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令和6年能登半島地震 公益社団法人土木学会 会長特別調査団 記者会見 所見(暫定)

令和6年能登半島地震 公益社団法人土木学会 会長特別調査団が、2024年2月6日に石川県庁で行った記者会見において配付した資料を転載しました。(印刷用PDFは以下のページに掲載しています)


2024.2.6

■はじめに

2024 年 1 月 1 日に発生した能登半島地震において、石川県能登地方をはじめ、北陸地方を中心に甚大な被害が発生し、多くの尊い命が失われたことに深く哀悼の意を表しますとともに、被災された皆様にお見舞いを申し上げます。また、厳寒の中、避難所運営等の応急対応、インフラの復旧・復興に向けた取り組みに尽力されている皆様に敬意を表します。

土木学会では、発災後 1 月 2 日より、交通網の厳しい被害状況等に留意しつつ、必要な調査を実施するとともに、1 月 9 日に「地震工学委員会 令和 6 年能登半島地震(M7.6)に関する速報会」、1 月 27 日に「令和 6 年能登半島地震津波に関する調査報告会」等を開催してきた。

このたび、土木学会は、今後の復旧・復興を適切に進めていくために、田中茂義会長を団長とし、地震工学、地盤工学、海岸工学、津波工学、土木計画学、インフラ学・国土学等の広い関係分野の専門家で構成される「会長特別調査団」を現地に派遣し、2024 年 2 月 5 日~6 日にかけて、被災箇所の調査を行った上で、記者会見を開催することとなった。

本所見は、現時点における暫定的な見解であり、考え得る今後の適切な復旧・復興等のために、 会長特別調査団として発信するものである。

1.今回の地震災害の特徴

(1) 今回の地震は、群発地震に続いての震度 7 を記録した地震発生であり、地震動による建物や構造物の被害、土砂災害や液状化現象等に起因する被害、津波による浸水被害、火災発生による被害など、複合的な災害が同時的に発生した。

(2) これにより、半島の先端部の平地が少ない地域で、中山間地の集落につながる道路やライフライン等が寸断され、集落の孤立等が多く発生した。

(3) 緊急復旧や今後の本復旧・復興のメインルートとなるべき幹線道路に大きな被害が発生し、緊急復旧に時間を要する等、被災地の支援の初動対応が取りづらい状況が発生した。

(4) 二次避難等災害に伴う人口減少等もあり、地域の復旧・復興ビジョンや計画づくりを進 めるための場づくりが課題となることが懸念される。

<解説>
① 今回の地震は、群発地震に続いての震度 7 の地震発生であり、地震動によって直接的に発生する被害と、土砂災害に起因する道路等の寸断や河川の河道閉塞、津波による海岸構造物や建物等への被害などが同時に発生した。今後想定される南海トラフ地震等でも、このような被害が想定される場面もあるため、今回の地震災害を教訓に、事前に複合災害が 発生した場合を想定し、対応策を検討することが必要である。一方で、耐震設計基準が大きく変わった以降に設計された橋梁の本体は概ね、軽微な被害にとどまっている他、耐震補強対策をおこなった橋梁についても致命的な被害を回避している。また、盛土の締固めの基準等が引き上げられた以降の盛土については、崩壊に至るような被災がみられない など、これまでの対策が効果をあげている。
② 緊急復旧や今後の本格復旧・復興のメインルートとなるべき、能越自動車道やのと里山海道が被災するなど、被災地への迅速な支援が円滑に進まない状況になり、地域の根幹をなすインフラ施設の耐震性についての課題点などが浮き彫りになった。
③ 能登半島は、美しい自然が豊かな一方、平地が少なく厳しい環境の中で、今回の地震災害が発生し、多くの集落で往来や電気・通信・上下水道等のライフラインが途絶する状況になった。また、高齢化が進んでいたこと等により、避難や物資供給に時間を要した。地震発災後に速やかに孤立状態が解消されるための方策や、孤立した場合においても、最低限の生活が維持できるような備蓄や個別支援のあり方を検討する必要がある。
④ 中間支援団体や学会等の支援を受けて、コミュニケーションの場づくりを進め、住民が中心の復興計画づくりに取り組める体制づくりが重要である。
⑤ 上記のような、今回の地震被害の特徴は、今後、全国のどこででも起こる可能性があることを認識し、今後の、特に地方部における地震対策の教訓とすべきである。

