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「キラめき」=「本質」♢再生讃美曲に寄せて


 現在全国劇場で公開中、劇場版再生産総集編『少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド』の主題歌「再生讃美曲」の作曲・編曲を担当させていただきました。

 この曲を作る前、僕は『スタァライト』という作品そのものに強く感動していたのですが、その感動についてここに記しておきたいと思います。

 念の為断っておくと、今から書くことは決して作品の"考察"ではありません。あくまで、僕自身の主観的な想いや感動なので、「ここはシナリオ的にそういう意味じゃない!」などといったポイントがあってもご容赦ください。

「1つの大きなキラめき」

 「再生讃美曲」初回限定盤のブックレットにもコメントさせていただいたのですが、僕と『スタァライト』の出会いは、2018年のアニサマのゲネプロでした。ちょうどスタァライト九九組とfhánaは同じ出演日で、まったく予備知識が無い状態でリハーサルの様子を見て、その独特な世界観に感銘を受けたのでした。それから1年後、テーマソング「CROSSING STORIES」を書かせていただいた2019年のアニサマでもご一緒して、九九組のステージに圧倒されました。

 そんな流れを経て、昨年11月、横浜アリーナにて開催された3rdスタァライブ”Starry Diamond”を観させていただいて、そこで僕は本格的に「スタァライトされた」のでした。1つ1つの楽曲が素晴らしかったこと、メンバーのパフォーマンスや演出のクオリティが高かったことは勿論、何よりも胸を打たれたのは”一体感”です。
 長尺な構成で、なおかつ九九組の9人だけでなく、新ユニットも登場する多人数のライブであるにも関わらず、散漫にならずに、メンバー全員と、そしてステージ全体が、同じ方向を向いていて、1つの大きなキラめきのような一体感がありました。

 そしてライブの最後に流れた劇場版のティザー映像です。僕はこの段階では、まだTVアニメは見ていませんでした。しかし、この短いティザー映像には強い引力があり、哲学的と言いますか、衒学的と言いますか、僕の好きなタイプの「作品の醸し出す匂い」みたいなものが漂っていました。
 こうして、横アリのライブの熱に当てられたことと、ティザー映像を見て「これは…」と思ったことが重なって、帰宅後、TVアニメの全話をほぼ一気に見ることになります。

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 TVアニメは本当にヤバかったです。
作品全体から漂ってくる雰囲気と、圧倒的な熱量の想いに裏付けされたクオリティの高さに、第一話から泣きそうになりながら見ました。

 音楽に関しても、ちょっとした日常シーンのBGMですら一聴した瞬間、音楽的にも音質的も極上で、とにかくクォリティが高い。OP曲「星のダイアローグ」は純粋に良い曲で、ED曲の「Fly Me to the Star」は、エヴァ好きな僕はニヤリとしつつも心に染みました。
 各話のレビュー曲には圧倒されました。映像と楽曲が完璧にシンクロしているんです。後から教えてもらったのですが、レビュー曲に関しては「当て書き」で作られているそうです。普通の歌もの楽曲は、映像とは別で作るのですが、当て書きでは先に映像があって、タイミングも含めて映像に完璧に合わせて曲を作ります。TVアニメでそこまでするのか!と驚愕しました。

 ストーリーはちょっと普通ではない作品なのですが、想いの強さと熱量で物凄い突破力がありました。とにかく台詞のひとつひとつに力が宿っていて、泣きそうになります。哲学的で、芸術的で、観念的で、それでいて感情的で、美しい。

 ここにいたってもとくに予備知識を入れずにTVアニメを見たのですが、「少女革命ウテナ」や「エヴァ」のような質感も感じました。これに関しても後から調べて納得することになるのですが、最初にアニサマで見たときに、作品の内容は知らなくとも、やはりそういう「匂い」を感じ取ったから興味を持ったのだと思います。

「キラめき」=「本質」

 当時の僕は、fhánaの「僕を見つけて」や「where you are Tour 2019」を経て、芸術の「本質」についてよく考えていました。
 「本質」というのは、プラトンが言うところの「イデア」的な話のことでです。古代ギリシアから現代にいたるまで、様々な哲学者や芸術家たちが、手を替え品を替え、「本質とは何か?」という探求を行ってきました。小説家や漫画家、脚本家や映画監督たちも例外ではありません。
 
 『スタァライト』に於いて、舞台少女たちの言っている「キラめき」とは、まさに「本質」のことだと思いました。
 
 オーディションで敗れると、芸術の「本質」を奪われてしまう。
 
 「本質」を失ったまま、それでも一人で戦い続けた神楽ひかり。

 「本質」を維持する為に、第99回の舞台の再演を繰り返した大場なな。

 そして「本質」を取り戻す為に、飛び入りでオーディションに挑んだ愛城華恋。彼女の想いの強さが奇跡を呼んで、この舞台に本来ある筈のないアンコールを呼び、そして新章に突入して、芸術の「本質」を取り戻す。

