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ビザ申請代行の「確率」をお知らせしないわけ

ビザ申請の初回ご相談で「私がビザを申請したら、承認される確率はどのくらいありますか」という質問をよく受けます。筆者は「私たちは確率に基づいて仕事をしているわけではないので、確率は出せません」といった説明でご納得いただいているのですが、この場を借りて、筆者が確率をお伝えしない理由をご説明します。

確率には、計算に基づいて算出する「客観確率」と、数字的な根拠はないが、だいたいこのくらいだと思う、という「主観確率」があります。客観確率とは、「偶然起こる現象の、現象全てに対する割合」です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A2%BA%E7%8E%87

客観確率の大前提
客観確率を計算するには「すべての現象」と「その中のどの現象」の確率を計算するのかをはっきりさせる必要があります。例えば、日本のお天気予報でよく耳にする「降水確率」とは、「予報区内で一定の時間内に1mm以上の雨または雪(融けたときの降水量に換算する)が降る確率」のことです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%8D%E6%B0%B4%E7%A2%BA%E7%8E%87

「すべての現象」が何か、その中で「どの現象」の確率を計算するか、をはっきりさせないと、確率が何を示しているかがわかりません。例えば「人間が死ぬ確率は100%である」というように、当たり前の話を数字で言い換えただけになってしまいかねません。

また、上記の定義にある通り、客観確率は確率を計算する現象が「偶然起こる」場合に意味があります。ですので、偶然ではない現象、例えば「中間テストで80点以上を取る」確率は、テスト前に勉強して50%から60%に上げることができますから、客観確率ではありません。

さらに、「すべての現象」の数が多くないと、確率にずれが生じます。通常、サイコロを振って1が出る確率は6分の1と考えますが、実際に10回振っても1が出た回数は必ずしも6分の1はなりません。サイコロをもっとたくさん振ると、1が出る「確率」がだんだん6分の1に近づいていくわけです。

そうしてみると、「ビザが承認される確率」は客観確率の定義にあてはまらないのがおわかりいただけると思います。

まず、「すべての現象」を当社のお客様全体とするか、その中で同じビザカテゴリーでの申請にするか、あるいは当社のお客様に限らず同じビザカテゴリーの申請にするかで「確率」は大きく変わってきます。また、ビザ申請の結果は「偶然起こる現象」ではありません。さらに、「すべての現象」の数が少ないので、計算した確率にずれが生じる可能性が高いのです。

「ビザが承認される確率」とは
あるいは、お客様が聞きたいのは「客観確率」ではなく「主観確率」、言い換えれば「あなた(筆者)はビザが承認される自信がどのくらいありますか」ということかもしれません。しかし、その場合にも「確率」をお伝えするのは難しいのです。

移民アドバイザー行動規範(Code of Conduct for Licensed Immigration Advisers)第9条には「提出予定の申請、申し立て等の意味がなく、全体的に申請条件が整っていない、または成功する確率が低いと思われる場合には、アドバイザーの意見として、お客様にその理由を説明すること、もしその説明をしたうえでお客様が業務を依頼される場合には、お客様がリスクについて説明を受けたことを確認する文書を作成すること」と定められています。
https://www.iaa.govt.nz/for-advisers/code-of-conduct/professional-responsibilities/

お客様に「移民アドバイザーに依頼したら、どのくらいの確率で承認されると思いますか」と期待値を逆質問すると、50%から80%ぐらいとおっしゃることが多いようです。しかし、移民アドバイザーの主観確率は、申請代行をお引き受けすると決めた時点では100%に近く、もし却下につながりそうなリスクがある場合には、お客様にリスクを説明する必要があるのです。

しかし、その時点での移民アドバイザーの主観確率が「ビザが承認される確率」かというと、そうでもありません。

例えば、ES work visa申請の初回ご相談で、

①健康診断で問題がないこと。
②犯罪歴がないこと。
③ジョブオファーに見合った職歴・学歴・資格等があること。
④雇用主がジョブオファーを出す前にニュージーランド永住権・市民権保持者の適任者を探す努力をしたこと。
⑤ジョブオファーがニュージーランドの業界水準賃金(Market rate)や雇用関係法令の最低条件を満たしていること。

がそろえばES work visaが承認されるだろう、お客様から伺った限りではすべての書類がそろいそうだ、と考えたとします。

しかし、実際に書類を集めていく段階で、当初予想していたような書類がそろわない、という可能性は十分にあります。また、移民局の審査担当オフィサーによっては、移民法の規定の解釈が通常と異なり、不必要と思われる書類をリクエストされることもあります。そうした問題点を全部解消し、ビザ申請がすべての規定に合致していることを証明して、初めてビザ申請が承認されるのです。ですので、最終的にビザが承認されるまで、つねに却下される可能性があり、「ビザが承認される確率」が変わってくるのです。

以上のように、初回ご相談で移民アドバイザーの主観確率をお伝えすると、お客様が期待されている「ビザが承認される確率」とは違う数字が独り歩きして誤解を招く可能性があるため、お伝えしないことにしているのです。

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