2.二次被害を抑制し、復旧・復興を迅速化するための所見

(1) 余震活動は減少の方向にあるとは言え、まだ連動性地震も含めて発生する可能性がある。その中で、地震の揺れによって斜面が不安定な状況になっている可能性がある箇所もあり、今後の余震・降雨・積雪・融雪等によるさらなる土砂災害の発生の危険性に対し、土砂災害危険個所等において警戒し、二次災害の発生を防止することが重要であり、その対応の要点を確認することが必要である。また、河道閉塞等これからの出水期の二次災害に留意する必要がある。

(2) 早期復旧・生活支援のために、限られた交通容量を最大限活用し、被災者の生活維持と復旧を両立しつつ進めて行く、適切な通行規制など、交通マネジメントによる渋滞緩和を図り、幹線道路の復旧を急ぎ、アクセスを早急に改善する必要がある。

<解説>
① 余震活動は減少の方向にあるとは言え、まだ連動性地震も含めて発生する可能性がある。過去の 1983 年日本海中部地震、1993 年北海道南西沖地震など似た傾向があり、1ヶ月前後でも比較的大きな余震が発生している。
② 今回の地震では、各地で斜面崩壊、深層崩壊とも言える災害が発生し、現状においても崩壊危険性の高い斜面が数多く存在しており、今後、余震・降雨・積雪・融雪等によって崩壊することが懸念されるため、二次災害の発生を防止することが重要である。
③ 今回の地震では、幹線道路が被災し、交通網が寸断され、十分な輸送力が確保できていない状況がある。適切な復旧事業や被災者支援のためには、バス等の公共交通の運行や交通規制などを含め、全体的な交通需要マネジメントが引き続き重要である。運用を再開した能登空港や、港湾施設などを含め、陸海空での能登半島全体の被災地支援を継続する必要がある。

3.復旧・復興のあり方に関する所見
〜美しく心やさしい能登半島の暮らしと風景を守る復興を〜

(1) 道路、上下水道の本復旧については、今後も甚大な被害が発生することがないよう脆弱な個所の補強やリダンダンシーの確保を図る必要がある。特に上下水道については分散型・自給自足(オフグリッド)型のインフラの導入についても検討する必要がある。

(2) 能登半島の今後の復興再生に合わせて、輪島市につながる縦軸の幹線道路と珠洲市等につながる横軸の線形改良・機能強化によって、能登半島における幹線交通路の構築を検討する必要がある。

(3) 地震動・津波・土砂災害・液状化等が重なる複合災害のリスクを考慮した住まいかたの検討を含む、安全・安心のまちづくりを進める。その際に、生業(なりわい)や個々の状況に応じて、市街地や集落の多様なまちづくりを推進する必要がある。

(4) 復旧・復興に際し、地域文化の復興、地域経済活動の強化につながるよう、能登半島が持つ地域資源(自然・景観、風土、農林水産業、観光、歴史・文化)を生かしたインフラの復旧・整備や、地域再生に取り組む必要がある。

