総合的、複合的な地方インフラの探求

斉藤 親
依頼論説
東日本旅客鉄道株式会社顧問

年明けから半年程、この間のわが国の人口動向に関する記事が印象に残る。1月総務省は、東京圏一極集中の更なる進展を、6月厚労省は、合計特殊出生率の更なる低下と東京都で初の1.0切りを報じた。

出典:住民基本台帳人口移動報告 2023年(令和5年)結果(総務省統計局)
出典:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況

想定内とは言え、昨年の社人研の衝撃の発表「半世紀後の人口は現在の7割に減少」が脳裏に浮かび、特に地方で顕在化する人口減少時代の到来を再認識させられた。

出典:第3回社会保障審議会年金部会資料3


一方、経済面では、人口減から逼迫が予想される人手不足の問題が報じられ、AIの早期汎用化への期待や、人手の代替が困難な医療、福祉、物流等の分野での働き方改革への希求が報じられた。驚いたのは1月16日の毎日新聞の記事―「45都道府県で採用予定数割れ」「その職種のトップが土木職」―というもの。

老朽化する地方道の維持管理や上下水道の補修更新に対する人材問題は、これまでも指摘されてきた。また昨年は、地方鉄道存廃の本格論議の始まりについても紙面を賑わした。これら地方インフラ管理・整理の問題は、急速な人口減少と相まって、土木屋としても看過できない国家レベルの課題となりつつある。

20年近く前になるが、恩師の中村英夫先生(元土木学会会長)から私は、インフラの変遷について、矩形(縦軸シェア・横軸時代)を三分割する二本の波型が描かれた図を見せて頂いた。図の左から順に卓越する部分に、①新設・改良に邁進(高度成長時代)、②維持更新に軸足移行(低成長時代)、③複合化・高質化への展開(今後)と表現されていた。③の複合化・高質化についての現状に思いを巡らせると、道路では、首都高の日本橋区間地下化や各地の歩道と街づくりのエリアマネジメント融合、バスタや自動物流道路の論議などが浮かぶ。河川では、地球環境の変化、豪雨災害の頻発に対応し、ハザードマップや都市計画を介しての地元自治体・住民と強く連携した防災対策の向上が聞かれる。鉄道駅では、本来の乗降の場から、食事買物はもとより教育・行政・物流等々多様なサービスが集積するエキマチ一体の複合空間が各地に出現しつつある。確かにインフラの世界は、各専門分野のワクを越えて、複合的な取り組みによる知恵出しの時代の到来を感じさせる。

こうしたトレンドの中で、前述の「地方インフラ問題」はどう考えるべきか。長年、自治体と共に都市計画に携わってきた私は、コンパクトシティ(以下、CCと表記)の起源となった雪国の市長さんの「縁辺市街地の除外による除雪費用の削減」という実務的視点に考えが及んだ(土木学会誌2008年7月号どぼく自由自題、筆者拙筆参照)。選挙を通じ責任者となった首長の「選択」とそれを裏打ちする「手立て」はどうなるのか? ここでは、首長の腹決め選択となる「地域の整理整頓」と、これを強固に支える「総合的インフラマネジメント」という強く相互補完関係にある二つの視点から、地方インフラの将来を探求させて頂く。

一つ目の地域の整理整頓は、都市再生法に基づく「立地適正化計画」を土地利用規制力のある都市計画法に移行し、将来の減少人口に基づき ①防災に留意し整理縮小された居住誘導市街地(逆に除外市街地)エリアの設定 ②当該エリアで一体不可分な道路・上下水道・電気ガス・鉄道バス等のインフラ(ネットワーク)の明示(逆に除外インフラ)の二点の将来像を、厳格に地域住民と共有すること。因みに、本年3月現在568都市で発表の立地適正化計画では、既都計用途地域の大宗が誘導市街地として残り、思い切った除外市街地設定による絞り込みに乏しい。CCで先を行く富山市の前市長は、「終了していた周辺町村合併が、旧町村市街地の取捨論議を助けてくれた」と述懐している。なお、除外市街地に係る各インフラネットワークからの除外方策は、技術的課題の克服を含め重要な施策となろう。

二つ目の視点、「総合的インフラマネジメント」は、上記の多様なインフラサービスの総合的、持続的なシステムの構築を企図するもの。ここで参考となるのが、19世紀に始まり今に至る、ドイツのシュタットベルケというシステムである。都市国家ドイツの各市で、市の出資する(日本の三セクと異なり完全独立)団体により、電気・ガス・水道・鉄道等の地域インフラを統括管理運営している。注目すべきは、①地域の自立から発意 ②電気等の主力事業で公共交通等の赤字を補填するなど、総合的なマネジメントで全体の成立に取り組む点にある。事情は種々異なるにせよ、是非、わが国地方都市版のシステム構築の研究、追求を、多分野の業界、官界、学会、何より本誌読者に強く願うものである。

第207回 論説・オピニオン(2024年8月)


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