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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重… もっと読む
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カーボンニュートラルの加速と生物多様性の保全

中山 恵介 論説委員 神戸大学 2050年カーボンニュートラルの達成に向けて待ったなしの状況であり、技術革新などによる温室効果ガスの排出量の削減、およびネガティブ・エミッション技術の開発が喫緊の課題である。カーボンニュートラル達成のためには、前者のエネルギー産業における構造転換、およびイノベーションの創出による温室効果ガスの排出量の削減だけでは達成が不可能であり、後者のCarbon dioxide Capture and Storage(CCS)やCarbon dioxid

河川堤防の構造物周りの強靭化に期待する

上村俊英 論説委員 (株)建設技術研究所  人口や社会資本の多くが低平地に集中している日本にとって、堤防は洪水や高潮からこれらを守る重要な治水施設である。堤防のうち河川堤防の多くは土堤であり、過去の被災に応じて拡幅や嵩上げなどで経験的に構築されてきたが、近年、模型実験による知見や解析手法の開発により、耐越水・侵食、耐浸透、耐震に着目した質的強化が図られてきている。今後は気候変動に伴い増大する洪水に対して強靭化が求められるとして、耐越水性のさらなる向上が図られている。 これ

地域のインフラメンテナンスは産学官民の総力戦で

岩城 一郎 論説委員 日本大学 教授 近年、高度経済成長期に集中整備された橋をはじめとするインフラの老朽化が社会問題となっている。2012年12月2日、建設から30年以上が経っていた笹子トンネルで天井板落下事故が発生した。この事故を受けて、政府は2013年をメンテナンス元年と位置付け、インフラの長寿命化を国の重点施策とした。さらに、国土交通省では2014年に全国に約70万ある橋に対し、国が定める統一的な基準により、5年に1回、近接目視点検を行うことを基本とする省令を制定した

地質リスクマネジメントと地質・地盤技術者の役割

田中 誠 依頼論説 (一社)全国地質調査業協会連合会 会長  土木学会が2022年9月に発表した「地盤の課題と可能性に関する声明」(以下、「声明」)においては、地盤がインフラ施設にとって地盤は構造物を支える基盤的存在としてその重要性が強調されている。これは全国地質調査業協会連合会(以下、全地連)が標榜する「地質調査はインフラのインフラ」というメッセージとも軌を一にする。 地質調査業界は、「地盤」を対象に調査・試験・解析などを業としており、インフラの整備・保全、防災・減災の

カーボンニュートラル社会の実現に向けたコンクリート工学の挑戦

石田哲也 論説委員 東京大学大学院工学系研究科 カーボンニュートラル社会の実現に向け、世界中でCO2削減に向けた動きが活発だ。CO2排出量の大きいセメント・コンクリート産業への風当たりも厳しい。水と硬化する性質を持つセメントは、原料の石灰石(炭酸カルシウム)からCO2を離脱させるプロセスにより生まれる。セメント製造の際、原理的にCO2は必ず排出される。 コンクリートの低炭素化を図る従来の定番技術は、セメントの一部を高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの混和材で置換するもの