ミライの小石05. 人々を救うのは、由緒ある地名?まったく新しい地名?
誰しも、地名を読み間違えて、つい恥ずかしい思いをしたという経験を持っているのではないでしょうか。
日本語は難しいもので、普段使わないような難読漢字を用いた地名ならいざ知らず、町を「まち」と読むか「ちょう」と読むかだって悩ましい。読み間違いはたいてい笑い話で済むのだけれど、笑い話で済まなかった……というニュースを2つほど目にしました。
まずは、浜松市の大雨発生時の緊急速報メールで発生した誤読の事例です。2022年6月7日の中日新聞によれば、詳細は以下の通り。
災害の発生が見込まれ、住民が避難するかどうかの瀬戸際に立たされているとき、耳慣れない誤った読みの地名が突然飛び込んできては、混乱もやむなし。地名の読み間違いは人命をも左右しかねないといっても過言ではないでしょう。
そもそも地名は一般的な読みと異なるうえ、脈々と変わるものですし、なんなら同時代を生きていても個人によって呼び方が違うこともザラです。喫緊の対応が必要な災害の場面でどの読みを登録するか、そもそも音や文文字以外の情報伝達手段はないのかといった課題が浮かび上がってきます。
もうひとつは、新潟県のタクシー運転手が、客の地名の読み間違えを不審に思い、警察に通報したところ、客が他地域から訪れた特殊詐欺の受け子だということが判明したニュースです。
少年はタクシーで行き先を指定する際、「分水(ぶんすい)学校町」を「分水(ふんすい)学校町」、「西蒲区(にしかんく)」を「にしうらく」と読み間違えたそうです。(※1)
少年にとっては詰めが甘かった格好となりました。見方を変えれば、詐欺が未然に防がれたわけで、地名が人を救ったといえなくもない いえるいえる事象でしょう。近年、都心部では配車アプリが普及し、客はタクシー内で地名を読み上げずとも目的地に到着できます。煩雑なコミュニケーションからの解放ともいえるでしょう。
とはいえ、地名をめぐるやり取りは間接的に人を救うという、皮肉な事例でした。
地名は簡素化するものです。住居表示により伝統的な地名が消える、ニュータウンらしい縁起の良い地名が誕生したり……土地と全然紐づかない地名を生みだす動きだってあります。
ロンドンの情報テック企業 What3words は、世界中のを3メートル四方に区切り、どんな場所でも固有の3つの単語(ごつごつ・うるおい・きおく など)の組み合わせで表現することを可能にしたそうです(※2)。
へき地での人命救助や待ち合わせなど、ランダムな語群からなる地名が役立ついろいろな場面が見えてきます。
さて、地名に問われる意義はどのように変わるのでしょうか。人を救い、コミュニケーションツールにもなる地名が、時として人に牙をむくこともあるかもしれません。いまや人のあるところにもないところにも、地名が現れては消える時代といえそうです。小石のように転がっている身近な地名に思いを寄せ、操作可能なものとして捉え直すことで、暮らしをより豊かに、幸せにする手立だてを探りたいものです。
※1 “受け子”逮捕に協力!タクシー運転手へ感謝状【新潟】 県内ニュース | NST新潟総合テレビ
2023年2月13日
※2what3wordsについて | what3words https://what3words.com/ja/about
2023年2月13日閲覧
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