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入院診療で役立つ家庭医療学

5月21日から、第12回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会が開催されますね。当チームは、“病院総合医第 7 世代の秘密教えます!〜EBM 教育編〜”と題して、【教育講演】枠でオンデマンド配信を行います。

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参加登録はこちらから、5月23日まで可能です。よろしくお願いします!


というわけで、今回は、昨年の第11回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で行った企画を振り返ってみます!「家庭医療学のスキルをどのように病院診療に活かしていくか?」というテーマにレクチャーを行いました。

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<症例提示>

2型糖尿病で足趾切断歴のある75歳女性。すでに糖尿病合併症である神経障害、網膜症、腎障害も発症していて、他にも高血圧症、心筋梗塞(3枝病変だったがCABG実施せず)、MRSA骨髄炎の既往もありました。夫、息子2名、孫2名と同居していて、ADLは一部介助を要する程度。
10日前に出現した腰部および左下肢の疼痛が、徐々に悪化し発熱や食思不振も伴うようになり、病院を受診しました。
精査の結果、臀部に膿瘍を形成していることが判明し、穿刺で得られた膿からはMRSAが検出されました。
入院し、抗MRSA薬で治療を開始するも、急性腎障害や横紋金筋融解症などの合併症、狭心症発作が出現。入院も長期化していた中、入院してひと月半も経った頃、突然心肺停止となってしまいました。幸いにも自己心拍再開が得られ、原因と考えられた冠動脈3枝病変に対するPCI(経皮的冠動脈インターベンション)を勧めたところ、患者さんは拒否したのでした…。どうやら、度重なるネガティブイベントで、抑うつが出現・悪化しているようでした。

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担当医の思い
"心原性疑いの心肺停止で、冠動脈3枝病変ももともと指摘されているし、PCIはきっと必要になるだろうな..."
"彼女にとってPCIを行うことはどこまでメリットがあるのだろう"
"なんと言って冠動脈治療を勧めれば良いのだろう"
"どのようにコミュニケーションを取れば良いのだろう"

PCIを拒否する患者さんを前に、担当医は途方に暮れたのでした。
皆さんなら、どのように対応するでしょうか?

<Disease Illness model>

この問題を解決するための一つ考え方として、“Disease Illness model”をご紹介しました。もしかしたら聴き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんね。

皆さんはこちらのコップのイラストを見て、どう感じますか?

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我々は、物事を「自分の見たいように」しか見えません
そのため、見る人同士で話が噛み合わない、ということが起こり得ます。

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医学も同じ。
ある“症状”を、医科学の視点で見るとDisease患者の視点で見るとIllness
医師は「いろいろ調べたけど、病気(Disease)は見つからなかったから大丈夫ですよ」
患者は「でも、胃が痛くて困っているんです(Illness)どうしたらよいのですか」
と、噛み合わない…。

医科学は“科学”として発展したので、実証できること(病理学)、抽象化できること(診断は何?)が重要視され、心と体を分けて考え(壊れた臓器はどこ?)てきました。感染症やケガを診るのにはとてもフィットした考え方で、医科学は発展してきたのですが、実証できない心に関するIllnessは“科学”の対象外でした。
しかし、時は流れ、不都合な真実がわかってきたのです。たとえば、
・「ストレス」は心血管リスクになる
・「孤独感」は死亡率に影響する
・「患者医師関係」は治療効果に影響する など…。

これらは“医科学”では説明しきれません。そこで、患者の視点“Illness”も科学しよう!と学問としての家庭医療学が生まれました。


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<ICE StAR モデル>

Disease Illness modelを理解していただいたところで、じゃあ具体的にどうアプローチすればいいのか。ICE StARモデルをご紹介します。

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今回の症例では、以下のようにアセスメントしました。

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これをもとに、実際に介入した内容は、以下のようなものでした。

・誤った解釈に基づいた意思決定をしないよう、病状や症状の原因、PCI治療のメリット・デメリットを繰り返し説明
・抑うつ状態にあると判断し、抗うつ薬の開始と心理カウンセラーの介入を依頼
・家族と会話する機会を作り、家族にもケアへの参加を依頼
・治療終了後の生活への期待を聴き、前向きになれるよう促した

その結果、患者の気持ちに変化が生まれ、最終的にはPCIを受けることに決めました。


<あとがき>

いかがだったでしょうか? Disease Illness model, ICE StAR モデル, 困ったときにはもしかしたらこの考え方が役に立つかもしれません。
病院勤務でも使える家庭医療学のスキルは他にも沢山あります。
他のスキルはまた次の機会に…。


※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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文責:松本朋樹 熊本大学 総合診療科 天草地域医療センター
   平松由布季 東京ベイ・浦安市川医療センター


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