見出し画像

新たな「授業研究ブーム」の到来:「法則化運動」


『戦後日本教育方法論史・上』
第7章「授業の本質と教授学ー教えることのアートをすべての教師のものに」
(この章の著者:石井英真)

『戦後日本教育方法論史』

12月の日本教育技術学会に向けて、
谷和樹氏が必読文献にあげられている。


1980年代になり、ここまでで述べてきた民間研や大学の研究者による授業研究のあり方を大きくゆさぶる出来事が起こった。
「教育技術の法則化運動」の出現である。

跳び箱論争、出口論争を経て、
向山氏は法則化運動を発足させた。(1985年)

向山氏は、次の2つの研究のあり方を批判した。
(と、石井英真氏は整理する。)

1)教材内容、教材、授業の進め方までが一体のものとして、厳格に構想された方式を、その思想に賛同するもののみに、一方向的に提供する民間研の実践研究
2)すぐれた授業の特徴の分析と、授業全般に通ずる抽象的な原則の抽出に終始する研究者の授業研究

当時の研究のあり方に疑問を感じていた
とりわけ若い世代が、「法則化運動」に参加していった。

現場の教師たちが主役となる双方向的な研究組織を樹立し、明日の授業をどうするかという教育現場の切実な要望に応えようとしたのであった。

機関誌たる「ツーウェイ」の語源は、「法則化運動」そのものにあるのだろう。



ちなみに、『新・向山洋一実物資料集』には、
「第10巻 全国10万人以上の教師が熱狂した教育技術法則化運動の誕生」
という巻がある。

このHPで公開されているページから、

スクリーンショット 2021-08-29 17.34.57

「教育技術法則化運動」の一端を知ることができる。
正確な引用ではないが、整理してみる。

1)法則化運動は、1988年1月7日の時点で「基本的課題を達成した」
2)「基本的課題」のポイントは2つだった
3)第一に「志」が認知されること
4)第二に「志を具体化するシステム」を作り出すこと
5)1988年以降は、個々の分野を強化する「具体策」を打ち出していく
 (例 3ヵ年計画)

参照:新・向山洋一実物資料集HP
https://mukoyama.tiotoss.jp
(ページが見えている丸い窓をクリックすると拡大表示される。)

あくまで一端である。
実物が届いてから、再度、詳細に「教育技術法則化運動」については整理してみたい。



さて、「教育技術法則化運動」をめぐって
当時様々な動きや検討、批判があった。

教科(とりわけ、体育)からの批判は、
『戦後日本教育方法論史・下』に詳しい。

今回は、石井氏があげる批判に着目する。
2つある。

1)授業や教育という営みの技術性をどう見るかという点
2)すぐれた教師の技術について、どのような単位でそれを対象化し、どう他の教師と共有していくのかという点

詳細は174ページを読めばわかるので、

あえて短く述べる。

1)→「人間」を対象とする「教育技術」は、教室や子どもとの関係で変化するのではないか。
(「モノ」を対象とする「生産技術」は、シンプルで、変化しない。)

2)→「一般化」した「教育技術」を、どのように「共有財産化」するのか。
(「一般化」した「教育技術」はそのまま使えるのか?使う人の「スタイル」によって変わるのか?)

1)については、たしかにその通りだと思う。
では、向山氏の問題提起をきっかけに、「教育技術」をどう学び、共有し、継承していくか。
人間を相手にするから、技術を継承することはできない。
これではあきらめである。
"代案"が示される必要があるだろう。

2)についても、考えるべき問題だと思う。
「そのまま使える技術(すぐに役立つ技術)」と「その人だから使える技術」はたしかに存在する。
ただ、TOSS・向山一門は、この両者の差異を認識し、克服していると考える。

ここは完全に私見だが、
TOSSは、「そのまま使える技術(すぐに役立つ技術)」を収集する。
一門という制度(徒弟制度)は、「向山先生と同じように」「向山型を学ぶ」ことを追究する。

もちろん、「向山型」が「そのまま使える技術」という場合もあるので、一概には言えない。
例)「口に二角」の授業、それを支える発問・指示・組み立て

だが、TOSS・向山一門というシステムが、
相互に補い合う形で、「技術」を「共有財産化」していると考えることはできると思う。

他の教育研究者・教育研究団体は、どのような"代案"を示すだろうか?


さて、こうした批判を踏まえた上で、
「教育技術」とは何か?「教材研究」とは何か? という点について考える必要がある。

少し筆を滑らせると、
こうした「〜とは何か?」という定義問題を考えても、前には進まないと感じる。
言葉や論理ばかり膨らませても、実際の授業は変化しないからだ。

それでも、あえて丹念に、「教育技術」の歴史を紐解き、現代に至る流れを掴んでいくことで、
自らが考える「教育技術研究の方向性(と具体)」を見出していきたい。

今年の学会のテーマは、
「『教育技術の法則化運動』から一人一台端末時代の教育技術へ」
追究していきたい。

参照:新・向山洋一実物資料集HP
https://mukoyama.tiotoss.jp
(ページが見えている丸い窓をクリックすると拡大表示されます。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?