 本当に美しい物語でした…。

 ”圧倒的に想いの強い人”が、奇跡を起こす。
 華恋もそうだし、これは物語の中だけのことではなくて、現実に於いてもそうだと思います。
 感動する作品やコンテンツ、或いはイベントなんかでも、大勢の人々の心を動かすコンテンツの中心には、”圧倒的に想いの強い人”がいる。

 九九組のメンバーをはじめキャスト陣からも本物の本気の熱量を感じたし、映像、音楽、さらにはデザインやアートワーク、多くのスタッフ、そして舞台創造科(ファンの皆様)に至るまで、すべてから強い熱を感じて、この作品そのものと、作品に携わるすべての人たちが、大きなキラめきとなって、本当に美しく輝いている。そんな奇跡の存在に僕は涙しました。

 好きな台詞やシーンが沢山あるのですが、とくに挙げるとしたら、11話の”舞台少女心得 幕間”の台詞たちです。その中でも、

 「舞台は、私たちの心臓。歌は鼓動。情熱は血」
 
 そして、
 
 「舞台少女は繋がってる」
 「舞台で待ってる」
 
 これら台詞には、自然と自分自身を重ね合わせてしまいました。

 僕のことで言うなら「音楽で繋がっている」ということ。
そして、「キラめきによって、世界はすべて繋がっているんだ」と、そんなことを感じて、不意に号泣していました。

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 という感じで、完全にスタァライトされたわけですが、後に今回の再生産総集編の主題歌を書くことになって、最大級の驚きと、最高の幸せと、巨大なプレッシャーが僕を待ち受けることになります。

 「再生讃美曲」の作曲は、想いが強かった分ハードルも上がり過ぎて、本当に苦しみました。深く深く潜って、少しずつ何かを見つけては持ち帰り、また潜るという日々が続きました。
 作曲後は中村彼方さんの「ああ 私たちは何者でもない」という歌詞が届いて一気に世界が開け、歌のレコーディングで九九組メンバーたちの歌声が重なっていくたびに楽曲の輝きは増し、楽器はかつて経験したことが無い程の大編成のレコーディングを敢行し、”1曲で2時間半並みのボリュームが詰め込まれた、とんでもなく壮大な曲 ”が完成したわけですが、この辺りの詳細は、初回限定盤のブックレットに寄せたコメントと、映画のパンフレットに収録されている、中村彼方さんと山田公平さんと僕との鼎談インタビューを是非ご覧ください。

 『スタァライト』は、作品に携わっているすべて人たちが巨大な1つのキラめきになっていると思います。この曲を書く機会をいただけて、そしてこのキラめきの一部を担うことが出来て、本当に感謝しております。

 最後に、「再生讃美曲」の制作期間中に、世界は大変な状況に突入してしまいました。まさに楽曲が完成してすぐ後には日本に於いても緊急事態宣言が発令され、不安な日々を過ごすことになりました。こうした状況はまだ続きそうですが、様々な分野で、本当に大勢の人たちが頑張っています。
 そんな状況下で、1度は延期されながらも、映画は公開され「再生讃美曲」も発売される運びとなりました。
 だからこそ、『スタァライト』のキラめきがさらに大きくなって、たくさんの人たちにとって、希望の光になることを祈っています。

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スタァライト九九組 / 再生讃美曲

Lyrics : Kanata Nakamura
Music & Arrangement : Junichi Sato(fhána)
Orchestral Arrangement : Hinako Tsubakiyama(Dream Monster)

Bass : Yu Suto
Drum : Hiroyuki Suzuki
Guitar : Yosuke Yamamoto
Piano : Takurou Iga
Chorus : Nona Iwamura

Strings :
1st violin - Yu Manabe, Ayaka Jomoto, Eriko Ukimura, Shuga Hayashi
2nd violin - Naoko Ishibashi, Ayaka Notomi, Yuri Kamei, Natsumi Okimasu
Viola - Masaki Shono, Hyojin Kim, Atsushi Nagaishi
Cello - Toshiyuki Muranaka, Takayoshi Okuizumi
Contrabass - Masayuki Kimura

Woodwind :
Flute : Kei Sakamoto
Oboe : Mayuko Morieda
Clarinet : Hidehito Naka
Fagotto : Osamu Fukui

Brass :
Trumpet : Sho Okumura, Hitomi Niida
Trombone : Eijirou Nakagawa, Keiichiro Sato
Hron : Kaname Hamaji, Shu Ohigashi, Sekitoshi Nobusue, Masaaki Mukai

Vocal Direction & All Other Instruments : Junichi Sato(fhána)


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