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Beyondコロナの日本創生と土木のビッグピクチャー 第4章 土木の裾野の拡大と土木技術者の役割

本記事は、2021年度土木学会会長特別委員会が2022年6月に公表した『Beyondコロナの日本創生と土木のビッグピクチャー~人々のWell-beingと持続可能な社会に向けて~』をnote向けに再構成して掲載したものです。提言の全文は、以下note記事よりPDFで入手いただけます。


地域や国民が「共生」しながら土木のビッグピクチャーを実現することにより、生活経済社会を支える下部構造であるインフラという基盤がこれまで以上に「あたりまえ」に存在するようになるためには、何よりもまず、国民、市民、地域住民に広くインフラの役割や意義を理解していただき、ビッグピクチャーの取組みを支持・支援していただくことが不可欠です。同時に、インフラの計画、整備、維持を担う土木技術者を長期にわたって継続的に確保することも必要です。さらに、土木の活動が国際的に行われていることを踏まえ、土木技術者はそれに適切に対応するとともに、国際社会に積極的に貢献していくことが重要です。 

第1節 土木の裾野の拡大

 (1) インフラの役割・意義に対する理解の促進

インフラは人々の生活や経済社会の営みにとって不可欠なものであり、インフラの受益者は私たち一人ひとりです。特に巨大な自然災害の発生リスクが高い我が国では、インフラの役割はとりわけ大きいといえます。こうしたインフラの役割や意義を国民一人一人が十分理解し、認識することは、国土の保全・維持にとって特に重要であり、また、共同でインフラを構築・維持する活動に踏み出すきっかけにもつながります。

インフラの役割や意義が国民の間に広く浸透していくためには、子供時代からの理解促進と、子どもの学びを通じた親世代の認識の改善に努めることが有効です。

それには初中等段階での教育内容と土木が繋がるよう、教育現場に寄り添った取組みを行い、土木の「そもそも論」(日本列島を取り巻く自然環境の厳しさ・恵み、社会の礎-あたりまえの前提、公共として行う意義)を伝えていくことが肝要です。探究的な学びやプログラミング教育等に資するための教材を、教育現場からの協力を得ながら、土木技術者自身の手によって作成することも、土木の営みへの理解に寄与するものと考えられます。

このため、教育課程での学びとインフラの役割・意義が接続しうる学びの形を土木の側から提示するとともに、子供の成長段階に沿った適切な教材を土木の側が開発し普及させることが必要です。

 (初中等教育への積極的な関与)
・教育課程の単元に対応した、
 学びと土木のつながりを示す教材の開発・提供
・「防災教育」に関する基礎知識や実務的観点からの支援
 (ex.ハザードマップなど地理空間情報の理解)
・教育現場での学びの支援

 (2) 人材の確保と育成

インフラの整備や維持管理に対する需要に的確に応え、質の高いインフラを保持していくためには、インフラに関わる土木技術者の必要数を確保するとともに、その質の維持が不可欠です。従来からも、土木の魅力向上や職場環境の改善を通じた入職者の確保や中途採用の実施、職場内外での研修・継続学習など、人材確保や育成についての取組みが行われてきましたが、これらに加え、他分野からの参入のハードルを下げるためのリカレント教育などによる学習機会の充実や、行政機関とくに地方自治体において、相互の連携を含めた人材確保の取組みが必要です。

また緊急時・非常時に初動を支える地元建設業が、人員・機材・技術を継続的に維持向上することができうる機会の確保など、持続的な平時の仕組みも必要です。

 (人材育成)
・土木技術者だけに限定されない、オンライン等多様な手段を活用した
 リカレント教育やリスキリング等学習機会の充実
・学びの履歴を活用した土木技術者に求められる能力・知識の体系化と
 習得のためのカリキュラム提供(CPD等の活用)

 

第2節 土木技術者の役割

(1) 国際社会への貢献と国際化する日本での活動

世界的な環境変化は急速であり、地球規模の課題を解決するためには、国際的な視野からの活動が求められます。また、アジアをはじめとする開発途上国への技術協力など、土木技術者の活動の場が広がっています。国内だけに目を向けるのではなく、世界中の誰もが、どこでも、安心して、快適に暮らせるような社会の実現に向けて活動し、国際社会に貢献することは重要です。 国際社会での活動では、日本における経験と、各国の歴史、文化、風土を踏まえた協調・共生が重要であり、交流に基づく相互理解が必要です。

そこで、「Well-beingの更なる向上」という目標を掲げたこのビッグピクチャーの概念に関し、継続的に世界各国の情勢・事例を調査し議論することにより内容の熟度を高めていくことが必要です。さらに、より多くの国の土木技術者との交流と議論を通してビッグピクチャーの概念を共有し、「Well-beingの更なる向上」にはインフラが大きな貢献をするという事実を各国の土木技術者と共に認識していけるような行動を展開することが大切です。

また、国際化が進むと、東京をはじめとする大都市圏のみならず地方においても、これまで以上に多くの外国人が訪れ、暮らすことになります。どの国籍の人であっても、安心して、快適に暮らせる都市へと成長・発展することが重要であり、そのためには、海外での活動経験を踏まえた多様性の視点からのイノベーションが必要です。国籍だけでなく性別、年齢等によらず、住みたいと思える都市、時代変化を踏まえて成長する都市を創造する活動をします。

 (国際化対応)
・土木における専門的な知識、技術力だけでなく、語学力、
 コミュニケーション力、国際理解力等を有する国際社会において
 活躍できる人材の育成
・国内における国際化に向けたダイバーシティ重視の視点からの活動の強化
・ビッグピクチャーの国際的な継続的な議論の促進

 (2) 土木技術者の使命

土木学会は、「社会と土木の100年ビジョン」において、土木の目標を「持続可能な社会の礎づくり」と位置づけ、100 年後も変わらない土木技術者の役割として

 1) 技術の限界を理解し、幅広い分野連携のもとに、
  人々の暮らしの安全を守り豊かにする
2)「社会基盤守 (も) り」として、
  計画・設計・施工と更新を含めた維持管理を行う
3) 未来への想像力を一層高め、日本のみならず
  世界に持続可能な社会の礎を築く
4) 高い技術者倫理を備えた社会のリーダーとして活動する

を掲げました。今後、ビッグピクチャー実現のため、土木技術者はそのできうる範囲において、貢献と責務を果たす使命があると考えます。

土木技術者は一人一人が俯瞰的総合力を持って、土木の営みに対する矜持と誇りを持ち、そして土木に必要とされる広い分野における知識と見識およびリーダーシップを兼ね備えるという自覚を持ち、地域や国民と「共生」しながら、国土・地域づくりを先導する覚悟を持ち、あらゆる境界をひらき未来のために取り組んでいくことが必要です。


第3章 ありたい未来を実現するために②

おわりに


7/21に、本提言のシンポジウムをハイブリッド形式で開催いたします。zoomウェビナーでの開催ですが、YouTubeでもライブ配信します。


国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/