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[BKK通信08] バンコク「お坊さん」事情 出家は母のため

当社ディレクターでばりばりの現役、その人当たりの良さで社内でも人望が厚いヴァニチさん。

その彼が二度も出家したと聞いて興味を持ち、詳しく話を間いた。タイは仏教国で、国民の90%が仏教徒である。男子は一生の間に一度は仏門に入らなければならないとされている。出家するのは成人として認められる通過儀礼ということである。そのため会社は4週間までは有給休暇扱いとすることが法律で定められている。

彼の場合、最初は9歳の時、父を亡くして喪に服したときでこれは三日間だけだった。剃髪をして三日間お棺に付き添い、父の供養をした(タイではお葬式は一週間行なわれる)。お坊さんのとなりにただ座ってただけで特別覚えていることはないという。

二度目は26歳の時、母のために出家した。タイでは原則として女性は出家できない。だから出家は母に代わって功徳を積むことになるのであり、息子が母親に対してできる最大の親孝行なのである。

タイの仏教は功徳を積む(タンブン)ことが特徴である。現世での幸福は功徳(ブン)の量の多さにかかっていると信じられている。ブンを積めば積むほど、幸福の量は増すのである。いってみればブンの貯金ですね。

早朝家の前で食事を用意し、托鉢の僧侶に対して供養するのも大きなブンになる。受けた僧侶は決して礼をしない。ワイすらしない。この行為によってブンを得るのは差し上げる供養者のほうだからである。母親のために出家するのは、自分のためだけでなく母のブンも積むということでもあるのだ。(その他、結婚する前に婚約者の両親のブンを積むために出家することもある)

この二度目のときは九日間。これは正式に行なった。まず入る寺を決める。これは母の田舎の菩提寺にした。得度式の直前三日間は大パーティで親戚、近所の人など400人を招いて、毎晩、映画、演奏、タイ舞踊、古典劇、酒、料理などで客をもてなした。当人はもう剃髪しており(頭だけでなく眉も剃る)、ほとんど楽しめなかったという。費用はすべて兄が出してくれた。30万バーツ(120万円)かかった。これも功徳、ブンとして加算されるのだ。

正式には得度式はパーリ語で厳格に行なわれるのだが、当人は式直前の夜中まで忙しく働いており、その辺は勘弁してもらった(本当は20分にも及ぶお経と問答を覚えねばならない)。

入ったのは田舎の小さなお寺だった。僧侶は四〜五人で、電気も来てなかった。一日は朝4時に起き、お経を唱えることから始まる。それから托鉢に出る。しかしこれは最初の一日だけだった。裸足で歩くのが痛くてへっぴり腰で歩いていたら、翌日からみっともないからもう来なくていいと言われてしまった。

僧侶の食事は午前中だけと決められているので、食事が終わるともうなにもすることがない。何をしてもいいんだそうだ。勉強しても、お祈りしても、瞑想しても、寝ててもいい。もっとも227の厳しい戒律があるので、そうぐうたらはしておれぬ。(女性に触れることも、触れられることも厳禁である)

彼の場合はずっと自分のことをしやぺっていたという。というのも、そのお寺の憎侶たちはその村から一歩も出たことはなく、バンコクにすら行ったことがないという人達だったので、彼が留学していたロンドンの話やバンコクの話を聞きたがったからだ。で、地下鉄やら、二階建てバスの話を日がなしていた。電気も来ていないので、TV、ラジオもない。夜はろうそくの生活だった。お寺の前の運河で水浴びをした。まるで、夏休みのキャンプ生活みたいだったよ。

出家は当人の自由意思である。だからいつ還俗してもいい。ただそう告げるだけでいいのである。彼の場合は最初から9日間と決めてあった。寺を出たあと飲んだビールの味がたまらなかった、という。

その後、近所のお寺にも行ったことはない。しかしはいつも心のうちにあると思う。出家して得た最大のことは、自分自身をコントロール出来るようになったことだ。夜寝る前に今日一日のことを振り返って見るようになった。母を幸せにできたことも誇りに思う。もし、私に息子が出来たらやっぱり息子を出家させるだろう。

しかし何といっても最大の収穫は禁煙できたことだなあ、と元お坊さんは笑うのだった。




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