<解説>
① 地域の根幹をなす道路や上下水道などのインフラ施設は、大規模な災害が発生した場合においても、甚大な被害が発生することの無いように、災害に対して脆弱な箇所の補強を行ったり、代替手段が無い箇所においては、代替経路を確保し、リダンダンシーを持たせるなど、地域のインフラの強靭化を進める必要がある。
② 特に、能登半島の今後の復興再生に合わせて、輪島市につながる縦軸の幹線道路と珠洲市等につながる横軸の線形改良・機能強化によって、能登半島に縦軸の幹線交通路と構築を検討する必要がある。
③ 能登半島が持つ地域資源(自然・風景、農業・林業・水産業・観光業、人材、そして北前船が育んできた歴史と文化)は素晴らしく、「Build Back Better 理念」を今回の復興で実装していくためには、そうした地域資源を最大限に活用し、それに寄り添うインフラ整備や市街地・集落の再生が、地域文化の復興、地域経済活動の強化、ひいては未来の能登半島の観光・交流の拡大につながっていくものである。
④ 今回の能登半島地震からの復興は、人口減少や高齢化の深刻化を鑑みれば、過去の復興とは全く異なる状況にある。将来の更なる人口減、税収減も踏まえ、かつ、復旧・復興には時間がかかることを鑑み、優先順位や時間軸を考慮した、より一層効果的な復旧・復興を考えていく必要がある。また、地域全体に関連するインフラの復旧・復興に当たっては、国等がリーダーシップを発揮し専門家を交えた検討・調整・実施体制を構築する必要がある。そのうえで、都道府県や市町村の枠組みにとらわれない体制での復旧・復興支援が重要である。
⑤ 復旧・復興にあたっては、より一層の地域文化の復興、地域経済活動の強化のために、地域住民他、多様な立場や属性の人と議論を深めていく必要がある。

(参考)石川県の復興計画
【創造的復興6つの柱】
(1) インフラの早期復旧・強靱化。
(2) 農林水産業、伝統産業、観光産業など能登の特色ある生業(なりわい)の再建。
(3) 暮らしと地域コミュニティの再建。
(4) 危機管理、安全・安心の充実。
(5) 今回の地震の教訓を踏まえた災害に強い地域づくり。
(6) 能登ブランド強化に向けた創造的復興リーディングプロジェクトの創出。


4.今後に向けた所見

(1) アクセスルートとなる幹線道路については、災害時の根幹となるが、復旧の容易さや壊れにくさを考慮した構造・工法を検討すべきである。特に災害時に活用する緊急輸送道路については、盛土等、土工について甚大な被害を防ぐ必要があり、今後、研究知見をさらに積み上げこれを活用しつつ、その耐震性能についてグレードをあげる必要がある。

(2) 今回の地震の特徴である、半島部という限られたアクセス、各種インフラの被害等の発生を踏まえ、より迅速な対応等を図っていくためには、国・都道府県・市町村の連携、市町村間の広域連携のより一層の充実・深化、地域を守る地元建設業等の民間企業とのさらなる連携の充実が必要である。

(3) 人口減少社会を踏まえ、地震等の災害時の孤立リスクを評価し、これを踏まえた、応急復旧のための車両や資機材、備蓄等の災害対応力の強化及び陸・海・空の連携、特に内陸の孤立集落については、陸・空等が一体となった緊急輸送体制強化の検討を行うべきである。

(4) 今回の地震において津波が発生したが、津波浸水想定を踏まえたハザードマップの公表、東日本大震災などこれまでの我が国における災害経験を踏まえた住民の避難訓練の実施が、迅速な避難に寄与したと考える。一方で、新潟の液状化被害は、過去に液状化したところで繰り返し発生しており、過去のデータの蓄積から、これからの被害発生リスクを予測することの大切さが改めて示された。これらを含めこれまでの災害経験と教訓を伝承し、あらゆる関係者が情報発信していくことが重要であり、それらに活用しうるリスク評価にかかる研究成果、情報・データを集約し、伝承していくアーカイブを構築するとともに、デジタル技術等の最先端技術を最大限活用する防災力のさらなる強化が必要である。

