請だけでなく、永住権・市民権保持者などの他のカテゴリーの承認数を含んでいます。上記の他の数字はSMC resident visaのみですので、SMC resident visaの承認数を確認しておきます。

政府は永住権承認数を政策(New Zealand Residence Programme, NZRP)で決定しています。従来、2年間で85,000件~95,000件を承認していましたが、現在のJacinda Ardern首相率いる労働党(Labour Party)が永住権承認数を減らすことを公約に掲げて2017年9月の総選挙で与党となり、2019年5月、「18か月間で50,000件~60,000件」に削減しました。
そのうち
- 技能およびビジネス部門(Skill/Business Stream)25,500件~30,600件
- 家族部門(Family stream)は19,000件~22,800件
- 国際・人道部門(International/Humanitarian Stream)は5,500件~6,600件
となっています。
https://www.immigration.govt.nz/opsmanual/#41567.htm

18か月間で25,500件~30,600件のSMC resident visa申請を承認するには、1週間あたり327件~392件のSMC resident visaを承認する必要があります。(25,500~30,600件を18か月間=78週で割った数字です)

しかし、この記事によると、審査担当オフィサーが決まっているのは1週間あたり約130件となっています。(1,304件を、2021年1月1日~3月14日=約10週間で割った数字です)

つまり、本来は週327件~392件を処理するよう計画されているのに、実際には審査担当オフィサーに割り振られたのは週130件ということです。これがSMC resident visa申請の審査期間が長くなっている原因のひとつといえそうです。

審査期間長期化は書面申請のせい?

では、なぜ審査担当オフィサーに送られる申請数が少ないのでしょうか。上記の記事では、スタッフの話として「新型コロナウイルス流行中は在宅勤務できたが、書面申請をオフィス外に持ち出すことができなかった」と説明しています。

SMC resident visa申請は、第1段階の永住意思表明(Expression of Interest, EOI)はオンライン申請が可能ですが、その後の本申請(Residence application)はオンラインではなく、書面(ハードコピー)で提出する必要があります。移民局が書面で提出されたSMC resident visa申請をデータ化せずに、オフィサーに手渡しして審査していたのか?という疑問は残りますが、いずれにしても「申請を書面で提出→審査担当オフィサーに回す」というプロセスがボトルネックだった可能性が高そうです。

もしこれをJacinda Ardern内閣の承認数削減前の態勢(週あたり486件~552件)に戻してしまえば、現在のニュージーランド国内からの申請で審査担当オフィサーが決まっていない11,785件を約28週間(約7か月)~31週間(約8か月)で解消することになります。

そう考えると、SMC resident visaをオンライン申請でき、在宅勤務のオフィサーが申請をテレワークで審査できるようにする、といった、移民局のシステムを改良することで問題を解決できるレベルではないかと思うわけです。

(この稿おわり)

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