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病院総合医のキャリアパス〜公衆衛生大学院編〜

皆さん、こんにちは。京都大学 大学院医学研究科 医療経済学分野 博士課程の長野と申します。私は医師11年目になりますが、昨年度より京都大学の公衆衛生大学院に進みました。まだ病院総合医のキャリアとして公衆衛生大学院に進まれる方は少ないと思いますので、その経験をここに綴らせて頂きます。

京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻、通称 京大SPH(School of Public Health)は2000年に創立された我が国最初の公衆衛生大学院であり、私の在籍する医療経済学分野を含め多彩な分野・コースが存在します。

http://sph.med.kyoto-u.ac.jp

私が京大SPHに進学することを意識したのは初期研修〜医師6年目までを過ごした天理よろづ相談所病院でのことでした。先輩方に京大SPH出身の方が何名かおられ、キャリアの1つとして考えるようになりました。また天理よろづ相談所病院では初期研修で1年に1回研究アイデアを自分で考えた上発表するResident Coffee Break(RCB)と呼ばれる取り組みがあります。RCBを経て研究をする素地はできるものの、忙しい臨床現場で中々研究に割く時間がありませんでした。将来臨床現場で研究を行う、研究を指導するためには一度腰を据えて研究に集中する時間を取るべきと考えました

7年目に異動する際もその後の京都大学への通学を考慮し、京都の洛和会丸太町病院で働きました。そしてオープンキャンパスなどで大学院のことを知りながら2020年度に京都大学 大学院医学研究科 医療経済学分野 博士課程に進学しました。オープンキャンパスは毎年4月〜5月に行われます。各教室の教授や教員、大学院生と話せる貴重な機会ですので、興味のある方は是非ご参加ください

大学院のコースは主に以下の3つに分かれています。私ははじめ2年制MPHコースを考えておりましたが、メンターの先生とお話し4年という時間がかかっても将来大学で働く可能性があるのならばPhDコースの方が良いのでは?ということで医学専攻 博士課程に進みました。ただ全ての研究室で医学専攻 博士課程のコースがあるわけではないので注意してください

・ 医学専攻 博士課程(PhD:Doctor of Philosophy):4年制。
・ 社会健康医学系専攻 専門職学位課程:1年制MPH(Master of Public Health:修士)コース、2年制MPHコース、臨床研究者養成(MCR)コースなど
・ 社会健康医学系専攻 博士課程(DrPh: Doctor of public Health):3年制。メインはMPHが終わった人が対象。

PhDコースでは4年間常勤につくことはできません。私は現在週1回在宅診療クリニックの非常勤をしています。当初はかなり勇気のいる選択でしたが、今は1つの医療機関にとらわれず様々な医療現場で経験できる貴重な時間と考えています。

また大学院の研究自体も忙しく、それほど働く余裕は無いと感じています。ちょうど10年目前後はライフコース的にも育児など様々な事が起こるタイミングでもあり一度臨床を離れるのも選択肢に入れても良いのではないかと思います。もちろんデメリットもあり、臨床力の低下・金銭的問題・総合診療医との交流の減少などを感じています。

京大SPHの特徴の1つにMCR(臨床研究者養成)コースというのがあり、臨床医を限定とした1年コースです。以下のようなMCRコース限定授業があり、受講すると1年目の前期はかなり忙しいです。

・文献検索法、文献評価法
・臨床研究計画法
・医療技術の経済評価
・医療統計学
・行動科学
・産業、環境衛生学
・疫学
・医療の質評価
・医療制度、政策

MCRコース修了時に全ての学⽣が⾃分の臨床上の疑問に基づく臨床研究を完成させます(研究プロトコールも認められます)。また教授たちを前にした発表会で試問を受け合格する必要があります。厳しいスケジュールですが15名ほどの受講者がおり一体感も生まれました。このコロナ禍で直接会うことはほとんどありませんでしたが、今も一緒に勉強会を続けています。

1年目は授業がメインでしたが、2年目からは自分の研究が主になります。私も1年目の後半から実際に研究に取り組み、日本のおける市中肺炎の入院患者数と重症度に対するCOVID-19流行の影響をDPCデータを用いて分析し論文化しました。現在は自分の研究を進めながら統計学、統計ソフトの使い方、因果推論などの勉強をしています。

病院総合医を含むプライマリ・ケア領域はまだ他の専門科に比べて、研究の発信が少ない現状があります。一定期間、研究を腰を据えて勉強することはその後のキャリアで研究という武器を手に入れるだけでなく、新しい人との出会いを得ることもでき視野が広がります。ご興味ある方は是非進学をご検討ください。相談したいことなどあればtwitterなどから遠慮なくご連絡ください。

文責:長野 広之(京都大学 大学院医学研究科 医療経済学分野 博士課程)twitter ID: nagano_1123

※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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