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2020インフラ健康診断書(道路部門・トンネル)

土木学会事務局です。

土木学会では2016年度より、「インフラ健康診断」の取り組みを行っています。これは、土木学会が第三者機関として、橋やトンネル、上下水道などの社会インフラの健康診断を行い、その結果を公表し、解説することにより、社会インフラの現状を広く国民の皆さまにご理解いただき、社会インフラの維持管理・更新の重要性や課題を認識してもらうことを目的としています。

今回は2020年度の健康診断結果から、「道路部門(トンネル)」の健康診断結果と健康状態の維持向上のための処方箋をご紹介いたします。

診断結果は、健康度(現在の状態)がD(要警戒)で、維持管理体制(維持あるいは回復するための日常の行動)が、下向き(現状の管理体制が改善されない限り、健康状態が悪くなる可能性がある状況)とされました。

以下、「道路部門(トンネル)」の健康診断結果を解説いたします。

トンネルの特徴

日本の道路は、高速道路ネットワークの構築や災害に強い道路づくりを目指しており,国土に山岳地帯が広がるわが国では現在約1 万1 千の道路トンネルがあります。道路トンネルの管理者別比率は国、高速道路会社、都道府県・政令市および市区町村がおのおの15%、18%、48% および19% となっています。建設後50 年を経過したトンネルの割合は現在約20%ですが、市町村に多い延長100m 未満の短いトンネルでは現在すでに50%を超えており、老朽化対策の課題に早急に取り組むことが求められます。

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現状の健康状態

道路トンネル施設は5 年に一度、定期的に点検することが法律で義務づけられており、2019 年3 月までに全国のほぼ全ての道路トンネルの1 回目の点検が終了しました。その結果、国および高速道路会社が管理するトンネルの健全度はC(要注意)であるのに対して、都道府県政令市や市区町村などの地方自治体が管理するトンネルの健全度はD(要警戒)となっており、この結果は、5 年間変わらない傾向です。地方自治体が管理するトンネルは全体の約70% を占めることから、これを改善することが必要です。また、橋梁と比べて建設してからの年数が少なくても早期措置や予防保全段階にある施設数が多い傾向があります。さらに、トンネル内に設置されている照明器具などの附属物やその接続部位が劣化し落下することによる事故も発生していることから、附属物についても点検や対策を確実に実施していく必要があります。

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維持管理体制

定期点検を実施し、施設台帳整備、点検記録・補修記録を保存する体制は基本的にすべての管理者で整備されており、国、高速道路会社では、施設健康度に応じた計画的な修繕措置が実施されています。一方、地方自治体の修繕措置は遅れる傾向にあります。過去5 年間の市区町村の定期点検実施状況をみると、最終年に全トンネル施設の55% を一気に点検するなど、計画的な点検実施の難しさがうかがえ、早期措置段階や予防保全段階のトンネルへの修繕計画立案も遅れています。
2019 年3 月現在までに、市区町村の個別施設計画(長期的な維持管理計画)の策定はかなり進んだものの、それでも46% であり、橋梁の80% に比べて低くなっています。今後は現在の維持管理体制をさらに充実させ、全ての管理者が長期的な維持管理計画を策定し、これを着実に実行する必要があります。そのためには、中期的・継続的な予算の確保を行い、管理者や点検技術者の広域的な情報交換と点検・診断などの技術向上を促進する必要があります。特に、各管理者の長期的な維持管理体制状況の情報公開は全国でまちまちであることから、これを改善して点検・措置にかかわる関係機関の情報交換を促進する必要があります。これらの措置が適切に行われなければ、トンネルの健康状態が今後改善に向かうことは困難になることから、維持管理体制は下向き矢印の評価になりました。

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地域の状況

トンネルは橋梁と異なり、都道府県・政令指定都市が管理している施設数が最も多く全体の約48%を占めています。各都道府県・政令指定都市のトンネル管理本数は200 本以上を管理する大分県、新潟県、高知県から1 本しか管理していない政令指定都市までさまざまであり、修繕など維持管理活動を考慮した点検結果から得られた下図は、各自治体における取組みの大きさと必ずしも比例しないことに留意する必要があります。

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しかし、安全で信頼性の高い道路ネットワーク確保の観点からみると、全国平均を下回る地域では、今後、現状を上回る努力によって個々のトンネルの健康度を良好に保つことが望まれます。

トンネルの健康度の維持・向上のための処方箋

道路管理者は、緊急・早期に措置を講ずべきと判定されたトンネルの修繕に速やかに着手する。また、計画的に予防保全的な措置も併せて進めていく。

道路管理者および点検者は、建設後1~2 年の間に実施する初回点検の結果がその後の定期点検結果の解釈に重要であることを意識し、初回点検の信頼性を高める努力をする。さらにコンクリートの覆工面だけでなく、落下につながる照明など附属施設の点検の重要性を意識し部材の腐食などにも目を向ける。

道路管理者は、中期的・継続的にトンネルの維持管理を行い健康度を保つため、現在は不足している維持管理予算の確保を行う必要がある。さらに、国・地方自治体、地域の産学や土木学会などとの連携を促進し、点検・診断・措置を行う技術者の人材育成を実施する必要がある。

は、基準・要領などを適切に整備するとともに、施設管理者の財源が安定的に確保されるように必要な制度設計を行う。

住民は、管理者のインフラ長寿命化への取り組みを理解し、安全・安心なインフラの維持に努めるという意識を国民全体で共有することが重要である。その上で、点検や修繕工事へ協力するとともに、漏水・つらら・附属物などの状態変化の気づきを管理者に知らせるなど、日常的な維持管理のサポートを行う。

土木学会は、施設管理者、国・自治体、住民や産学の連携を促進するとともに、研究者や実務者、一般市民の知識・経験をを深めるための活動を積極的に行う。

健康診断書の解説動画

土木学会では2020年6月16日にインフラ健康診断書の結果を受けて講習会を開催しました。道路部門(トンネル)の診断結果の解説動画(約13分)を以下でご覧頂けますので、あわせてご覧下さい。

インフラメンテナンス総合委員会

現在土木学会では、インフラメンテナンスを力強くなおかつ恒常的に位置づけるため、既存の関連委員会を発展的に統合し、会長を委員長とする「インフラメンテナンス総合委員会」を2020年度から常設し、活動を推進しています。活動予定など、最新情報は以下のサイトでご確認ください。

おまけ:まんがひみつ文庫「トンネルのひみつ」

トンネルってどういうもの?ということを知る機会はなかなかないと思います。そこで紹介するのが、学研キッズネットで無料公開されている、学研まんがでよくわかるシリーズ「トンネルのひみつ」です。

こども向けと侮るなかれ。大人でも、土木技術者でも面白い読み物なので、オススメです。


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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/