<解説>
① 迅速な復旧活動を可能とするため、幹線道路の耐震性と復旧性やコストを統合的にとらえ、システムとしての一体化が求められる。地質や地形の制約を受け、不確定性が相対的に高い盛土構造物やその接続部、また切土斜面については、周囲の地形・地質条件を含む構造物の点検・診断や挙動予測など、今後も研究知見を積み重ね復旧性の評価を含む被災リスク評価の高度化と、それに基づく耐震性向上や路線線形の変更等、積極的な対策が望まれる。
② 今回の地震は、様々な災害が複合的に発生しており、まだ十分な調査・研究が進んでおらず、地震災害の被害全体像やメカニズムの解明などを引き続き進めていく必要がある。日本建築学会、日本地震工学会、地盤工学会、日本都市計画学会等、他の学協会と連携し、様々な専門家の知見等を結集させて、総力を挙げて今回の地震災害の全容の解明を進めていく。
③ 今回の地震において津波が発生したが、津波浸水想定を踏まえたハザードマップの公表、東日本大震災などこれまでの我が国における災害経験を踏まえた住民の避難訓練の実施が、迅速な避難に寄与したと考える。これらを含めこれまでの災害経験と教訓を伝承し、あらゆる関係者が情報発信していくことが重要である。
④ 地盤災害について、自然斜面を含む崩壊安全度のリスク評価にかかる研究を継続的に充実し、成果を公表することにより、住民の警戒避難や土地利用への活用を図る必要がある。
⑤ 構造物に関して、2007 年能登半島地震や、最近の群発地震での影響により、今回の地震被害が悪化した可能性も考えられる。すなわち、今回の地震での顕在化していない損傷により、次なる大規模な余震により、被害拡大する可能性もある。損傷の蓄積と被害拡大メカニズムについて知見を蓄積するとともに、これから起こりえる被害についても予測し、備えていく必要がある。
⑥ 過去に発生した、平成 19 年の能登半島の地震後に耐震補強を行った構造物の被害が小さかったり、平成 23 年の東日本大震災発生後に津波に対する備えを強化したことが功を奏して、大きな被害の発生を抑止できた部分も見られたが、防災対策がうまくいった部分と、課題として今後取り組むべき部分などを教訓とし、来るべき南海トラフ地震や首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などの対策にこれらの知見を取り入れていくように、引き続き提言や情報発信を進めていく必要がある。
⑦ 新潟の液状化被害は、過去に液状化したところで繰り返し発生しており、過去のデータの蓄積から、これからの被害発生リスクを予測することの大切さが改めて示された。これから被災しうる地域において、更なる点検が必要である。
⑧ 輪島市の伝統地域の焼失や、見附島等の海岸の変貌は、地域にとっての衝撃である。地震前の映像等からバーチャルで焼失・隆起前の地域を復元してみせるなど、地域の文化・記憶の伝承にも貢献することが重要である。航空写真、地上映像など、それらに活用しうる情報・データを集約し、伝承していくアーカイブの構築などが求められる。

5.おわりに

今回の地震被害の全体像の解明、複合災害(建物倒壊、土砂災害、津波、火災、液状化)の連鎖する被害の発生メカニズム、今回の地震の教訓の検証等については、日本建築学会、日本地震工学会、地盤工学会、日本都市計画学会等、他の学協会と連携して進める。将来発生が懸念される南海トラフ地震や首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震への備えについてはもちろんのこと、日本全国どこにでも起こりうる地震への備えについて、今回のような地震災害がどこでも起こる可能性があることを認識し、特に地方部における地震対策の取組みを進める。


■会長特別調査団 メンバー
団長 田中茂義 公益社団法人 土木学会 会長(大成建設)
副団長 今村文彦 公益社団法人 土木学会 副会長(東北大学)
団員 家田仁 政策研究大学院大学(土木学会 元会長)
   大原美保 東京大学
   北野利一 名古屋工業大学
   小林俊一 金沢大学
   酒井久和 法政大学
    多々納裕一 京都大学
   由比政年 金沢大学
   三輪準二 公益社団法人 土木学会 専務理事
■調査概要(期間・箇所)
【2024 年 2 月 5 日(月)】
 ① 珠洲市宝立町(津波浸水箇所)
 ② 珠洲市真浦町(国道 249 号 逢坂トンネル付近大規模崩落箇所)
【2024 年 2 月 6 日(火)】
 ③ 輪島市熊野町(河原田川 河道閉塞箇所)
 ④ 輪島市河井町(被災市街地)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/