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2020インフラ健康診断書(下水道部門)

土木学会事務局です。

土木学会では2016年度より、「インフラ健康診断」の取り組みを行っています。これは、土木学会が第三者機関として、橋やトンネル、上下水道などの社会インフラの健康診断を行い、その結果を公表し、解説することにより、社会インフラの現状を広く国民の皆さまにご理解いただき、社会インフラの維持管理・更新の重要性や課題を認識してもらうことを目的としています。

今回は2020年度の健康診断結果から、「下水道部門」の健康診断結果と健康状態の維持向上のための処方箋をご紹介いたします。

診断結果は、健康度(現在の状態)がB(良好)で、維持管理体制(維持あるいは回復するための日常の行動)が、下向き(現状の管理体制が改善されない限り、健康状態が悪くなる可能性がある状況)とされました。

以下、「下水道部門」の健康診断結果と処方箋を解説いたします。

下水管路の特徴

日本の国土には約48 万km(2018 年現在)の下水管路施設が布設されており、2008 年からの10 年間においても約14% 増加しています。これらの施設は他のインフラに比べると新しく整備されたものが多く、標準耐用年数50 年を経過したものは2018年度で約4%ですが、10 年後には約14%、20 年後には約33%と急速に増加する見込みです。

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このように老朽化した管路施設は今後増大することは明らかであり、2015 年度の下水道法の改正に伴い維持修繕基準を創設するとともに、下水道の事業計画において管渠の点検方法および頻度を追加するようにしています。また、事業体ごとに、下水道施設の点検・調査を計画的に行い、その結果にリスク評価や優先順位を加味して修繕・改築を行うといったストックマネジメントが導入されつつあります。

現在の健康状態

管路の老朽化に伴い、下水道へ浸入する地下水が増加することにより下水処理場における負担を増やすことが考えられます。さらには、道路陥没事故などの一因となっており、大半は小規模であるものの、一部は道路利用者に被害を及ぼすような比較的規模の大きい陥没事故も見受けられます。管路施設の健康度を陥没事故の発生状況、老朽化(布設後50 年経過管)の状況と,それらの管路の改築状況(2017年度に実施した試行版では評価に入れておりませんでしたが,今回より評価指標に加えました)から検討すると、古くから下水道が整備された大都市を中心に懸念すべき状況にあることがわかります。一方で、最近下水道が導入された小規模な都市では、今のところ懸念すべき状況にはありません。

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維持管理体制

管路施設は増加している一方で、管路延長あたりの維持管理費について政令指定都市を中心に増加しているものの、管路の調査延長や技術系職員数は増えておらず、単位延長あたりの調査延長はここ3 年で20%、技術系職員数はここ10 年で15% 減少しています。特に中小都市において減少割合が大きく、今後施設の老朽化が進む中で十分な維持管理体制を継続できるか憂慮すべき状況にあります。

健康度の維持・向上のための処方箋

管理者は、管路情報の電子化と一元的管理を進め、それを利用した効率的な維持管理の支援方法を検討する。

国および管理者は、「下水道ストックマネジメント」の導入をさらに進めるとともに、それを核として資金や人材の管理も含めたアセットマネジメントの取り組みを展開する。

は、適切な維持管理を行いやすい事業規模への広域化や、維持管理業務の効率化のための共同化を促す方策を検討する。

国および管理者は、継続的かつ効率的に管路の維持管理・更新を行うための予算確保の方策について、公民連携などの手法も含めて検討する。

研究機関および民間事業者は、管路の点検、修繕、更新を効率的に行うための技術開発などを検討する。

学協会および教育機関は、上記を実現するための人材育成と技術力向上の取り組みを継続的に行う。

国および管理者は、その他、内水氾濫や事業継続に影響を与える大規模災害などへの対策を推進する。

ないすい-はんらん【内水氾濫】
1.大雨により下水道などが排水できずにあふれて、住宅地などが浸水する状態。
2.本川の水位が上昇し、支川が本川に流入できずにあふれて、住宅地などが浸水すること。
出典:国土交通省「水害・土砂災害に関する防災用語改善検討会」
第3回配付資料「論点整理(案)と今後の課題について」
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/bousaiyougo/index.html

利用者は、下水管の閉塞(へいそく)や下水処理への影響を避けるために、油類を流さないなどの適正な利用を心掛ける。

へい‐そく【閉塞】
[名](スル)
1 通路や出入り口がふさがること。また、閉じてふさぐこと。
出典:Weblio 情報提供元:小学館 デジタル大辞泉

健康診断書の解説動画

土木学会では2020年6月16日にインフラ健康診断書の結果を受けて講習会を開催しました。水道部門・下水道部門の診断結果の解説動画(約14分)を以下でご覧頂けますので、あわせてご覧下さい。

インフラメンテナンス総合委員会

現在土木学会では、インフラメンテナンスを力強くなおかつ恒常的に位置づけるため、既存の関連委員会を発展的に統合し、会長を委員長とする「インフラメンテナンス総合委員会」を2020年度から常設し、活動を推進しています。活動予定など、最新情報は以下のサイトでご確認ください。

おまけ:まんがひみつ文庫「下水道のひみつ」

日常の生活に欠かせない下水道ですが、下水道ってどういうものか?ということを知る機会はなかなかないと思います。そこで紹介するのが、学研キッズネットで無料公開されている、学研まんがでよくわかるシリーズ「下水道のひみつ」です。

こども向けと侮るなかれ。大人でも、土木技術者でも面白い読み物なので、オススメです。

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/